〈スカート優勝! 5年ぶり2度目です〉。これはスカートのニューアルバム『スペシャル』の発売に向けて澤部渡自身が記した文章の冒頭部分だ。前回の〈優勝〉を5年前の10周年の時とし、今回はそれ以来とする自身の節目に対するユーモラスな表現で、これに合わせて野球選手になった澤部がお立ち台で声援に応えているビジュアルも公開された。いつのまにか見慣れた髭姿の面持ちに15年という数字を確かに思い知るが、誰もが思わず「おめでとう!」と声をかけたくなるナイスな〈優勝〉写真だ。
そこで、澤部にとって〈優勝〉とは何か?を考えてみる。頂点に立つ、最も優れている……という本来の意味とは別に、そこには音楽家としての高揚感、多幸感が当然含まれるだろうが、では、達成感、充足感はあるのか?と問われれば、実はその安易な満足感と格闘する15年だったのではないか?という気がするのだ。世の中、5年、10年という節目のみならず、8周年、11周年、16周年など特にキリのいい数字ではなくても記念とする向きもあるが、澤部はそれどころか毎年、あるいはほぼ毎日にようにアニバーサリーととらえ、果たして自分はどうだろうか?と向き合いながら音楽制作、表現を営んでいる。そこに適当な満足感はおそらく、ない。常に創造性を探り、自己と逡巡していることこそが、彼にとってのはえある〈優勝〉ではないか。15年というのはたまたまキリのいい数字だっただけで、今日も明日も明後日も、8日後も11日後も16日後もきっと〈優勝〉している。〈優勝〉し続ける。
しかも、澤部が格闘しているのは、ほかでもないポップス、ポピュラーミュージックである。これまでに数々の名士たちが歴史の中でフォルムやメソッドやスピリットを踏襲しながらも書き換え、時代の徒花になりうるリスクを背負いながら、前へ前へと進めてきた。ビートルズがそうだったように、ブライアン・ウィルソンが、ヴァン・ダイク・パークスが、スパークスが、細野晴臣が、ムーンライダーズが、そうであり続けているように、澤部も逃げることなくそこに向き合ってきた勇者の一人だ。
佐藤優介、佐久間裕太、岩崎なおみ、シマダボーイらライブでもお馴染みの面々に加え、柴田聡子、畳野彩加(Homecomings)、重住ひろこ(Smooth Ace)らも参加した『スペシャル』というニューアルバムは、そういう点でいうと、何の留保もなく最高傑作と言える決定版的な高完成度の作品ではない。いや、というか、完成してしまうことなど、あってはならないのだ。完成して満足していないから今日も澤部は、魔女や呪文に何かを重ね、窓の外の鉄塔を眺める。ここがゴールではない。終わることのない壮大なチャレンジのプロセスであり、逡巡することに大きな意味を持つ〈優勝〉なのだから。
※このインタビューは2025年5月25日(日)に発行予定の「bounce vol.498」に掲載される記事の拡大版です

答えがないトライアンドエラーを繰り返した15年
――15年という数字は重いですか。
「いやあ、重たいですけど、あっという間ですね。15年経った気がしないんですもん。本当にびっくりします」
――15年後をどのように想像していましたか。
「全然できなかったですね。もちろん、こうなっていたいなってモデルはいくつもありました。その上で始めた頃に考えたことがいくつかあって、1つは寡作にならないこと。もう1つは自分の毎日のことを歌う、というよりも、なるべく想像のことを歌うような……つまり一般的なシンガーソングライター的じゃないというか。
たとえば、すごく尊敬している、影響を受けた人はたくさんいます。でも、どんなに好きでも、そういう先人たちと同じやり方はできない。トライアンドエラーをして新しくしていくことが自分のやるべきことだと思うので。もちろん明確な答えがないことなので大丈夫かな?と常に思ってやっていますよ」
――カギであってきたのはあくまで〈やり方〉なんですね。逆にいえば、澤部さんが影響を受けてきた人たちで、〈やり方〉において今でも有効、もしくは倣えそうな例ってどういうものですか。
