〈自己内省音楽〉を掲げる4人組、まちがいさがしがファースト・アルバム『八畳間放蕩紀行』を完成させた。高校/大学の同級生で結成され、一時期の休止をはさんで2016年からMVの投稿を軸とした活動を開始。2018年2月に公開された“ラブソングに騙されて”が大きな話題を呼んで、現在までに120万回以上の再生数を記録している。

 「“ラブソングに騙されて”をきっかけにまちがいさがしを知ってくれる人が増えたことは単純に嬉しいです。ワンマン・ライブの開催やアルバムのリリースに辿り着いたのも、この曲が多くの人に受け入れられたことが一つのファクターになっていると思います。でも、別にバンドのなかでは〈この曲が特別〉って感覚はあんまりないんですけどね」(今野)。

 遠距離バンドである4人は、楽曲の制作もインターネットをベースに行っている。

 「クラウド上で音楽ファイルを共有しながら制作しています。私の弾き語り音源に、今野くんがドラムを、和野くんがベースを、最後に松崎くんがリード・ギターを重ねて、といった具合です。イメージを伝えたりもしていなくて、それぞれのパートはすべておまかせしていますが、レコーディング自体は集まって録るので、直前に、演奏の細かいニュアンスを擦り合わせています」(佐々木)。

まちがいさがし 『八畳間放蕩紀行』 VYBE MUSIC(2020)

 『八畳間放蕩紀行』には、これまでネット上で発表してきた楽曲を中心に、新曲や、結成当時の楽曲である“東京”の再録など、全11曲を収録。素朴で透明感のある歌声と、繊細でときにファンキーなアンサンブルが、聴き手一人ひとりに寄り添ってくれる。

 「“月暮らしが治るまで”では、ピアノの旋律に絡めながら、日常から離れた詩性を取り入れたり、“風邪ひく幽霊”では、二本の詞と歌を織り交ぜてようやく、一つの表現に結び付いたりしました。これらの曲は、私が音楽を作っていくうえで新しい糸口に繋がった感触もあって、印象深いです」(佐々木)。

 「活動再開してから初めて制作した曲ということで“夏に遠回りする”は特に思い入れがありますし、ノスタルジックな歌詞と曲調も気に入ってます」(和野)。

 楽曲の多くからは〈孤独〉や〈疎外感〉が感じられ、そんな誰もが抱える内省を軽やかな音楽に昇華しているからこそ、彼らの楽曲はネットで大きな支持を得たのだと考えられる。タイトル・トラックである“八畳間放蕩紀行”も、そんなバンドの性格を象徴する一曲だ。

 「内面を思い詰めていくと、不安定な自意識に辿り着いてしまうのですが、それは生活の途中にあるべき断片の一つとも考えていて、例えば〈悲しい〉とか、より大きな枠に入れて紛れるよりも、そのまま自己の一部として許したり、受け入れたくて、音楽を作っているような節があります。“八畳間放蕩紀行”は、〈足りない毎日〉のなかにあって、鬱屈と深刻なようでも、どこかで習慣に甘んじてしまうような、私にとって普遍的な内省を多く象徴していて、〈まちがいさがし〉という主題のそばにある、雰囲気をもった楽曲の一つと感じています」(佐々木)。

 ここ数年〈ネット発〉がトレンドにもなっているなか、あくまでロック・バンドでありながら活動の拠点をネットに置くことで支持を得てきたまちがいさがしは、現代の音楽の発信の仕方を体現している。そして今後は、八畳間から電子の海を抜けて、より開かれた世界へ──。

 「今の時世もありますので、リモート・ライブとかは実現させてみたいですね。せっかく〈インターネット・ロック・バンド〉を標榜していますから。数年前にみんなでネット・セッションを試してみた際は遅延が凄まじくまったく演奏にならなかったのですが、近い将来に環境を整えて、遠隔でセッションできるようになればいいなと思っています」(松崎)。

 


まちがいさがし
佐々木(ヴォーカル/ギター/ピアノ)、松崎(ギター)、和野(ベース)、今野(ドラムス/コーラス)から成る4人組。2011年より活動を開始し、同年の〈閃光ライオット〉東日本大会の最終審査へ進出。2012年に一時活動を休止するも、2016年に再開。以降はコンスタントに新曲のMVを公開し続け、なかでも2018年に発表した“ラブソングに騙されて”は120万以上の再生数を記録。同年の配信限定コンピ『mona SUITE SPOT~to the next stage~』にも収録された。表立った露出はないなか、2019年に東京・吉祥寺シルバーエレファントで行った唯一のライブはソールドアウト。このたび、ファースト・アルバム『八畳間放蕩紀行』(VYBE MUSIC)を10月7日にリリース予定。