©John V.Esparza

説明不要の世界的なスーパースターがロマンティックなモードで新章へと突入…… 時代を圧倒的にエンターテインする2026年最大の話題作が早くも届いたぞ!

話題沸騰の“I Just Might”

 グラミー賞の大舞台から〈驚安の殿堂〉まで。スクリーンの向こう側にいたかと思えば、渋谷のドン・キホーテにも現れるブルーノ・マーズ。世界的なスーパースターでありながら、近所にいそうなパリピ風情のチャラ男も気取る。最近の曲で例えるなら、レディ・ガガとのロッカバラード“Die With A Smile”で愛の尊さを謳う一方で、ロゼとの能天気ポップス“APT.”で飲み会ゲームに興じる振り幅の広さだ。その両極端な姿にファンはジェットコースターのように翻弄され、熱狂する。そんな稀代のエンターテイナーが10年ぶりに発表するソロ・アルバム『The Romantic』もリリース前から話題沸騰だ。

BRUNO MARS 『The Romantic』 Atlantic/ワーナー(2026)

 新年早々、自身のSNSで〈My album is done.〉と投稿して新作の完成を明らかにすると、続けてアルバムにちなんだツアーや先行シングルの発表を告知した。ほどなくしてリリースされた新曲“I Just Might”は、ざっくりと言えば70年代風のポップ・ソウル。ダンスフロアで目にした女性が外見どおりの華やかさでダンスを踊れたら恋に落ちてしまうかも……というブルーノらしい屈託のないラヴソングだ。“Marry You”など初期のヒットにも通じる陽気な曲で、レオ・セイヤーの“You Make Me Feel Like Dancing”など懐かしいソウル〜ポップソングをあれこれと連想させるあたりはシルク・ソニックの延長線上にあるとも言える。

 アンダーソン・パークと組んだシルク・ソニックは、巨匠ブーツィ・コリンズをプレゼンターに迎え、スウィート・ソウルやディスコなどを大真面目に歌う自分たちの姿を客観視しながら70年代のソウル/ファンクを再現したユニットだった。そのサイレント・パートナーとしてサウンドメイキングに貢献したのが、今回の新曲“I Just Might”を共同制作したDマイルである。ブルーノと同じ85年生まれで、NYブルックリン出身の彼は2000年代にロドニー・ジャーキンズ門下としても活動し、メアリーJ・ブライジやジャネット・ジャクソンの曲にも関与していた奇才。その頃からヴィクトリア・モネイをサポートし続け、2010年代後半にラッキー・デイやH.E.R.の仕事で最前線に浮上すると、2020年代にはグラミー賞の栄冠も手にした。

 

成熟したロマンティシズム

 そんな仕事ぶりに注目していたブルーノがDマイルと出会ったのは、共通の知り合いだったジェイムズ・フォントルロイを介して。そのジェイムズが参加した『24K Magic』でR&Bに軸足を移したブルーノが本格的にR&Bを歌うシンガーとして歩んでいくためのレールを整備したのがDマイルだったと言っていい。ふたりは、シルク・ソニックの前にチャーリー・ウィルソン“Forever Valentine”や嵐“Whenever You Call”を共同でプロデュース。チャーリーの曲には『24K Magic』などに貢献したステレオタイプスも関わっており、カーディ・Bとの“Please Me”やセクシー・レッドとの“Fat Juicy & Wet”に手を貸した彼らもブルーノをR&B/ヒップホップ側に引き寄せたチームだった。もちろん、スミージングトンズの一員として初期の作品から貢献しているフィリップ・ローレンスや、彼を含む『24K Magic』の制作チーム=シャンプー・プレス&カールにも名を連ねたベース奏者のブロディ・ブラウンも重要なブレーンだ。

 新作の先行曲“I Just Might”はブルーノとDマイルの共同制作で、ソングライティングにはフィリップ・ローレンスとブロディ・ブラウンのふたりも参加。このクレジットからも『24K Magic』やシルク・ソニックの流れを汲む形で制作されたことが想像できる。演奏は、過日の第68回グラミー賞で“I Just Might”を披露した際にもブルーノとステージに立った仲間たち。トロンボーンのキャメロン・ウェイラム、トランペットのジミー・キング、サックスのドウェイン・ダガー、ベースのジャマレオ・アーティス、鍵盤のジョン・フォシット、そしてパーカッションを担当した兄のエリック・ヘルナンデスなど、これまでフーリガンズとしてブルーノを支えてきた面々だ。彼らはジェイムズ・ブラウンにとってのJB’s的な存在として人力のグルーヴを生む。