「正しい答えかどうかわからないんですけど……たとえば1970年代のシンガーソングライターは好きなんですが、彼らはその時その時のアレンジャーやバンドと一緒にレコードを作ってましたよね。極端な例ですけど、岡林信康さんのバックにはっぴいえんどがいたりとか。そういう部分だったりするのかな。つまり、ある意味で外交的であることが重要だと思って」
――澤部さんもtofubeatsさんやPUNPEEさんとコラボレートしています。
「そうそう。でも、2016年くらいまでそういうことがほとんどできてなかった。1つのきっかけとして、バンドメンバーにシマダボーイを入れた時、あれがとても大きな選択だったと思います」

ずっと同じことをしてるのが理想だけど、どうしても変わっちゃう
――越境する感覚、再定義する感覚に近いですね。その思惑はデビュー当初から持っていたのですか。
「『エス・オー・エス』(2010年)をリリースした頃は毎回メンバーを変えよう、ぐらいに思ってたんです。 自分なりの外交性がバンドに影響を与えるんじゃないかなと思って。でも、そのやり方は現代的ではないかも……という気もしてきたんです。ライブを見にきてくれても毎回メンバーが違うとお客さんも戸惑うだろうな、同じメンバーでやった方がわかりやすいかもって。それで同じメンバーで録音したりライブをやるようになったんです。で、今またライブごとに編成が違ってきてるんですけど(笑)。でも、それも偶然というか、自然にそうなった感じ。
当時、『ストーリー』(2011年)にかなりの手応えがあって、多重録音ではなくメンバーを固定してやっていくんだったら、新しい要素を入れないで、ひたすら同じようなアルバムを作っていく方が逆にリスキーだろう、そっちの方がワイルドサイドだろうと思ったんです。というのは、僕の好きなミュージシャンはアルバムごとに形を変えるんですよ。だから、そこも好きな先輩を反面教師にした感覚に近くて、逆張りなんです。シーラカンスじゃないけど、何千年と形を変えないものを目指す方がいいんじゃないか?と思って、実際、そうやってました」
――今、澤部さんがサポートしているムーンライダーズはまさに作品ごとにスタイルを変えてきたバンドの典型です。
「本当にそうです。もし、僕が作品ごとにガラッと変えていく音作りをしていたら、今、ムーライダーズにはいないかもなとも思います。僕らの周りだとceroとかがそういうタイプじゃないですか。すごく憧れるんですよ。でも、開店以来タレを継ぎ足し継ぎ足し作っていく老舗みたいな感覚の方がやってみたいと思ったんです」
――それはいわゆるスタンダードとはちょっと違う。
「もうちょっとビザールなものですね、自分の感覚としては」
――以前、〈良質なポップ〉という言い方がとても嫌だと言ってましたが。
「今もそうです。好きじゃないですね」
――タイムレスだとかエバーグリーンだとか。
「嫌ですねえ(笑)。出来上がったものがスタンダードになる、いろんなことをやってて結果それがスタンダードになる、エバーグリーンなものとして受け入れられるというのはわかるんです。でも、スタイルをガラッと変えないことはスタンダードを目指すこととは違う。
あくまで我々はバンドという形式をお借りしてるだけという感覚に近い。1960年代以降の幻想として、バンドはまだ有効なのでは?って。バンドをやってる人って、みんななんだかんだ飽きていろんなことをやるようになるんだけど、バンドという形式を借りてもっといろいろやれると思うんですね。
でも、難しいことに、僕ら(スカート)はバンドじゃない。特に始めた頃は〈バンドごっこ〉ですよ。なんだったら今でもそうかもしれない。我々の世代には昆虫キッズみたいな、本当にカッコいいバンドがいたわけじゃないですか。4人が集まって音を出さないと表れない魅力を持っているのが本来のバンドだと思うんです。そういう意味でスカートは、メンバーの替えはきかないんだけど、でも、替えもきいちゃう、そういうバンド。変えるつもりはないんだけど、どうしても変わっちゃう。本当は20、30年経っても同じことをやってるのが理想なんですけど、どうやったって変わっちゃうんだなと思いましたね」
――変わっちゃうのは残念なことなんですか。
「どっちもあります。残念な部分もちょっとある。基本的には、別にそういうもんだったんだな、結局抗えなかったか、うん、わかる、わかる、みたいな感じかな(笑)。でも、こういう形だったからこそ、こういう音楽を作ってこられたんだなとも思います」

