90年代にグランジ/オルタナティヴ・ロック・ムーヴメントの寵児として登場し、以降30年近くにわたりモンスター・バンドとして音楽シーンに君臨しているパール・ジャム。彼らが初作『Ten』(91年)をリリースして半年後の92年3月に出演し、そのパフォーマンスが視聴者から賛辞を集めたTV番組が「MTV Unplugged」である。エリック・クラプトンらの出演でも知られる同番組は、その名の通りアコースティックでの演奏を撮影したもの。なかでもパール・ジャムの出演回は、屈指の名パフォーマンスと言われてきた。

今回、その演奏を収録した『MTV Unplugged』が初めてCD/デジタルとしてリリース。かねてからパール・ジャムのビッグ・ファンであることを公言し、彼らの海外公演にもたびたび足を運んでいるライターの上野功平が同作の魅力……のみならず今年に入ってからのバンドの動きもまとめつつ、2020年にパール・ジャムを聴く意味までを熱く綴った。 *Mikiki編集部

 


パール・ジャムとともに生きてきたアメリカの人々

「オーマイガーッ! オーマイガーッッ!!」

スリリングなオープニング“Once”から、長尺ジャムになだれ込んだ“Even Flow”を経て、ストーン・ゴッサードが奏でる“Alive”の力強いギター・リフが鳴り響いた瞬間、すべてを確信したオーディエンスがどよめいた。あちこちでハイファイヴが交わされる場内を満たすのは、〈とんでもないことが起きている!〉という高揚感。後にも先にも、あんな空気を味わったライブは一度きりだ。

2016年4月29日、米フィラデルフィアのウェルズ・ファーゴ・センターで開催されたパール・ジャムのコンサートは、彼らがデビュー・アルバム『Ten』を24年ぶりに完全再現した伝説の一夜として語り継がれている(会場側が用意した〈10回連続ソールド・アウト〉記念のフラッグを見て、急遽思いついたのだとか)。僕は幸運にもこの現場に立ち会えたひとりだが、脂の乗り切ったタフでしなやかなパフォーマンスはもちろん、巨大スクリーンに次々と映し出された観客の表情が今でも忘れられない。

ジェフ・アメンとマット・キャメロンのグルーヴがエグいほど絡む “Why Go”、美しいリフレインと大合唱がさざ波のごとく広がっていく“Black”、そしてエディ・ヴェダーがMCで〈亡き者たち〉への祈りを捧げた“Release”。それぞれの楽曲にそれぞれの想いとストーリーがあるはずだが、どこを切り取っても映画のワンシーンのように感極まった顔を見せるファンたちを見て、アメリカ人としてパール・ジャムと同時代を生き抜いてきた彼らの人生を、心の底から羨ましいと思った。

2016年4月29日のライブを収めた公式映像より、『Ten』収録の“Why Go”

 

バンドの30周年アニヴァーサリーとなるはずだった2020年

新型コロナの無い世界線であれば、2020年はパール・ジャムにとってライブ・デビュー30周年のアニヴァーサリー・イヤーとなるはずだった。3月にリリースされた渾身のニュー・アルバム『Gigaton』を引っさげたワールド・ツアーもすべて翌年以降に延期となり、いちファンとしても失意のドン底に突き落とされた気分ではあったものの(筆者はUK&ヨーロッパでの5公演に行く予定でした)、未曾有のパンデミックにこのバンドが沈黙を貫くわけもなく……。

まず4月には、レディー・ガガがキュレーションした医療従事者の支援を目的とするイベント〈One World: Together At Home〉にエディがリモート出演し、『Gigaton』の最終曲“River Cross”を教会のオルガンを使って演奏。6月10日には、米ワシントン州の団体〈All In WA〉とAmazonが企画したチャリティ・コンサートにメンバーがそれぞれ自宅から登場して、トーキング・ヘッズを彷彿とさせる新機軸“Dance Of The Clairvoyants”をライブで初披露してみせた。

〈One World: Together At Home〉での“River Cross”
〈All In WA〉とAmazonの企画によるチャリティ・コンサートでの“Dance Of The Clairvoyants”
メンバーの他にエディの奥さん&娘さんや、レッド・ホット・チリ・ペッパーズを脱退したジョシュ・クリングホッファーの姿も確認できる
 

