数多くのロック・レジェンドたちを撮影してきたカメラマンにして、ウェブページ〈久保憲司のロック・エンサイクロペディア〉を運営するなど音楽ライターとしても活躍しているクボケンこと久保憲司さん。Mikikiにもたびたび原稿を提供いただき、ポップ・カルチャーについての豊富な知識とユーモラスな筆致で、いずれも人気を博しています。

そんなクボケンさんによる連載が、こちら〈久保憲司の音楽ライターもうやめます〉。動画配信サーヴィス全盛の現代、クボケンさんも音楽そっちのけで観まくっているというNetflixやhuluの作品を中心に、視聴することで浮き上がってくる〈いま〉を考えます。今回のお題は、フジテレビとイースト・エンタテインメントが制作し、Netflixにて配信中の大人気リアリティー・ショー「テラスハウス」。番組MCの1人、山里亮太さん(=山ちゃん)が蒼井優さんとの結婚を発表したばかりということで、ますます注目を集めている同番組は、なぜ2012年の放送開始以降、ここまでファンを増やし続けているのか。その魅力に思いを巡らせました。 *Mikiki編集部

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山ちゃん、蒼井優さん、ご結婚おめでとうございます! 山ちゃんは世界中のオタクに希望を与えました。蒼井優さんと交際できたのは、山ちゃんの相方しずちゃんが「フラガール」(2006年)で共演して、お友達だったことがいちばんの理由だったからですかね。でも山ちゃん、「テラスハウスのご機嫌なゴシップ手に入りました」とデートに誘うのは倫理観に反するぞ! しかし2回目の食事で告白したのはすごいことだなと思います。

2回目での告白、これはやっぱり「テラスハウス」のMCである山ちゃんらしい作戦だと思います。「テラスハウス」を観ていて、早く告白していたら、もっといい展開になると思うのに、誰もなかなか好きと告白しないんですよ。と思っていたら、最新シリーズ〈TOKYO 2019-2020〉では、莉咲子が流佳とスピード(トランプですよ)をやったあと、ボソッと告白する衝撃のシーンで最新回は終わりました。いやー、このなんか言ったか言わないかのような告白が日本的なのかもしれませんね。

でも「すぐにヤッちゃダメだよ」と、番組のディレクターからと言われているんでしょう。違った、「すぐに告白しちゃダメだよ」と。普通はすぐにヤッちゃうと思うんですよね、2、3回目で。また間違えた。普通はすぐに告ると思うんですよね。あんなにイケてる人たちが集まっていたら。

オーディションのときにヤリマン、ヤリチンそうな奴ははじかれていっていると思います。どちらかというと引っ込み思案そうな人を選んでいっているんだと思います。とはいえ、いつもヤリマン、ヤリチンそうな人を一組は投入しているんですけど、ヤらないんですよね。みんなオクテというか世間でいうとアカン人たち、〈サークルクラッシャー〉みたいな人ばかりが6人集まった構図になっていると思うのです。サークルクラッシャーってすぐ誰とでもヤるような人と思われがちですが、〈好き〉という光線は誰かれ構わず出しても、ヤらないんですよね。

「テラスハウス」はヤリマン、ヤリチン、普通の人、普通の人、純情、純情という組み合わせな気がします。クロちゃん(安田大サーカス)が「テラスハウス」をパロディーした「モンスターハウス」では、その構造をよくわかっているうえで、完全にヤリマンの人を1人投入していたので笑いました。「モンスターハウス」はモンスター(=クロちゃん)、ヤリマン、普通の人、普通の人、純情、純情という組み合わせだったわけですが、わかりやすくモンスター、ヤリマンを投入しても状況はゴチャゴチャしなかったですね。クロちゃんは普通に純情、普通の人という流れで好きになっていきました。

そりゃそうだ、TVではヤれない、ストリーミングでもヤれない。本当のシェアハウスは地獄ハウスというかヤリハウスになってしまうんですけどね。シェアハウスを経営している人は、1軒では生活できるほど利益を稼げないので、大体5軒くらいのシェアハウスを経営してることが多いんですけど、「ジクソーパズルみたいだ」と言います。揉めたやつを他の場所に動かすとうまく収まったりするみたいです。〈渋家〉みたいなアートというか壮大な社会実験のような場所はヤリハウスにならないんですが、世にいう一般的な男女シェアハウスはそうなるのです。だからいまは男性と女性は別々のところが多いそうです。当たり前か。もしくは男性エリア、女性エリアと明確に分ける所が多い。ちょっと区分けするとヤらないみたいです。動物園か!

ヤるとややこしくなる。ヤらないことでおもしろくなる。これが「テラスハウス」の醍醐味か! 違う!!!!!!

蒼井優ちゃんも大好きな「テラスハウス」、やっぱり純愛のところがいいんです。海外のリアリティー番組もヤってないですけど、ドロドロしてそうじゃないですか。リアリティー番組のエグさをネタにした「UnREAL」(2005年~)という海外ドラマもあります。でも日本のは安心して観れるというか、そういう意味で「テラスハウス」は海外でも大人気なんです。やっぱりみんなホノボノを求めているんだと思います。

海外ドラマのエグさに疲れたとき、僕は日本の「テラスハウス」をオススメします。僕らの世界とは違った夢の世界、理想郷なんですよ。そのなかでいちばん毒を吐いていた山ちゃんが幸福な人生を掴んで、それもまたいいじゃないですか。ほとんどの人が、番組であれリアルであれ、こいつら何か事件を起こせと思って観ているんでしょうけど、いや、ここはそれを忘れて、こんないい世界があるんだと思って観続けましょう。