ファーストアルバムかもしれない
――ただ、面白いことに、ニューアルバム『スペシャル』はバンド感の強い作品だと思うんですよ。メンバーは変わっていないのに、どこからこのバンド感が出てきたのでしょうか。
「本当にそう思います。ファーストアルバムかもしれない。
そうは言っても、作業日程は超ギリだったんですよ。去年末に全曲できてなきゃマズかったんです。でも曲が足りない。しかも、とっ散らかった、集中力に欠けた、まとまりのないアルバムになりそうで……こりゃヤバいと思ってたら、メンバーもスタッフもそう思ってたみたいで、ドラムの佐久間(裕太)さんが〈曲出し会議をやろうよ〉と言ってくれたんですよ。今までそんなことやったことないんです。僕がデモを持っていって、〈曲ができたんで、ちょっとやりましょう〉って聴かせて、3、4回合わせたら、はい、できた!みたいな感じが常だったんです。でも、今回はみんなでああだこうだ言う会議をやったんですね。
その日までになんとか、息も絶え絶えでしたけど(笑)、4曲作って。そのうち2曲は前からあった曲で、もう1つは“トゥー・ドゥリフターズ”で、もう1つは“四月怪談”の原型。
話がそれますけど、“トゥー・ドゥリフターズ”は、前のアルバム(『SONGS』)を作ってる頃に金麦のCM曲(“ビタースウィート・サンバ”)の制作で音響ハウスに初めて行った時に原型ができたんです」
――音響ハウス……それこそムーンライダーズもあそこで制作したりしてる伝説のスタジオです。
「それがめちゃくちゃ嬉しくて。でも、録音を終えて、そのままミックスっていうスケジュールだったんです。だからミックスをしてもらっている間、することがなくなっちゃった。そこで、ピアノを弾いて曲を作り始めたんです。それでできたのが“トゥー・ドゥリフターズ”の原型なんですよ。でも変な曲だから、どうにもならないんです(笑)。『SONGS』に入れたいけど違う気がするし……って感じでその時は棚上げしちゃったんですね。
いつか、そのうちに……と思って置いておいたんだけど、曲出し会議で聴いてもらったんです。そしたら、現代音楽みたいですね、みたいな反応で(笑)。でも、(佐藤)優介が〈商業的なアイデアかどうか分かんないけど、俺だったらT・レックスみたいにする〉っていうんですよ。ブギーにするの?って聞いたら、いや、ティラノサウルス・レックスだと。なるほど、確かにパーカショニスト(シマダボーイ)もいるし、そういうことはできそうだねってことになって、次の日に(シマダ)ボーイとデモを録り始めたんです。それをみんなに送ったら、佐久間さんがバーンと入るドラムを入れて返してくれた。で、完璧! これで行こう!となって。
そこからですね、みんなでどうしようか?とアイデアを出して考えることができるようになったのって。今までは〈この曲はこうだから〉とあらかじめ決めていたことが多くて、よく佐久間さんに〈澤部くんは頑固だからね〉って言われるんですけど、本当にそうだったんだなとつくづく思いました。今回、元の弾き語りから印象が変わった曲が多いのも、バンドっぽくできたと思う部分ですね」
――メンバーの意見を柔軟に取り入れるようになった。
「そうでしょうね。既発曲以外、多重録音のデモを1曲も作らなかったのも大きい気がします。多重録音のデモを作らなかったのなんて、本当に『ひみつ』(2013年)ぶりとかですよ。『サイダーの庭』(2014年)ぐらいから〈何曲かデモを作ったので聴いておいてください〉とメンバーに言っていた記憶があります。もちろん、リズムからテンポまでコントロールするような徹底ぶりではなかったですけど、それでも、曲の根幹にまで(メンバーの)手が入ってくる作業は、一度もしたことがなかったかも。『ひみつ』に入っている“ともす灯 やどす灯”のアウトロは、みんなで話しながら作ったんですけど、それくらいしか覚えがないくらいこれまでやってこなかったんです」

サイコロを振り続けている
――ということは、2024年内に“トゥー・ドゥリフターズ”“四月怪談”を含めた4曲はあった。その後、年明けに京都で曲を作ったそうですが、これはどういう理由で?