10月に入ると、24時間限定で入手可能だったチャリティ・コンピレーション『Good Music To Avert The Collapse Of American Democracy, Volume 2』に収録されていた重厚感の漂う新曲、“Get It Back”をデジタル配信でリリース。さらに、アメリカ大統領選挙への投票を呼びかける〈PJ Votes 2020〉を公式サイトで立ち上げたかと思えば(ちなみにパール・ジャムはバイデン支持)、件の『Ten』再現セットのフル・パフォーマンス映像を10月22日――ちょうど30年前、彼らがシアトルのヴェニュー、オフ・ランプ(The Off Ramp)で初ライブを行った日でもある――から4日間限定でオンデマンド配信したばかりだ。

“Get It Back”
 

また、11月27日(金)にはストーンが元バンドメイトのマット・チェンバレンらと組んだ新プロジェクト=ペインテッド・シールド(Painted Shield)のデビュー・アルバムも控えているそうだし、ここに来てパール・ジャムの動きはかつてなく活発だと言えるだろう。その流れで突如発表されたのが、この度11月4日に日本盤がリリースされた『MTV Unplugged』である。

 

PEARL JAM 『MTV Unplugged』 SONY MUSIC LABELS(2020)

 グランジ全盛期を象徴する名演

『MTV Unplugged』は、パール・ジャムが92年3月16日のスタジオ・ライブ番組「MTV Unplugged」に出演した際に披露した7曲の音源を収めた作品だ。昨年の〈レコード・ストア・デイ〉でアナログ盤が限定発売されたほか、2009年の『Ten』DXエディション/スーパーDXエディションにはライブ映像のDVDが付属していたものの、CD単体/配信でのリリースは今回が初めてとなる。

〈アン・プラグド〉……つまり、〈プラグを抜いた〉アコースティックかつラフなスタイルで演奏する同企画は89年にスタートし、90年代の音楽シーンを彩るMTVの名物コンテンツとして、エアロスミス、ポール・マッカートニー、エリック・クラプトン、ブルース・スプリングスティーン、ボブ・ディラン、ニール・ヤングといった錚々たるアーティストが出演を果たしている。そんな中、デビューからわずか半年しか経っていない新人だったパール・ジャムが抜擢されるのは極めて異例だったという。

さっそく再生ボタンを押してみよう。『Ten』から“Oceans”で幕開けするこの日のライブは、到底アコースティックとは思えぬパワフルで生々しいアンサンブルが魅力。「俺のサーフボードについて書いた、ちょっとしたラブソングだよ(笑)」と曲紹介するエディのバツが悪そうなMCも微笑ましいが、『Ten』収録曲が大半を占めるセットリストにおいて、2曲目に“State Of Love And Trust”が披露されていることもポイントだ。同楽曲はエディや故クリス・コーネル(サウンドガーデン/オーディオスレイヴ)、アリス・イン・チェインズらも出演したキャメロン・クロウ監督の映画『シングルス』(92年)のサントラに提供されたナンバーで、今もパール・ジャムのライブでは人気の高いハイ・エナジーな1曲。焦燥感たっぷりにつんのめったビートとアコギのリフに、エディの剥き出しなシャウトが絡んでいくに様は、思わずこちらも熱くなる。

〈MTV Unplugged〉での“State Of Love And Trust”
映像でエディ・ヴェダーが着用する茶色のコーデュロイ・ジャケットは、シアトルのポップ・カルチャー博物館〈MoPOP〉に展示されている
 

魂を解放するような“Black”、原曲よりもどこかレイドバックした“Even Flow”も素晴らしいが、エディがFワードをガッツリ歌ってしまう(放送時と音源ではカット)“Porch”では、遂にバンドのグルーヴが大爆発。案の定、エディが椅子の上でサーフィンするわ、ジェフがバス・ドラムの上に乗って弾き倒すわの大暴れなので、ぜひYouTubeのライブ映像も合わせてチェックしてみてほしい(メンバー全員がロン毛というルックスにも驚くはず)。しかし冷静に考えてみれば、92年当時はメンバーもまだ20代後半。そもそもアコースティック・セッションの経験すら片手で数えられるくらいだったそうだし、後半に向かって帽子もコーデュロイ・ジャケットも脱ぎ捨て、どんどん熱を帯びていくエディのエモーショナルな歌唱は、ニルヴァーナの『MTV Unplugged In New York』(94年)と並ぶグランジ全盛期の名演と呼べるだろう。

