BUCK-TICKの5thアルバム『狂った太陽』が、1991年の発売から35年を迎えた2月21日にアナログ盤でリイシューされた。前作『惡の華』で確立させたBUCK-TICKとしての世界観に新たな要素を加えた本作は、その後のバンドの方向性や音楽性にも影響を与える革新的な作品に仕上がった。バンドにとって大きなターニングポイントとなった名盤の真の価値を李氏(音楽ZINE「痙攣」編集長)に見極めてもらった。 *Mikiki編集部
『狂った太陽』に漂う、ただならぬ気配の正体
『狂った太陽』からは都市の匂いがする。舗装が所々ひび割れたアスファルトの上にぶち撒かれたオイルと吐瀉物の匂いだ。通りに輝くネオンに照らされてぬらぬらと光を反射するそれらを避けながら、人々はここが理想郷でも何でもないことを日々噛み締めながら生きている。上を見ればスクリーンに笑顔の若い女性の広告が爛々と映し出され、さらに視線を上に向ければ星も見えないような薄い黒に覆われた単調な夜空が広がっている。そう、このような無機質な退廃こそが同作の基底をなすトーンにほかならない。
都市とポップス。例えばシティポップの全盛期がバブル景気以前の〈煌びやかな都市生活〉への憧れに支えられていたように、メンバーが群馬県の出身者で占められていることを踏まえても、『狂った太陽』以前のBUCK-TICKの楽曲には〈地方からの眼差し〉に基づくファンタジックな都市生活者のイメージが散見される。過剰なほどロマンティックに描かれたり(“JUST ONE MORE KISS”)、ゴシックな猟奇を匂わせたりするにせよ(“NATIONAL MEDIA BOYS”)、そこに地方の風景の中では成立しようのないファンタジーが仮託されていたのは間違いない。
この都市に対する幻想という意味において『狂った太陽』は確かに過去作の文脈へと連なっている。ジャケットデザイン等に採用されたメカニカルなデザインが特徴的なフォントや“スピード”のPVのチューブを多用したインダストリアルな意匠は、当時のサイバーパンクSFや「AKIRA」などに象徴される荒廃した近未来都市の風景とも共振する。その意味では今作は過去のアルバムの延長にある作品だ。
しかしながら、『狂った太陽』にはそういったファンタジーの予定調和を内側から突き破るような何かが蠢いているように感じられてならない。シングルカットされた“スピード”をはじめとして、英国由来のマッドチェスターの流行をいち早く取り入れ、これをバンドが元来得意としていたインダストリアルやゴシックの方法論で増強したぶ厚く生々しいサウンドにも、あるいは“変身(REBORN)”のボディホラー的な歌詞表現の裏に潜む情念の凄みにも、このようなただならぬ気配は漂っている。
櫻井の母の死、比留間整との出会いがもたらした音楽的/感情的な深み
この変化は当時バンドが迎えることになった転機からも語ることができる。サウンドエンジニアの比留間整との出会いとボーカル櫻井敦司の実母の死がそれだ。
バンドのギタリストにして主要コンポーザーである今井寿がたびたびインタビューで語っているように、その後バンドと継続して組むことになる比留間との出会いは彼らのポテンシャルを開花させる最大のきっかけとなった。彼との密なやりとりの中で、当時インダストリアルやテクノを聴き漁っていた今井のエレクトロニックな趣向がここに来て全面的に作品へと反映され、バンドの音楽的な広がりが一気に増すこととなったのだ。
また櫻井の母の死は作詞面においてもある種の感情的な深みをもたらすことになった。本人が母にレクイエムとして捧げたと語る“JUPITER”と“さくら”の二つの名曲のみならず、エロスや暴力の表現においてもファンタジー的な上滑りが生じていないのは、当時の彼の心理的な動揺が深く刻印されているからだろう。
これら二つの転機を経たバンドの変化が最も濃厚に反映されたのが“MAD”、“地下室のメロディー”、“太陽ニ殺サレタ”の終盤の3曲の流れだ。これらの楽曲はアルバムの中でも最もゴシック色が強く、リリックの内容からしても絶望の色を一気に強めて終わりへと雪崩れ込む壮絶な展開となっている。とりわけ作曲者の今井が再録アルバムである『殺シノ調ベ This is NOT Greatest Hits』の制作にあたって、これ以上いじりようがないと語った“MAD”は重要で、当時の彼のリズムとサウンドの探究が、それぞれテクノに着想を得た電子音のフレーズと上モノ的に差し込まれるリズムギターのマッドチェスター的な音色に活かされている。
これらの機械的で直線的な演奏の上で、病棟から脱走した精神病患者のような錯乱や狂気がひたすら歌われることで、人間性からの逸脱や後戻りできないデスパレートなムードがさらに強調されるわけだ。このようにサウンドとリリックが絡み合い切迫した心理的な倒錯が表現されるなかで『狂った太陽』のファンタジーを内破するような異様な質感は生まれている。
都市に対する幻想とそれを内側から突き破る裂け目。これら二つの同居が『狂った太陽』のある種のリアリティを支えていると言ってよいだろう。無機質な荒廃に覆われた都市はもはやファンタジーを語ることはなく、人々は狂気と隣り合わせの虚無を内奥に抱えながら今日も生きている。その後の日本の景気後退を決定づけることとなるバブル崩壊直前、バンドブームに浮かれきった音楽シーンに放たれたこの傑作は、多くの名盤がそうであるように期せずして時代の予兆としての側面を帯びることとなったのだ。
RELEASE INFORMATION
リリース日:2026年2月21日(土)
完全生産限定アナログ(2LP)
品番:VIJL-60401〜60402
価格:7,150円(税込)
33 1/3rpm
2枚組/180g重量盤
クリアヴァイナル仕様
最新リマスター&カッティング
復刻デザインポスター封入
TRACKLIST
SIDE A
1. スピード [作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿]
2. MACHINE [作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿]
3. MY FUNNY VALENTINE [作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿]
SIDE B
1. 変身(REBORN) [作詞:櫻井敦司/作曲:星野英彦]
2. エンジェルフィッシュ [作詞:櫻井敦司/作曲:星野英彦]
