芸術の根源にある人間の闇を照らし出すロバート・ゼメキス渾身の傑作!
模型写真家マーク・ホーガンキャンプの実話を基にした映画である。
マークは自宅の庭に第二次大戦下のベルギーの架空の村〈マーウェン〉のミニチュアセットを作り、そこでG.Iジョーとバービー人形のフィギュアの写真を撮り続けている。その写真が世間で認められ個展も開催されるようだ。なぜマークはフィギュアの写真を撮るようになったのか。そこには痛ましい理由があった。
マークにはハイヒールを履くという趣味があった。ある日地元の酒場でそのことを話したことがきっかけで、5人の男性から暴行を受け瀕死の重傷を負う。肉体と精神に深い傷を負ったマークにとっての〈リハビリ〉が、〈マーウェン〉を舞台にした空想の物語の具現化だったのだ。
映画は、マークが空想/創作する脳内世界が現実世界と並行して描かれる。脳内世界は、フィギュアのヒーローと女闘士たちによる反ナチ活劇映画風であり、分かり易く言えば「トイ・ストーリー」を実写化したような映像が展開されていく。ハイヒールを履くヒーローはマークであり、女闘士たちは現実世界でマークを助ける女性たちであり、悪役ナチスは暴行犯がモデルだ(最新VFXを駆使して現実世界の役者が実際に〈演じて〉いる)。この世界では、ナチスを殺すのは主人公ではなく決まって女闘士たちであり、殺されたはずのナチスはナチスで幾度となく甦ってくるだろう。このように観客がマークの脳内世界を覗き見ることで、現実世界のマークの葛藤や苦悩が理解できる仕組みとなっている。注目すべきはフィギュアたちの戦闘描写がかなり残虐であることだ。〈暴力〉によって肉体と精神に傷を負ったマークの脳内世界が同じ〈暴力〉によって成立しているという〈矛盾〉を観客は目の当たりにすることとなるだろう。
本作は、空想/創作によってトラウマを克服する男を描くと同時に、映画にしかできない手法で芸術の根源にある人間の闇をも照らし出す。監督ロバート・ゼメキス、渾身の傑作である。