昨年1月に初の全国流通盤となるファースト・アルバム『HOPES -a Lost Wor­ld-』をリリースし、轟音とグッド・メロディーのハーモニーでライヴハウス・シーンにその名を響かせてきた神戸発の3ピース・バンド、the cibo。その『HOPES -a Lost Wor­ld-』が2012年から歩んできたバンドの集大成的な内容だったのに対し、このたび完成したセカンド・ミニ・アルバムには「新しいthe ciboしか入っていない。どんな反応があるのかワクワクする」とソングライターの前川翔吾(以下同)は語る。『Midnight Habit』──〈夜の習慣〉とタイトルに冠した今作は、1曲目“Never”と7曲目“Ending”をブックエンドに、6編の夜の物語が並んだアルバム。コンセプチュアルだが、〈習慣〉という言葉がいちばんしっくりとくる、暮らしの中での時間の流れを感じさせるものだ。

the cibo Midnight Habit CYANOS/Village Again(2020)

 「もともと夜の曲を作っていこうというわけではなかったんです。僕は、夜にひとりで曲を書いたり、曲の構想を練って散歩に出たりすることが多くて。いまの自分が生きて、生活している──そうやって夜を濃密に過ごしている自分を作品に落とし込んでいけたらなと、途中からテーマが決まっていった感じでした。ひとりの夜って悪くないですよね。すごく素敵な時間だし、静かに自分と向き合ったりもできて。夜というとダークなイメージもあるかもしれないですけど、気持ちが前向きだったりこともあるし、音楽を聴いたり本を読んだりするひとりの時間に寄り添う、そんな作品になればいいなというイメージでした」。

 3ピースでの表現に加えてシンセやピアノ、アコースティック・ギターがアンサンブルに練り込まれるなどアレンジ面にも磨きがかかり、多彩な夜の濃淡を描くようにメロディアスな曲から変則拍子によるポスト・ロック的な曲、ファンタジックなポップ世界など、想像力を掻き立てるサウンドのスケール感が増している。

 「最近思い出したんですけど、中学生の頃から大学生くらいまで毎週、近所のレンタル店のJ-Popランキング1位から10位までを借りて聴き込むっていうことをしていたんです。勉強のためではなかったですけど、そこで知ったいろんな曲で音の遊びや表現の仕方が身体に染み付いていたのかもしれないですね。王道から外れたことをやっても、耳に残るキャッチーさやグッド・メロディーがあれば……というところも、J-Popの影響が大きいのかもしれないし。例えば曲作りの段階で〈なんだこれ!?〉ってなっていても、最終的にメロディーでうまく落とし込める自信があるので。だからわりといろんなアレンジに挑めるのかなって」。

 音の広がりと共に、歌詞の筆致も広がった。リード曲“三月、涙がこぼれそう”はこれぞthe ciboたる詩的な曲だが、一方で虚ろな思いを生々しく綴った曲もある。

 「自分のことを書くのは苦手だったんで、普段は小説的な書き方が多かったんです。でも最近は、自分の経験も聞いてもらいたいなと思えるようになってきたというか。自分と向き合えるようになってきたので。人に言いたくなかったようなことも詞に落とし込まれていますね。“蚤 -waltz-”は自分のトラウマ的な恋愛話だったり、“秘密は夕凪と共に”なら姪っ子との散歩を思い出して書いたり。同じような経験をしたり、いま何か苦しい思いがある人が、曲から何かを感じてもらえたら、と思えるようになってきてるんです」。

 いま、とにかくバンドが楽しいと前川は語る。今作では大きな会場で響くことを想定した音像を形にするなど、ヴィジョンを立体化する手応えやおもしろさも感じているという。勢いのある証拠に、すでに次なる作品にも頭が向いており、the ciboの進化は止まらなさそうだ。

 「おもしろいことに、アイデアだとかやりたいことがぜんぜん尽きない。それを一個ずつ表現しながら、でも根本にあるthe ciboらしさとか、〈3ピース・バンド〉をやるうえで崩してはいけない部分もあると思うので、そこをうまく表現しながら、みんなが〈the ciboってどんだけスケールアップしていくんだ!?〉ってワクワクするものを作っていきたいですね。乞うご期待です」。

 


the cibo
前川翔吾(ヴォーカル/ギター)、ミブ リュウヤ(ベース)、西川いづみ(ドラムス)から成る神戸発のロック・バンド。前川を中心に2012年に結成され、同年の初EP『1st E.P』を皮切りにコンスタントな自主リリースを重ねながらライヴ中心に活動をスタートする。2015年に初のミニ・アルバム『a wolf cub』を発表。MASH A&Rが主催する〈MASH FIGHT Vol.5〉の2016年度ファイナリストとして脚光を浴び、2017年11月の初ワンマン開催を契機に現在の編成となる。2019年1月に初の全国流通盤となるファースト・フル・アルバム『HOPES -a Lost World-』をリリースして注目を集め、このたびセカンド・ミニ・アルバム『Midnight Habit』(CYANOS/Village Again)をリリースしたばかり。