「ピアノが弾けるところで集中したかったんです。でも、意外にないんですよね。日本中探したんです。どこかのスイートルームとか山奥の一棟貸しとか、そんなのしかない。でも、京都の町中にゲストハウスがあって、そこにアップライトピアノがあったんです。夜9時まで弾いてもオッケーで、他の宿泊客もいない。これはいいぞと」
――自宅にもピアノはありますよね。
「ありますけど、要はNintendo Switchを触らず、なおかつ年末年始のテレビの録画を見ないで済む環境に身を置きたかったんです(笑)。とにかく環境を変えないとまずいと思って。で、そこで書いたのが“ミント”と“スペシャル”です」
――どちらもピアノで作った曲とは思えないですね。“ミント”は12弦ギターも使われているし。
「そうなんですよ。ピアノで作ったモチーフはあるんですけど、“トゥー・ドゥリフターズ”みたいに難しい感じの曲になっていって……いや、実はこの件で、すっごく迷ったんです、どっちに進むべきかって。小難しい……とまでは言わないけど、“トゥー・ドゥリフターズ”みたいな変な曲がいっぱい入ってるアルバムにした方がいいのかなって。でも、アコギを触りながら曲を書く方に進んでいって……。
もちろん、ここでこうメロディーが展開していったらどうなるかな、みたいな検証はピアノでしましたけど、結局“ミント”は一筆書きっぽい作りになったし、“スペシャル”はブロッサム・ディアリーの“Doop-Doo-De-Doop (A Doodlin’ Song)”みたいな曲を書きたいっていうのが最初の動機だったんですよね。それで一回形にしたんだけど、そのあと佐久間さんと2人でスタジオ入った時、今回のアルバムの感じからいくと、もっとテンポが早くていい気がする、みたいな話をして、それでああいうふうに落ち着いたんです。だから、最終的に仕上がったのは京都から帰った後、最後のレコーディングの数日前ですね(笑)。
結局、ピアノのある部屋で作業したのにピアノをメインに作った曲は入らなかったですけど、モチーフはいっぱいできたので、次に生かされるかもしれない」
――曲の根幹に関わる部分までメンバーと意見を交換したりアイデアを取り入れたりすることを積極的にやれたことが収穫だったんですね。これまでやってこなかったそうした作業に振り切れたのは、15年続けて活動している中で何か気づきがあったからなのでしょうか。
「やっぱり『Extended Vol.1』(2024年)を作ったことじゃないですかね。外部に任せることに抵抗があるつもりもなかったんだけど、あれを作ることによって軽減されてたのかもと。
『SONGS』の時にこういうアルバムは作れなかったです。それによって曲も大きく変化したし、それもメンバーと合わせながらできたりして……。今話した“スペシャル”もそうだし、 “緑と名付けて”もバンドと合わせる中で変わりました。最初、もうちょっとぼんやりした感じだったんです。Aメロで落として、でもまだ落ちる、みたいな展開に重点を置いてできないかなと考えていたんですけど、レコーディングスタジオでメンバーに〈何かリファレンスってない?〉と聞かれて、うーん、うーん……って考えてトンチみたいに、NRBQのアル・アンダーソンがいたザ・ワイルドウィーズの曲みたいな感じにしたいです、と捻り出して(笑)。で、みんなで聴いてみて、じゃあ、ベース始まりでいいじゃん、という感じで軽薄に作ったんですよ。
元ネタがハッキリあるのは“スペシャル”と“ミント”かも。“ミント”はカーネーションの“世界の果てまでつれてってよ”が入っちゃってるんですけど、作ってる時に避けられなかったんです(笑)。カーネーション、時々出ちゃうんですよねえ。だいたい後で気づくんです。すっげえ恥ずかしくなりますけど……もう仕方がない」
――しかも、今作、演奏や音もラフですよね。