 スタイリスティックスのスウィート・ソウルを模したようなシルク・ソニックの“Leave The Door Open”をはじめ、ラッキー・デイの“That’s You“、レディ・ガガとの“Die With A Smile”など、ブルーノがDマイルと組みはじめてからの曲には、初期の作品以上にソウル〜オールディーズ的なスケールの大きさとロマンティシズムが顕著に現れるようになった。こうしたマチュアなアプローチは昨年で不惑を迎えたブルーノが年齢と共に音楽的に成熟してきた証とも言えるが、この流れで新作のタイトルが『The Romantic』となったのも興味深い。

 

アートワークが意味するもの

 ブルーノの顔がバストアップで描かれたアルバム・ジャケットは、モノクロームのシンプルなアートワークも目を引く。そして、ジャケットを縁取る薔薇と鎖、および書体は、チカーノ(メキシコ系アメリカ人)・アートやローライダー・カルチャーのそれを想起させる。〈ロマンティック〉という言葉自体が、その文化を象徴するものだ。思えばブルーノは、先述したカーディ・Bとの“Please Me”のMVをイーストLAのバリオにあるダイナー〈Tacos Mexico〉で撮影していた。メキシコ系ではないがラテン(プエルトリコ系)のルーツを持ち、LAで活動する彼にとってチカーノ・コミュニティは身近な存在なのだろう……とは推測にすぎないが、ブルーノがこれまでの活動を通して同コミュニティで好まれているようなスウィート・ソウルやドゥワップ(それらをチカーノたちが聴くソウル〜オールディーズという意味でチカーノ・ソウルとも呼ぶ)に愛着を示してきたことを踏まえると、新作のジャケットやタイトルには納得がいく。ブルーノがバンド・メンバー全員を演じた“I Just Might”のMVからもそんな雰囲気は感じられた。

 加えて、“I Just Might“のミキシング・エンジニアに注目してみると、『Unorthodox Jukebox』以降のアルバムに関わってきたチャールズ・モニスのほか、ホーン・エンジニアとしてガブリエル・ロスとアンソニー・マシノの名前があることに気づく。ボスコ・マンの名でも知られるガブリエル・ロスはダップトーンの主宰者で、アンソニー・マシノはダップトーン系列から曲を出しているエムケイズのメンバー。『24K Magic』やシルク・ソニックの楽曲でダップトーン一派のホーマー・スタインワイスを起用していた繋がりとも言えるが、ジー・セイクリッド・ソウルなどの現行チカーノ・ソウル(こちらはチカーノたちが歌い奏でるソウル)を含むレトロ/ヴィンテージ系ソウルの立役者たちがエンジニアとして名を連ねているあたりにアルバムのヒントが隠れている気もする。

 本号(「bounce vol.507」)が出る頃にはアルバムの全容も判明しているはず。いずれにしても、世代や人種、国籍を超えて楽しめる圧倒的なわかりやすさでブルーノ流のソウルを届けてくれることは“I Just Might”が出た時点で明らかだ。Dマイルがため息をつくほどの完璧主義者でもあるブルーノは、今回も万人を熱狂させるためにミックスやマスタリングも含めて手間と時間をかけまくったに違いない。新作『The Romantic』はインスタント・クラシックになることが約束されている。

左から、ブルーノ・マーズの2010年作『Doo-Wops & Hooligans』、2012年作『Unorthodox Jukebox』、2016年作『24K Magic』(すべてAtlantic)、シルク・ソニックの2021年作『An Evening With Silk Sonic』(Afterm ath/Atlantic)

ブルーノ・マーズの参加した近作。
左から、ロゼの2024年作『Rosie』(The Black Label/Atlantic)、レディ・ガガの2025年作『Mayhem』(Streamline/Interscope)、2025年のサントラ『Lilo & Stitch』(Walt Disney)