〈MTV Unplugged〉での“Porch”
2分18秒ごろからエディが自らの腕にマジックで書き殴る〈PRO-CHOICE〉とは、人工妊娠中絶の合法化を支持すること。産むか産まないかは女性の選択(チョイス)に任されるべきだとする主張だ
 

米国内だけで1,300万枚を売った『Ten』は、ローリング・ストーン誌のダン・エプスタインいわく〈オルタナティヴ・ロックとメインストリーム・ロックの区別を曖昧にした〉アルバムだったという。カメラ・クレーンからダイヴを決行してしまう命知らずなパフォーマンスに、炎上を恐れないポリティカルな意思表示、あるいはエディの切実な歌声と言葉(“Jeremy”は親に理解されずに育った孤独な少年が、クラスメートたちの前で拳銃自殺を遂げた実際の事件が元になっている)は行き場のない怒りを抱えた若者たちの心をつかみ、パール・ジャムは〈ジェネレーションXの代弁者〉とまで評された。誤解を恐れずに言えば、当時の彼らを取り巻く熱狂とセンセーションは、〈音楽ジャンルを殺した〉とまで言われる現代のジェネレーションZ(90年代後半から2000年代にかけて生まれた世代)の象徴、ビリー・アイリッシュと同等かそれ以上でさえあったのだ。

 

パール・ジャムとビリー・アイリッシュの共通点

パール・ジャムとビリー・アイリッシュ。音楽的には似ても似つかぬ両者だが、クリス・コーネルの娘リリー・コーネル・シルヴァーが〈IGTV〉で行っているメンタル・ヘルスについての対談番組「Mind Wide Open」にゲスト出演したエディ自身も、「たくさんの人がビリー・アイリッシュの音楽を聴いてるけれど、俺たちのファースト・アルバムを思い出したよ。あそこ(『Ten』)には悲しい曲もいくつかあったし、〈これに何千万人も共感しているなんて、ちょっと気が滅入るな〉とも思ったんだ。でも、よくよく考えてみれば、それって誰にとっても健全なことだったんだよね」と言及している。

時代を射抜くリアルな視点……という意味では、両者が〈環境問題〉というイシューで繋がっていることも無視できないだろう。パール・ジャムの最新作『Gigaton』のアートワークに起用されたのは、地球温暖化の影響で氷河が溶け始める様子を捉えたポール・ニックレンの写真「アイス・ウォーターフォール」。実写とアニメーションを組み合わせた“Retrograde”のミュージック・ビデオには、気候変動に対して何も対策しなかった場合の〈最悪の未来〉を見せる占い師として、環境活動家のグレタ・トゥーンベリが登場している。

2020年作『Gigaton』収録曲“Retrograde”
ジョシュ・ウェークリーが手がけたMVには、パール・ジャムのメンバーもタロットカードの中に描かれて登場
 

そんなグレタに「道を切り拓いているよね」と賛同を寄せるビリーは、自身のツアーやインタビューでプラスチック・ストローの廃止/マイ・ボトルの持参などを促したほか、気候変動をテーマにした“all the good girls go to hell”のMVを公開した際、インスタグラムのストーリーズで次のようなメッセージを発信。

今この瞬間も、世界にいる何百万人もの人たちが、各国の指導者たちに向けて地球温暖化への迅速な対応を求めている。私たちの地球は、いまだかつてない速度で温暖化している。極地の氷は溶け、海面は上昇し、野生生物たちは毒され、森林は燃えている。

2人の娘を持つ父親として、エディがグレタやビリーの活動にインスパイアされたであろうことは想像に難くない。

ビリー・アイリッシュの2019年作『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』収録曲“all the good girls go to hell”
リッチ・リーが手がけたMVは、〈国連気候行動サミット2019〉に合わせて発信された
 

