ラプチャーやフアン・マクリーンらを輩出したレーベル〈dfa〉の首謀者にして、アーケード・ファイア『Reflektor』(2013年)やデヴィッド・ボウイの遺作『★』(2016年)など数多くの作品に貢献してきたジェームス・マーフィー率いるエレクトロ・ロック・バンド、LCDサウンドシステム。2011年に解散を宣言するも、2015年にリユニオンを発表し、以降は今年の〈フジロック〉への出演を含めて精力的にライヴ活動を行なってきた彼らが、7年ぶりとなる新作『American Dream』をリリースした。
同作には、〈フジロック〉でも披露されていた“Tonite”“Call The Police”“American Dream”を含む10曲を収録。屈強なファンクネス漲るダンス・ビートと、攻撃的なギター・サウンド&ヒプノティックなシンセを重ねた、ブランクを感じさせない力強いパンク・ディスコを鳴らしている。また、ジェームスらしい自虐的なアイロニーと甘苦いロマンティシズムを同居させたリリックも健在。昨今の暗い情勢に加えて、ルー・リード、ボウイ、プリンス……レジェンドたちの相次ぐ死も反映されたのだろう。タイトルに冠した〈アメリカン・ドリーム〉の衰退と、その残り火のような輝きを炙り出している。
なぜ、ジェームス・マーフィーは本作を〈アメリカの夢〉と名付けたのか? そもそも、有終の美を飾ったように見えたバンドが、いささか短期間とも思えるスパンで再結成したのはどうしてなのか? その背景にはボウイの〈遺言〉とも捉えられる言葉があったという。今回は、オアシスやニルヴァーナなどを撮影してきたカメラマンにして、「久保憲司のロック千夜一夜」を刊行するなど音楽ライターとしても活躍する久保憲司が、復活の理由について考えた。 *Mikiki編集部
LCD サウンドシステム、ジェームス・マーフィーが帰ってきました! 〈フジロック〉でのライヴも大評判!! 復活作『American Dream』がこれまた良い。みなさんよくわかっているようで全米一位です。
しかし、彼らってこんなにビッグなバンドでしたっけ、アンダーグラウンドの硬派(軟派かな?)なバンドという印象しかなかったのに、びっくりです。ジェームス・マーフィーは〈40歳になったら、バンドは止めよう〉と決めていたとのことで、突然の解散ライヴは2011年4月2日のマジソン・スクエア・ガーデンでした。
そんな彼らが、なぜ今回復活したかというと、デヴィッド・ボウイに〈バンドをやっているのは居心地悪いだろ? そうあるべきだよ、だからやれよ〉と言われたからだと。ホンマか! 死人に口なしということで、適当なこと言ってんじゃないですかね。
カイザー・チーフスがボウイのプロデューサーとして有名なトニー・ヴィスコンティとアルバムを作っているときに〈ボウイから詩の助言を受けてね、ちょっと直したんだ〉とインタヴューで言っていたら、ヴィスコンティから〈そんなことはなかった〉と暴露され、大恥を書きましたが、そんなことないですかね。
LCDサウンドシステムは『Lodger』(79年)、『Scary Monsters(And Super Creeps)』(80年)の頃のボウイに似ているところはあるんですが、名曲“All My Firiends”のMVでジェームス・マーフィーはピーター・ガブリエルのメイクをして歌っているじゃないですか! レディ・ガガがやるようなボウイのメイクよりもカッコいいですけど、マイナーすぎて誰も気付いてないすから。でも、1975のマシュー・ヒーリーが〈“All My Firiends”はピーター・ガブリエルの“Sledgehummer”みたいで大好きだよ〉と彼のフェイヴァリット・ソングとしてあげていたので、わかっている人はわかってくれているのです。
〈バンドをやっているのは居心地悪いだろ? そうあるべきだよ、だからやれよ〉なんて言いますかね。でも、この言い方がボウイらしいんですよね。ジョニー・ライドンが、セックス・ピストルズを辞めたとき、ルー・リードとボウイが2人がかりで〈お前はこうするべきだ、ああするべきだ〉とグダグダ言ってきたので、ちょうど横にいたイギー・ポップのところに行って〈あいつら、いちいちうるせえんだよ、あんたはそんなこと言わないだろ〉と2人で酒を飲んだというのは有名な話です。