「そうかもしれません。勢いもあるし、最初に言ったように、15年にしてファーストアルバムって感じもしてます。曲出し会議で出したままの状態で手をつけられないままレコーディングを迎えた曲もあったし、そういう曲をみんなでアイデア出しながら作ったりしたので、勢いや瞬発力は出たと思います。佐久間さんなんか“緑と名付けて”を録り終わった後に、〈ああ~! なんとかでっち上げたな!〉と言ってましたけど(笑)。でっち上げだろうが何だろうが、内容がよけりゃいい。
ただ、ぜーーーーーったいに、これに甘えちゃダメだってことは確かです(笑)。もう2度とできない。絶対できない。またみんながなんとかしてくれるだろうって思っちゃ絶対ダメなんです。ノープランは今回だけです(笑)!」
――単純に、なぜノープランになったのですか。忙しかったからですか。それとも進むべき道が見えないタイミングが続いていたのでしょうか。
「夏休みの子供と一緒なんですけど、ほんとに忙しかったんですよ。ずっと何かをやってて、なんでこんなに忙しいんだ? おかしいぞ! 大したことはやってないのに毎日何かがあって全然曲作りできない、みたいな時期が続いていたんです。
その後、『Extended Vol.1』を出した後、去年の10月にまとまった時間が取れて、さあ、曲作りを頑張らないとってなったんですけど、その時、ほんっっっとに人生で過去最高に怠けて、何にも作らなかったんですよ(笑)。本音を言うと、10~12月の3ヶ月もありゃあ、10~12曲ぐらいできるでしょうと思ったんだけど、脳みそを使わない方に行ってしまったんですよね。1日9時間ぐらいゲームやったりして、それで『Apex』をアンインストールするところから始めて(笑)。あそこでアンインストールする決断をしてなかったら、本当にマズかったかもしれない。
ただ、それでも、11月になっていよいよヤバいってなっても、まだできなかった。自分がどういう曲を作ればいいのかもわからない。モチーフだけはできるんだけど、それが1本にならない時期がありました。そこからさっき話したように曲出し会議をして、ゲームもテレビもない環境に行かないとって思ったわけです。
もともと、どこかでサイコロを振り続けているようなふしがあるんです。これは何かというと、ギターとかピアノを触っていると、〈あ、これは気づかなかった〉と思う瞬間があるんですよね。なるほど、そうか、ここからここに行くんだなあ、思いつかなかったよキミ!みたいなね。基本的に、そういう瞬間を待っている。そういう意味でずっとサイコロを振り続けているんです」

歌詞に自分が含まれている割合は1割あるかないか
――歌詞についてはどうでしょう。今回も〈魔女〉(“四月怪談”)、〈呪文〉(“火をともせ”)、〈鉄塔〉(“トゥー・ドゥリフターズ”)など澤部さんの作品で登場頻度の高いワードが多く散見されますが、こういう言葉がまた曲の中に出てくることが今回の作品では何を証明していると思いますか。
「〈魔女〉と〈呪文〉に関して言うと、自分の中で大きな意味を持っていて。今回、〈漫画〉に回帰したいと思ったんです。それで、たとえば〈魔女〉とか〈呪文〉とかが出てきても、それはそういうことなんだ、うん、使おうってなったんですね。使おうと思って使った言葉ではなく、自然と出てきたことで意味するものがあるってことなんです。
ただ、“トゥー・ドゥリフターズ”に出てくる〈鉄塔〉は全く別モチーフ。人工物としてただそこにあって、それを自分が眺めている、自分の意思と関係なくそこにあるもの、自分の意思ではどうしようもないものなんです。“トゥー・ドゥリフターズ”に出てくる〈鉄塔〉はそれが崩れていくイメージ。本来だったら変わらないもの、毎日確実にあり続けるものが、自分の感情とか精神状態でそうじゃなく見えてくる瞬間ってあると思うんですけど、それを〈鉄塔〉にしたんですよね。
何年か前なんですけど、ちょっと気持ちが落ちてる時に部屋の本棚とかが怖いと感じたことがあって。文字がこっちを見てる!みたいになった瞬間があったんです。今まではなんてこともなかったものが怖いものに見える瞬間を念頭に置いたんですね。まあ、単純に家の近所に鉄塔が多いだけでもあるんですけど(笑)。向こう(鉄塔)は絶対、今日もそこにあるならば、同じ姿であるわけです。怖いと感じるこっちに問題があるっていう。そういう意味で、揺るがないもの=鉄塔になった感じです」
