撮影:渡邉修 提供:金沢21世紀美術館

美術館が演劇やダンスをサポートする。金沢21世紀美術館の〈アンド21〉とは?

 白い建物とそれを囲む緑の広場の美しさ、恒久展示作品の楽しさ、企画展の攻めの姿勢で、地方の文化施設としては群を抜いた注目度と人気を誇る金沢21世紀美術館(通称・21美)。外と敷地を分ける柵や壁を設けず、無料ゾーンも充実させ、多くの人にアートの楽しさを開いていくミッションを自認している21美が、オープン以来、演劇やダンスにも積極的な関わりを持っているのはご存知だろうか。

 その柱のひとつが2016年からスタートした〈アンド21〉で、公募で企画を募り、1年に3、4組の劇団、ダンスカンパニー、映像集団、あるいはそれらを横断する若手団体を選び、共催という形で活動をサポートしてきた。

 この〈アンド21〉が、昨年度から態勢をリニューアルし、さらなる展開を目指して舵を切った。演劇、ダンス、映像、ジャンルレスの団体を対象にする点は変わらないが、選考委員を公表し(*)、アーティストと地域の交流、次世代に続くアーティストの育成という目標を改めて明確に掲げた。そして〈金沢とのつながり〉も意識していくという。

 では〈金沢とのつながり〉とは具体的に何を意味するのだろう? 21美がハード面でもソフト面でもこだわってきた、開かれた美術館という姿勢と反することにはならないだろうか? その点について館長の島敦彦は「地方から中央へ、地方から地方への文化の発信を考えている」と説明する。

 長らく日本では、情報や文化、芸術や娯楽が、発信も受信も東京の一極集中という問題があった。現在でも完全に解決したわけではないが、新潟の〈大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ〉の継続や、高松と香川をまたぐ〈瀬戸内国際芸術祭〉の成功などによって、確かにこの10年、状況はかなり変化してきた。東京を経由しない作品、人と人の交流が確実に生まれ、少しずつ増え、それらが独自のネットワークをつくり出しているのだ。そうしたポテンシャルを持った地域はまだあり、金沢はそのひとつというわけだ。

 「よく知られているように、昔から金沢には、さまざまな芸術に親しむ土壌、芸術への理解があります。それはつまり、新しい表現が観たいという潜在的な欲求があることだと私たちは捉えています。また、アーティスト側に立ってみても、東京以外のどこで作品をつくるか、発表するかを考えた時に、活動しやすい地域はあり、仕事をしやすい相手はいると思うのです」と島は言う。同館交流課の川守慶之は「たとえばワークショップを金沢で開き、自分たちの創作方法を地元の人と共有してくれるといったことで良いんです。〈アンド21〉は採択団体との共催事業になるので、こちらができることは限定的にはなりますが、まず繋がることで、これまでにはない地域や施設との関係をつくっていきませんか、と提案したい」と話す。

 東京からの矢印、東京への矢印ではなく、別々の地域で活躍していた人たちが金沢に集まり、小さな点をさまざまな線にしていく。あるいは、小さな点から少しずつ水紋を広げていく。昨年、リニューアル第1弾として選ばれた4団体の公演が今年下半期に順次発表される。最初はわずかな変化かもしれないが、そこで起こる化学反応は目撃しておいて損はない。

 実は第2弾の選考もすでに決定しており(**)、これからも〈アンド21〉は継続していく。では翻って、そもそも美術館がダンス、演劇、映像といった美術以外のジャンルを取り上げる理由は何なのか? 再び島に聞いた。「この10年ほど世界的に、美術とパフォーマンスの領域は互いにかなり接近しています。もとを辿れば80年代に活動を始めた日本のアーティストグループ、ダムタイプになりますが、近年になるほどこの流れの勢いは大きくなっています。キュレーターなど美術界の人間は、ダンスはもちろん演劇も観なければ置いていかれるというのは今や常識で、それらを分けること自体がナンセンスになりつつある。それは美術館の意味、役割が変わってきているということで、当館の(〈アンド21〉を含む)パフォーミングアーツプログラムは、その中で当然の流れなのです」

 この言葉を聞いて、4年前、カナダのトルドー首相が閣僚を男女同数にした時のことを思い出した。その理由を聞かれた首相は「(今が)2015年だから」と答えた。その短い答えには、私たちは既得権や慣習に盲目的に従う時代を過去のものにし、フラットで開かれた状態を普通にしていくべき、もうその時代を迎えているはずだというメッセージが込められていた。美術館が演劇やダンスを上演し、演劇やダンスのつくり手と地元の人々が交流する機会をつくり、従来とは違う文化や人のルートを開拓する場所になる。私たちはそれを享受すれば良い。そのアクセスが美術館という場所のアップデートにつながる。なぜか? それは、今が21世紀だから。

(*)2019、2020年度事業選考委員:井口時次郎(LLP 技屋)、佐々木透子(『intoxicate』編集長)、島敦彦(金沢21世紀美術館 館長)、徳永京子(演劇ジャーナリスト)、吉田雄一郎(城崎国際アートセンター プログラム・ディレクター) 50音順  (**) 詳細は、金沢21世紀美術館ウェブサイト「アンド21」ページからご覧下さい。

 


アンド21(芸術交流共催事業)
会場:金沢21世紀美術館 シアター21

最後のオーケー
2019年9月6日(金)- 2019年9月8日(日)
おどり:100いまるまる 音楽:Otnk 映像:澤山工作所 照明:宮向 隆 音響:矩 一浩
www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=147&d=30

鈴木ユキオプロジェクト「春の祭典」
2019年10月22日(火)- 2019年10月27日(日)
www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=146&d=31

映像ワークショップ「テレビ王国の憂愁80s─MTV、ジャンボトロン、INFERMENTAL」
2020年2月7日(金)- 2020年2月11日(火)
www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=25&d=1879&gid=69

優しい顔ぶれ
作:南出謙吾
演出:森田あや
2020年3月14日(土)- 2020年3月15日(日)