Page 3 / 3 1ページ目から読む

ランデシ、ニンジョイ、ボディクー……ローファイ・ヒップホップは意外に深い沼だ

さて、しばしば匿名性というか、ビートの記名性の薄さが言われるローファイ・ヒップホップだが、実際はそうでもない。たとえばランデシであったら、BPMのレンジが他のビートメイカーよりやや高めで、リズムの工夫が際立っているのが〈Chillhop Radio〉からも伺える。もちろんアルバム『PLAYTIME&PLETHORIA』でも同様だ。J・ディラ以降的なヨレにおいてもハイハットの細かい刻みが効いているし、〈Chillhop Radio〉にも収録されている“Playtime”は6/8拍子で進む、たとえるならジャズに影響を受けたポスト・ロック・バンドのようなビートとリフのアンサンブルが面白い。

L'INDÉCIS PLAYTIME&PLETHORIA P-VINE (2019)

ランデシの2019年作『PLAYTIME&PLETHORIA』収録曲“Playtime”

ローファイ・ヒップホップらしさを一枚に凝縮した〈Chillhop Radio〉から離れてほかのP-VINEからのリリースに耳を傾けてみると、力強い鳴りのブレイクビーツとサウダージを湛えたサンプル選びがユニークなボディクー『BODIANOVA ~リオへの憧憬』や、サンプルのチョップ&フリップの手さばきとファットさに寄った音像がブーンバップ好きにもアピールしそうなニンジョイ『Masayume』など、聴きどころのある作品が揃っている。それでもなお、流れるようなメロディーとここちよいレイドバック感にたしかにローファイ・ヒップホップの精神が流れている。

BODIKHUU BODIANOVA ~リオへの憧憬 P-VINE(2019)

ボディクーの2019年作『BODIANOVA ~リオへの憧憬』収録曲“De Janeiro”

NINJOI. Masayume P-VINE(2019)

ニンジョイの2019年作『Masayume』収録曲“Nobody Like You (feat. Ben Hughes)”

ローファイ・ヒップホップをローファイ・ヒップホップたらしめる微妙な〈気分〉。その〈気分〉さえ掴んでしまえば思いの外自由なジャンルなのかもしれない。ネット・ミームとあなどるなかれ、ローファイ・ヒップホップは意外に深い沼だ。