2025年5月2、3日に開催された〈hide Memorial Day 2025 hide with Spread Beaver『REPSYCLE』〜Life is still going on〜〉も話題だったhide。同公演は2024年のボックスセット『REPSYCLE~hide 60th Anniversary Special Box~』のリリースを祝ったものだったが、先日、同作に収録された〈3部作〉のリマスターが配信開始、Apple Musicではハイレゾロスレスも聴けるようになった。3作のミュージックキーチェーンも販売されている。Mikikiはこれを受け、ライターによる3作のレビューをお届けしよう。 *Mikiki編集部

hide 『REPSYCLE~hide 60th Anniversary Special Box~』 ユニバーサル(2024)

 

『HIDE YOUR FACE (2024 Remaster)』
by 市川哲史

hide 『HIDE YOUR FACE』 MCA/ビクター(1994)

「よっちゃんのバンドだから俺は全力で支えるだけ」と、X JAPANではあれでも黒子に徹してた(苦笑)hideが、人生で初めて自分度200%全開で作ったからこそ30年経っても変わらず目茶目茶新鮮なロックアルバムだ。現在ではDTMなんて当たり前で、楽器弾けなくても仲間いなくても知識なくても音楽は作れる。しかしそんな便利なソフトも機材もない当時に、マニピュレーターを〈通訳〉に膨大な手間暇をかけてカタチにした脳内ロックだからこそ、hideの〈生粋のロック小僧〉っぷりがリアルに堪能できた。

まるでグレムリン(←死語)のように忙しなく賑やかに駆けずり回るポップな楽曲群を、本人は〈いとしの人造人間たち〉と喩えていた。コンピュータで自由に構築した大ボコボコ打ち込みサウンドを人力楽器演奏に差し替えるパターンと、限界人力アンサンブルでしか生まれない音やフレーズをあえて打ち込みやサンプリングに無機化するパターンに分かれるにせよ、生身とマシーンの融合には変わりない。そんな近未来感を自らおちょくりながら疾走するhide人生初の自分ワールドは、観るもの聴くものとにかく刺激的で大興奮だったロックに対する想い出と、いても立ってもいられなかった初期衝動と、底抜けの好奇心がそのまま具体化してしまった世界観に溢れている。

ここには、「Xじゃない俺を見てくれ」的なチープな承認欲求もお粗末な自己顕示欲も一切ない。ただ「ねねねね面白いでしょ」と少年hideのまんまではしゃいでるだけだ。だから世代を問わずロックに夢中になったことがある者なら全員、聴いたら最後知らぬ間にhideと共犯関係を結んでしまった幸福な作品なのである。hideはこんなに愉しい万年ロック少年だったのだ。

 

『PSYENCE (2024 Remaster)』
by 李氏

hide 『PSYENCE』 MCA/ビクター(1996)

アーティストとしてのhideの先見性はいたるところで語られてきた。代表曲“ピンク スパイダー”におけるインターネット観の鋭敏さからソロ作において全面化した驚異的な越境感覚まで。ハイパーポップの先駆という声すら聞こえてくる彼の評価だが、こと今作『PSYENCE』において重要なのはある種のアイロニー、〈本気かどうかわからない〉語りの感覚ではないか。この特徴はhideがリファレンスにしてきたナイン・インチ・ネイルズやマリリン・マンソンといったインダストリアルロック勢と比較すると分かりやすい。いかにも1990年代的な〈リアル〉 さ、実存的な切迫した独白としてのロックミュージックを金属質でヘヴィなサウンドで鳴らした二者に比して、hideの語り口はシリアスながらどこかおちゃらけている。下世話なジャズもどき感が楽しい冒頭の表題曲から始まり、重低音をかき鳴らすロックチューンに挟まれたhide流マッドチェスター解釈“LEMONed I Scream (CHOCO-CHIP version)”の場違いさもどこか可笑しく、かと思えば“FLAME”の真っ直ぐなメッセージに心動かされてしまう。この戯れなのか本気なのか曖昧な感覚は、素性もよく知らない相手と距離を探りながら刹那的なアイロニーの断片を投げかけ合う、2020年代のSNS的コミュニケーションのあり方にどこか繋がっている。今作『PSYENCE』においてhideが言い当てていたのは、そんな皮相な関係の中を生きる(しかない)人々の日々のリアリティなのかもしれない。