――怖さに気づかせるメタファーになっている。
「メタファーというより、あくまで物語の中のあそこで、僕が書いた2人の登場人物のどっちかが、何かが怖いという精神状態にあることを描くために鉄塔を用いた感じです。
ただ、“トゥー・ドゥリフターズ”に出てくる〈オール〉はメタファーだと思います。〈オールを捨てろ〉と言うことで、〈いや、違うんだ、ハナからオールはないんです〉と言われる無情さを書きたかった。ちょっと滑稽に見える表現ですよね。
あの曲には2人の登場人物が出てくるんですけど、〈目を覚ませ!〉と2回言ってます。最初は自分……というか、歌の第1主人公で、2回目はもう1人の主人公か、もしくは第1主人公の中の別人格がその人自身に対して言うのか?って気持ちで書いてます。でも逆に、あの曲の中で彼らは、オールがあることによって別の場所にも行けるだろうし、そこにとどまっていたとしても、いつか動き出せると思うんです」
――オールは意志を持って動かすものであり道具でもある。
「そうそう。だから、単純に考えすぎだ、お前は!って感じで冷や水をぶっかける〈目を覚ませ!〉なんですね。オールどうこうの問題じゃない、根本の問題で、我々はボートにも乗っていないかもしれない。そもそもここは水辺じゃないぞ!ってこともあるかもしれない。
とにかく今の状況は、第1主人公が思っている状況と現実が乖離してて、その乖離を第2主人公がどう見るか?ってことなんですね。このままでいいかとも思っているし、でも、やっぱり違う気がする。冷や水をぶっかけた方がいいんじゃないか、そして最後に何かが見えてくる気がしないか?って訊ねて終わる、そんな曲ですね」
――澤部さん自身はここにはいない。
「この曲にはいないですね。いつも考えているのは、曲の中の1割あるかないかですね、自分が含まれている割合が。それくらいが理想です。ただ、たとえばどん詰まりの状況を歌おうと思ったら、それは自分がどん詰まりだから、っていうくらいの関係性はありますね。どん詰まりの主人公を自分にはしない。でも、どん詰まりのノウハウは自分にはある(笑)」

パーソナルなことを歌った最初の1枚
――今に始まったことではないですけど、今回の歌詞も全体的に重いですよね。このまごうことなき重さはどこからくるのかなと。今回も(CDデビュー15周年を祝って)〈5年ぶりの優勝〉と言っておいて……。
「この暗さですからね(笑)。結局、誰が私を救ってくれるんだとは常々思っているんですよ(笑)。
たとえば、僕、とにかく、自分に合う靴が全然ないんです。幅が広くて甲が高くて。ニューバランス原宿店が自分の足を3Dでスキャンすれば合う靴を診断してくれるというから、昨日行ってやってもらったんですけど、それでも合う靴がないんですね。今は2,000、3,000円くらいのおっちゃんが履くようないやつを履いてますよ。ニューバランス原宿店に行けば俺は救われるって思ってたのに、それもダメかと。そういうことばっかりです」
――1曲目から“ぼくは変わってしまった”ですし。
「ああ! あれは前向きとまでは言わないけど、スカートの歌詞は本当に暗くて後ろ向きで、なおかつ抽象的で何が起こったか分からないって、自分でもそう思うし、実際言われるので、〈ようし、分かった〉と。それならもっとパーソナルなことを歌ってみようと思って書いた歌詞です。
この曲、同窓会に行って書いたんですよ(笑)。同窓会に行ったら、めちゃくちゃエモくなっちゃって(笑)。いや、エモくなったんだけど、そんなはずじゃないとも思ってるわけです。だって思い出したくないことなんて、いくつもあったわけじゃないですか。でも、エモくなっちゃってる自分がいるなと思って。連絡が取れなくて、誘えなかった仲良かったやつもいたんです。だから、〈ここにはいない君を思い出す〉なんですよ」
――具体的ですね!