ボウイはルー・リードに〈君はちゃんとしたプロデューサーをつけるべきだ〉と言って、〈誰も俺にそんなことは言わせない〉と殴られたわけですが。そんなことで殴るなよとも思いますけど、ボウイもしつこかったんでしょう。モリッシーとも突然音信不通になったのも、きっとなんか失礼なことを言ったのでしょう。
ボウイのおかげでLCDサウンドシステムが復活したのはいいことです。僕もボウイと同じことを考えていたんですよね。バンドを辞めて〈レーベル運営、プロデュース業に力を注ぐ〉とジェームス・マーフィーは言ってましたが、今のご時世、コンピューターを触っていたら、音楽ソフトを立ち上げて、音楽を作ってしまうと思うんです。バンド運営は色々と大変だけど、1人でコツコツとやっていたらやっぱり楽しい。〈俺やりたい〉と言う気持ちになると思うんです。でも、今の音楽ってバンドやっていた人がそうやって作ると、なんかちょっと物足りないものになってしまうんです。
そのいい例がダーティー・プロジェクターズだと思うんですよね。最新作『Dirty Projectors』(2017年)は1人になって、なんか寂しい感じしかしないんですよ。コンピューターに録音していくとしても、やっぱりたくさんの人と〈ああでもない、こうでもない〉とやるなかから良いもんが生まれてくると思うのです。本当、今だとコンピューターにすべての音が入っているので、何だってできるんです。それで全部作って、それを聴かせて、〈ここ差し替えてくれるかな〉と言っても、何も新しいものなんか生まれないですよ。
LCDサウンドシステムの新作『American Dream』がなぜ良いか、バンドの空気感が流れているからだと思うのです。1曲目の“Oh Baby”は2017年のスーサイドのようで、2曲目“Other Voices”は『Remain In Light』(80年)の頃のトーキング・ヘッズ、続く“I Used To”は『Scary Monsters(And Super Creeps)』の頃のボウイみたいで、しかもヴォーカルがコールドプレイのクリス・マーティンよりもセクシーでエモーショナル。ジェームス・マーフィーってこんなにヴォーカルうまかったか、と思いました。
そして、4曲目の“Change Yr Mind”は元ネタのブライアン・イーノとデヴィッド・バーンよりも刺激的。次の“How Do You Sleep?”はパブリック・イメージ・リミテッド“Flowers Of Romance”をポップにした感じ。“Tonite”はシンセ・ベースで何百回とイけます。
7曲目の“Call The Police”は、LCDサウンドシステムらしい生ベースからはじまる、泣ける曲。表題曲の“American Dream”は〈朝起きてアシッドやって、鏡を見てみろ〉というフレーズがこれまた切ない曲だ。カウンター・カルチャー(アメリカン・ドリーム)が今どうなっているか見ろと、僕たちに投げかけている。
9曲目の“Emotional Haircut”はエコー&ザ・バニーメンなドンドコ・ドラムとギンギン・ギターのポスト・パンキッシュなサイケ・ナンバー。そして、“Black Screen”――最後はボウイに捧げた曲でしょう。〈なぜ彼ともっと時間を一緒に過ごさなかったのか〉と悔やんでいる。
捨て曲なしの10曲。ジェームス・マーフィーが好きなものだけを並べたアルバム。コンピューターが作るものじゃない生のグルーヴが最高に気持ちいい。このアルバムがコンピューターを使っているのか/使っていないのかはわからないですけど、昔クィーンがアルバムのクレジットに〈このアルバムにはシンセサイザーを使っていません〉と入れたように、いつか誰かが〈このアルバムにはコンピューターを使っていません〉と入れる人が出てくるでしょう。その先駆けのようなアルバムだと僕は思う。
ドラム、ギター、ベース、シンセ、ヴォーカルで楽しくヘンテコな音楽をみんなで作る。〈アメリカン・ドリーム〉は消えてしまいそうだけど、ふたたび楽しくやっていたら、また新しい夢が生まれるんじゃないか、何もやめる必要はないんじゃないか。そう思わせてくれるアルバムだ。