多面的な才能を発揮するシンガー・ソングライターがいよいよメジャー・デビュー! 生命力に溢れた歌と言葉で聴き手の魂を救うポジティヴな名盤が誕生した!
外に向かって放り出せた
〈出会った人、目の前にいる人をみんな幸せにしたい!〉というピュアすぎる思いに溢れた歌詞、あまりにも生々しい感情がドーン!と突き刺さってくるヴォーカル、自由に飛び跳ねる鍵盤を中心としたカラフルなサウンド。爆発的なエネルギーを放つ、濃密にしてポップな音楽性で注目を集める83年生まれの女性シンガー・ソングライター、つるうちはなが、アルバム『サルベージ』でついにメジャー・デビューを果たした。
2006年のミニ・アルバム『メロディー』で本格的な活動をスタートさせ、2011年には〈SUMMER SONIC〉にも出演している彼女。自身の活動と並行して、ATSUGI×最上もが〈柄、じゃない?〉〈してみタイッ!〉をはじめとするCMソングや、アーティストへの楽曲提供を数多く手掛けるなど、作家/プロデューサーとしても活躍中。さらに2016年には女性アーティストを中心としたレーベル、花とポップスを立ち上げるなど、多面的な活動を続けている。そんななかで届いた新作『サルベージ』は、まさに満を持してのメジャー・デビュー作。〈海難救助〉を意味する言葉をタイトルに据えた本作の軸になっているのは、「聴いてくれた人を幸せにして、助けられるようなアルバムを作りたい」という明確にして純粋なモチヴェーションだ。
「いままでは〈私のことをわかってほしい!〉と突進してる感じもあったんですけど(笑)、それが解消されてきたんですよね。自分自身に対する執着やこだわりがなくなったし、音楽でやれることがあるとしたら、誰かを幸せにすることしかないなと。今回リリースさせてもらうコロムビアのスタッフとの出会いも大きかったです。ずっとセルフ・プロデュースで、タイトルもコンセプトも収録曲もすべて自分で決めていたんですが、今回は信頼できる人たちと一緒に作った感覚があって。〈やりたいことを人に伝えるためには、こういうやり方がありますよ〉といろんなアイデアをもらったし、自分の音楽を初めて外に向かって放り出せた手応えがありますね」。
孤独や葛藤や煩悩を抱えながらも〈自分らしく進んでいきたい〉という強い意思を反映させた“新次元ガール”、辛い状況にある友人に向けて〈前向きに生きていくためのおまじない〉をテーマに制作されたアッパー・チューン“おまじないを君に”から始まる本作。「フィクションでは曲が書けなくて。実際に経験したこと、友達の話もそうですけど、心を動かされたときに曲が出来るんですよね」という楽曲は、リアルな感情とポジティヴな意志に貫かれている。特に〈女性を元気にしたい〉という思いは極めて強いようだ。
「子どもの頃から超フェミニストなんです。カッコいい男の子よりも、かわいくて賢い女の子が好きだったし、女性に対する崇拝にも似た気持ちがあって。今回のアルバムでいえば、“宇宙の神秘女の子”には女の子に対する気持ちが思いきり出てますね。体内に宇宙があるようなものですから、女性は。女に生まれたというだけで肉体的にも社会的にもハンデを負ってる部分があると感じてるんですが、それを含めて、自分の足で立って、幸せになろうと決めている女の子を応援したいし、一緒にがんばろう!と伝えたいんですよね」。
いい曲が出来ると報われる
英会話の番組で知った“apple in my eyes(目に入れても痛くないほど愛おしい)”という慣用句を知り合い夫婦の幸せな姿と重ねた“apple in my eyes”、とあるAV女優に惹かれて男性目線で書いたという“あの子の裸を見たくない”、かつて一緒にアルバムを制作したプロデューサーが亡くなったことで制作に踏み切った切なくも愛おしいバラード“花”、そして、怒りと悔しさにまみれながらも〈ぶっちぎって光になる〉というフレーズによって前向きな意志へと昇華させる“ぶっちぎって光 -サルベージver.-”など、本作に並ぶのは彼女自身の生活や人生と直結した楽曲たち。「どんなにつらいことがあっても、いい曲が出来ると報われるし、めちゃくちゃ嬉しい。だから、すべての出来事に意味があるし、出会った人は全員大事なんです」というスタンスが貫かれているのも、このアルバムの生命力に繋がっている。
もう一つ強調しておきたいのが、ポップスとしての質の高さだ。クラシックを学んでいた小学生の頃に、矢野顕子の『WELCOME BACK』(89年:パット・メセニー、アンソニー・ジャクソン、ピーター・アースキンらを招いてジャズ/フュージョンの要素を押し出した作品)の楽曲を耳コピしたことでシンガー・ソングライターに興味を持ったという彼女。その奔放で自由なピアノ演奏はもちろん、ギター・ロック、ニューウェイヴ、パンク、エレクトロなどを自由に採り入れた色彩豊かなアレンジも、このアルバムの大きな魅力だろう。
「矢野顕子さんをきっかけにして、教授(坂本龍一)が関わっている作品、大貫妙子さん、中谷美紀さんなども聴くようになって。あとはポール・マッカートニー、ビル・エヴァンス、ダイナソーJr、アニソンやゲーム音楽も好きですね。好きなものに共通するのはコードワークのカッコ良さ。N.E.R.D.が大好きなんですけど、ファレルの和声は素晴らしいんですよ。……こういう音楽の話が出来るのは嬉しいです。私のキャラが強いみたいで、インタヴューでもなかなか音楽の話まで辿り着かないので(笑)」。
「音楽を介して、世界中の人と繋がりたい。1対1、心と心で会話して、お互いの人生を豊かにしたいんです」と笑顔で語るつるうちはな。人間に対する溢れんばかりの愛情、どこまでも自由にみずからの表現を追い求める姿勢、彼女自身の生き方や価値観が濃縮された『サルベージ』は、人と人を繋げ、ポジティヴな気分を増幅させるという意味において、ポップスのひとつの理想形なのだと思う。 *森 朋之
つるうちはなの近作。
『サルベージ』に参加した編曲陣の関連作を一部紹介。
左から、西村晋弥が在籍するシュノーケルの2018年作『NEW POP』(TURTLE)、タカユキカトーが在籍したひらくドアの2014年作『君と世界の歌』(OCTAVE)、タカタタイスケが在籍するPLECTRUMの2017年作『The Life Romantic』(インディアンサマー)、湯浅篤が参加したClariSの2019年作『SUMMER TRACKS -夏のうた-』(SACRA MUSIC)