「でしょう? ただ、物語にはしたくないんです。起承転結はやりたくない。ストーリーはあるけど、どっかとどっかの一部分を切り取ってます。そういう作業は、やっぱり自分的にやれたらいいなと思うことなんですね。
そういう意味でいつも風景画を描いてる感じなんですけど、今回は風景画じゃないかもしれない。もっと具体的に書けたつもりです。それを皆さんがどう聴いてくれるかが楽しみです。結局いつも通りじゃんって思われるかもしれないけど(笑)、パーソナルなことは歌わないようにしていた自分に対して、ちょっと踏み込んだ歌詞が何曲かある。少なくとも、パーソナルなことを歌ってみようと思った最初の1枚なんじゃないかな。
その反面、“スペシャル”とかは漫画的にしたいと思って作った曲。小原愼司さんというすごく好きな漫画家の作品に、主人公が授業をほぼ寝ながら聞いているシーンがあるんですけど、その時に先生が〈私も若い頃はこの小説の最後に勇気づけられた〉と言って、太宰治の『津軽』を引用するんですよ。それが印象に残ってて、そのシーンがモチーフになっています。でも、もし太宰の作品をまるっと入れたら、それはちゃんと真面目に授業を聞いてた人だなと思って(笑)。それで〈またね 元気で行こう ではさよなら〉にしたっていう。『津軽』の本当の最後は〈さらば読者よ、命あらばまた他日。元気で行かう。絶望するな。では、失敬。〉なんですけどね……って分かりにくいですよね~(笑)」
――すぐ突き止められて理解されてもつまらないでしょう。
「そうですねえ。でも、俺も絶対分かんないだろうなと思いますよ。いつもの抽象的な感じだと思われちゃうだろうなと。だって自分でもわからない部分が絶対あるし。だから、たとえば20年経った頃、“トゥー・ドゥリフターズ”を自分が聴いたり歌ったりした時、こういう意味もあるかもって思えたら最高ですよね」
――20年、歌い続けていかないと。
「ねえ。よく(角張渉)社長とも話すんですけど、もっとわかりやすく売れないと、みんな疲れるでしょ、応援疲れしちゃうよって。それ、なんかわかりますよね。3年ぐらい経ってあまり大きな動きが見えないと、みんな疲れちゃうっていう(笑)。だから、それまでになんとかしないと」
――でも、いい音楽ってすぐ結果が出ないことが多いですよね。逆に分かりやすい音楽だったら、多分10、20年後に残る可能性は低い。分からないことはいいことなんですよ。
「だといいなあ。まあ、死後に期待ですよ。次の人生、2ラウンド目に期待しています(笑)」
RELEASE INFORMATION
リリース日:2025年5月14日(水)
配信リンク:https://lnk.to/AL_special
CDデビュー15周年特設サイト:https://skirt15th.ponycanyon.co.jp/
■CD+Blu-ray
品番:PCCA-06380
価格:4,950円(税込)
■CD Only
品番:PCCA-06381
価格:3,300円(税込)
TRACKLIST
CD
1. ぼくは変わってしまった
2. 緑と名付けて
3. 火をともせ
4. 遠くへ行きたい
5. ミント
6. トゥー・ドゥリフターズ
7. 期待と予感
8. 四月怪談
9. 君はきっとずっと知らない
10. ひとつ欠けただけ
11. スペシャル
Blu-ray
「スカート Presents 炎のフリーライヴ2024」
2024年9月13日に代官山UNITで開催されたライブ映像を収録
1. 波のない夏
2. さよなら!さよなら!