3. JUPITER [作詞:櫻井敦司/作曲:星野英彦]
SIDE C
1. さくら [作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿]
2. Brain,Whisper,Head,Hate is noise [作詞:今井寿/作曲:今井寿]
3. MAD [作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿]
SIDE D
1. 地下室のメロディー [作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿]
2. 太陽ニ殺サレタ [作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿]
1991年2月21日にリリースされた5作目のオリジナルアルバム。『TABOO』(1989年)、『惡の華』(1990年)でBUCK-TICKが目指すサウンドの方向性やダークな世界観を確立しつつあるなか、テクノやエレクトロニックなサウンドメイクが加わり、その後のBUCK-TICKサウンドを決定づけた重要な作品。シングル“スピード”、“MAD”、“JUPITER”を収録。⽇本レコード協会プラチナディスク認定、第33回⽇本レコード⼤賞優秀アルバム賞受賞。
リリース日:2026年3月21日(土)
完全生産限定アナログ盤(3LP)
品番:VIJL-60403〜60405
価格:12,100円(税込)
33 1/3rpm
3枚組/180g重量盤
クリアカラーヴァイナル仕様
最新リマスター&カッティング
復刻デザインポスター封入
TRACKLIST
SIDE A
1. ICONOCLASM [作詞:今井寿/作曲:今井寿]
2. 惡の華 作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿]
3. DO THE “I LOVE YOU” 作詞:今井寿/作曲:今井寿]
SIDE B
1. VICTIMS OF LOVE [作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿]
2. M・A・D [作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿]
SIDE C
1. ORIENTAL LOVE STORY [作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿]
2. スピード [作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿]
SIDE D
1. LOVE ME [作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿]
2. JUPITER [作詞:櫻井敦司/作曲:星野英彦]
SIDE E
1. ...IN HEAVEN... [作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿]
2. MOON LIGHT [作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿]
3. JUST ONE MORE KISS [作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿]
SIDE F
1. TABOO [作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿]
2. HYPER LOVE [作詞:今井寿/作曲:今井寿]
1992年3月21日リリースのセルフカバーアルバム。1987年にメジャーデビューし、デビュー5周年を迎えたバンドが前年にリリースした『狂った太陽』(1991年)で培った〈この5人ならではのグルーヴ〉を活かしてリアレンジ、リレコーディングした作品。BUCK-TICKというバンドの特異性を裏付ける、当時としても画期的な作品となった。日本レコード協会ゴールドディスク認定。
リリース日:2026年6月23日(火)
完全生産限定アナログ盤(2LP)
品番:VIJL-60406〜60407
価格:7,150円(税込)
33 1/3rpm
2枚組/180g重量盤
カラーヴァイナル仕様
最新リマスター&カッティング
復刻デザインポスター封入
TRACKLIST
SIDE A
1. キラメキの中で... [作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿]
2. Deep Slow [作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿]
3. 誘惑 [作詞:櫻井敦司/作曲:星野英彦]
SIDE B
1. 青の世界 [作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿]
2. 神風 [作詞:今井寿/作曲:今井寿]
3. ZERO [作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿]
SIDE C
1. ドレス [作詞:櫻井敦司/作曲:星野英彦]
2. LION [作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿]
3. Madman Blues -ミナシ児ノ憂鬱- [作詞:今井寿/作曲:今井寿]
SIDE D
1. die [作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿]
2. darker than darkness [作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿]
1993年6月23日リリースの7作目のオリジナルアルバム。〈闇よりも暗く〉と名づけられた本作はヘヴィーでノイジーなギターサウンドが、新鮮なアンサンブルを生み出す一方、キーボードで作曲された繊細な楽曲も収録。リアルな言葉で紡がれた歌詞世界は、より進化した唯一無二のロックサウンドを堪能できる。シングル“ドレス”、“die”収録。日本レコード協会ゴールドディスク認定。