また、ビリーはメンタル・ヘルスについてオープンでいることの重要性を公言し、自殺防止団体のキャンペーンにも参加しているが、エディもまた数多くの死や悲劇を乗り越えてきた。周知の通りクリスは2017年にツアー先のデトロイトで自ら命を絶ってしまったのだが、彼とは兄弟のように親しかったというエディは、リリーに対してこんなことを話している。

「君のお父さんが書く歌詞には、確かにダークなものがあった。それはカート(・コバーン)の歌詞もそうだし、レイン(・ステイリー)だってそうだ。別に彼らは〈暗い歌詞を書くフリをしなきゃ〉と思っていたわけじゃなくて、みんなにとってそれがリアルなことだった」。

リリーとエディの対話は非常に意義深いもので、コロナ禍以降、日本でも芸能人やアーティストを含む自殺が相次いでいる。死を選んだ当事者の苦しみは本人にしかわからないが、多くの人が自分の弱さや辛い経験を人にシェアすることは恥ずかしいことじゃないんだと理解し、対話を通して少しずつ歩み寄っていくしかないのだろう。以下に著書「なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門」で知られる音楽学校教師/産業カウンセラー、手島将彦氏の言葉を引用したい。

メンタル面で起きてしまう問題の多くは、その当事者ではなく環境の方に問題があるかもしれない、と考えてみることが大切です。そしてできることなら、そもそもメンタルの問題が生じないように、誰もが生きやすい社会を目指すべきなのだと思います。

Rolling Stone Japan掲載の記事〈もし「死にたい」と打ち明けられたら――最も悲劇的な“自殺”について考える〉より

エディ・ヴェダーとクリス・コーネルが旧友アンドリュー・ウッドを追悼するために結成したテンプル・オブ・ザ・ドッグの91年作『Temple Of The Dog』収録曲“Hunger Strike”

 

自分たちが音楽を続けることが、犠牲者たちへの弔いになる

もうひとつ忘れてはいけないことがある。パール・ジャムが2000年にヘッドライナーを務めたデンマークの〈ロスキレ・フェスティバル〉では、ライブ中に観客がステージに押し寄せ9人が圧死する痛ましい事故が起き、バンドは残りの欧州ツアーをすべてキャンセルした。それからエディは意気消沈して塞ぎ込んでいたが、救いの手を差し伸べてくれたのは、同様に79年のシンシナティのコンサートで11人が亡くなる悲劇を経験した、ザ・フーのピート・タウンゼントとロジャー・ダルトリーだったそうだ。

「なんで俺たちにこんなことが起きたのか理解できない」(エディ)
「お前なら対処できるからだ」(ピート)

パール・ジャムはその後、ロスキレの悲劇について歌った楽曲“Love Boat Captain”を2002年に発表。今年6月には事故から20年の節目ということもあり、公式サイトではバンドを代表してストーンからの追悼メッセージが掲載されている。その真摯な言葉には(ぜひ全文を翻訳してみてほしい)、自分たちが音楽を続けることこそが、犠牲者たちへの弔いになるんだ――と言わんばかりの決意を感じられないだろうか。

2002年作『Riot Act』収録曲“Love Boat Captain”
この曲の歌詞には〈知りもしない友達を9人失った…2年前の今日に〉というフレーズがある
 

2020年代にパール・ジャムを聴くということ。それは、彼らの反骨と慈愛に満ちた30年間と向き合うということでもある。そして、アンドリュー・ウッド、カート・コバーン、レイン・ステイリー、スコット・ウェイランド、クリス・コーネル、さらにはチェスター・ベニントンまで、グランジ・ムーヴメント以降の多くのバンドが偉大なフロントマンを失ってしまった今、エディ・ヴェダーが〈生きて〉音楽を作り続けてくれているという事実に、僕らもまた救われるのだ。

I, I’m still alive
俺は、俺はまだ生きている
Hey, I, oh, I’m still alive
そう、俺は、俺はまだ生きている
Hey, I, oh, I’m still alive
ああ、俺は、俺はまだ生きている
Hey, I, oh, I’m still alive, yeah
そうさ、俺は、俺はまだ生きている
Ooh yeah, yeah, yeah, yeah, oh, ooh
ああ、そうだ、そうだ、そうだ、そうだ!

91年作『Ten』収録曲“Alive”

〈MTV Unplugged〉での“Alive”