3. 君はきっとずっと知らない
4. 静かな夜がいい
5. いい夜
6. 1000 Lovesongs I Don’t Like
7. 期待と予感(feat. 井上花月)
8. 君に会いに行こう(feat. 井上花月)
9. 粗悪な月あかり
10. 十月(いちおう捨てるけどとっておく)
11. Aを弾け
12. ストーリー
13. ODDTAXI(feat. PUNPEE)
14. ブランクスペース
■先着購入特典
・優勝記念タオル
全国のCDショップにてスカート『スペシャル』をご予約・ご購入のお客様に、先着で上記オリジナル特典をプレゼント!
リリース日:2025年6月4日(水)
品番:PCJA-00182
フォーマット:12 inch LP
価格:3,850円(税込)
TRACKLIST
Side - A
1. 地下鉄の揺れるリズムで feat. 村上基(在日ファンク)
2. 波のない夏 feat. adieu
3. ブランクスペース feat. SPECIAL OTHERS
4. 君に会いに行こう feat. 井上花月(Laura day romance)
Side - B
1. ストーリー - Remix Version feat. パソコン音楽クラブ
LIVE INFORMATION
スカート ライヴツアー2025 “スペシャル”
2025年6月6日(金)京都・磔磔
開場/開演:18:00/19:00
2025年6月7日(土)愛知・名古屋 TOKUZO
開場/開演:17:00/18:00
2025年6月28日(土)東京・鶯谷 キネマ倶楽部
開場/開演:17:00/18:00
■TICKET
一般:4,500円+1D
学割:3,000円+1D
PROFILE: スカート
どこか影を持ちながらも清涼感のあるソングライティングとバンドアンサンブルで職業・性別・年齢を問わず評判を集める不健康ポップバンド。2006年、澤部渡のソロプロジェクトとして多重録音によるレコーディングを中心に活動を開始。2010年、自身のレーベル、カチュカ・サウンズを立ち上げ、1stアルバム『エス・オー・エス』をリリースしたことにより活動を本格化させた。2021年4月にアニメ「オッドタクシー」オープニングテーマ“ODDTAXI”をPUNPEEとのコラボで担当。豊富なお笑いの知識から2023年9月に25歳以下限定のお笑い賞レース〈UNDER 25 OWARAI CHAMPIONSHIP〉決勝戦の審査員を担当、大会主題歌“期待と予感”も書き下ろした。その他にも数々のアニメーション作品、映画、ドラマの劇伴、楽曲制作に携わる。またそのソングライティングセンスからこれまで藤井隆、Kaede(Negicco)、三浦透子、adieu(上白石萌歌)などへの楽曲提供も行っている。さらにマルチプレイヤーとして澤部自身も敬愛するスピッツや川本真琴、ムーンライダーズらのライブやレコーディングに参加するなど多彩な才能、ジャンルレスに注目が集まる素敵なシンガーソングライターであり、バンドである。
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澤部渡 X:https://x.com/skirt_oh_skirt
スカート Instagram:https://www.instagram.com/s_k_i_r_t.info
澤部渡 Instagram:https://instagram.com/skirt_oh_skirt
スカート TikTok:https://www.tiktok.com/@s_k_i_r_t

