(左から)Taito、岩本岳士
 

大阪で結成され、2017年には〈SONIC MANIA〉への出演も果たした5人組バンド、Mississippi Khaki Hairによる待望のファースト・フル・アルバム『From Nightfall till Dawn』がリリースされた。

本作は、ポスト・パンクやガレージ・ロック、シューゲイザーなど1980〜2000年代のロック・シーンに影響を受けたサウンドが特徴である。バリトン・ヴォイスが印象的なヴォーカリスト、Taitoが作り出すメロディーは、フランツ・フェルディナンドやホラーズをフェイヴァリットに挙げるだけあってポップで叙情的。ヘヴィーかつダークなサウンドスケープと織りなすその鮮やかなコントラストが、彼らの存在を他とは一線を画すものとしている。

なお、プロデューサーはQUATTROの岩本岳士。No BusesやJohnnivanなどを手がけてきた彼の手腕が、本作の持つ〈同時代性〉に一役買っていることは間違いないだろう。そこで今回は、Taitoと岩本による〈師弟対談〉を敢行。バンドの成り立ちについてはもちろん、新作のこと、バンドのプロデュース論など様々なトピックについて、大いに語り合ってもらった。

Mississippi Khaki Hair 『From Nightfall till Dawn』 MKH the Private Heartache(2020)

 

L'Arc~en~Ciel、THE NOVEMBERS、そしてMississippi Khaki Hair?

――まずは岩本さんが、Mississippi Khaki Hairのプロデュースを手がけることになった経緯から教えてもらえますか?

岩本岳士(QUATTRO)「実は、プロデュースをオファーされる1年くらい前からライブを何度か観たことがあって」

Taito(Mississippi Khaki Hair)「あ、そうだったんですね(笑)」

岩本「最初の印象は、僕がQUATTROというバンドで活動していた2010年前後、同世代で心突き動かされたTHE NOVEMBERSやPsysalia Psysalis Psyche、Lillies and Remains、PLASTICZOOMSあたりと比べてしまって、〈ちょっと抜かりあるかな〉と思っちゃったんですよね(笑)。L'Arc~en~CielやLUNA SEAなどが登場したときに小学生、中学生だった彼らは、ラルクなんかに惹かれたうえで、ポスト・パンクやゴスなど様々な音楽を取り入れながら、自分たちのスタイルを築き上げてきたから。なので、プロデューサーとして関わらせてもらうとなったときは、いま挙げた僕と同世代のバンドの作品にも対抗できるようなアルバムを作ろうと思ったんですよ。

でも実際に一緒にやってみたら、Taitoが見ているものはそことはちょっと違うことに気づいたんです。僕自身、何か〈岩本メソッド〉みたいなものがあって、プロデュースするアーティストを岩本カラーに仕上げようとするタイプではないんです(笑)。理想はリバティーンズをプロデュースしたときのバーナード・バトラーのような、完成した音源を聴いても〈バーナード・バトラーがプロデューサーの意味ある?〉と思わせるような関わり方。それがいちばんかっこいいと思っているんですよね。そのうえで、やっぱりバーナードでなければ到達し得なかった作品にちゃんとなっているという」

Taito「なるほど、すごくよくわかります」

岩本「なので今回も、本人たちがもともと持っている良さをそのまま引き出そうと思いました」

『From Nightfall till Dawn』のティーザー映像
 

――その良さとは、例えば?

岩本「とにかくTaitoは、音楽やカルチャーに対しての愛情がすごいんですよ。逆に言えば、そこが迸りすぎて整理できていないというか」

Taito「あははは!」

岩本「それってやりたいことがたくさんあって、自分の好きなバンドがやってきた手法などを研究して取り入れているからだろうなと。自分たちとは別モノであるサウンドや歌い方を、一生懸命取り入れようとしすぎて、聴き手はどこを聴いたらいいのかわからなくなってしまっているみたいな。

僕は今回そこの部分を、ただ話し合いながら整理しただけなんです。要するに、Taitoが作ってきた楽曲のなかに、すでにちゃんとあるものを見えやすくしたというか。ほんのちょっと肩に力を抜いて歌ってみたり、ギターの1音を省いてみたりするだけで全然違うものになるので、そのことを伝えていく作業でした」

Taito「岩本さんには新しい知見、ノウハウ、アプローチをたくさんいただきました。何より、自分たちの至らなさのポイントがはっきりわかって、視野狭窄に陥っていた自分のフィルターを取り払ってもらえた(笑)。視界がものすごくクリアになり、広がったように感じました」