シンガー・ソングライターMaica_nの新曲“Mind game”が12月6日にリリースされた。弱冠20歳のシンガー・ソングライターを初めて知った時の衝撃は凄まじく、繊細かつ個性的な声、そして圧倒的なうえに求心力の強さを感じさせるサウンドに心を打たれたのが最初の印象だ。幼少期からさまざまな音楽に触れ、生み出す楽曲には古きよきオールド・スクールな部分と現代的なポピュラーな部分の両方を感じることができる彼女。今回は、改めてMaica_nの生い立ちや過去作に触れつつ、新曲“Mind game”の魅力について迫っていこうと思う。これをきっかけにMaica_nの魅力を少しでも感じてもらえたら幸いだ。

Maica_n 『Mind game』 Victor Entertainment(2020)

 

Char、山崎まさよしや奥田民生と共演してきたシンガー・ソングライター、〈この子、なにもの?〉

Maica_nは2000年生まれ。佐賀県出身で徳島県阿南市育ち。まだまだあどけなさが残る彼女が〈この子、なにもの?〉と各SNSのハッシュタグやストリーミング・サーヴィスなどで話題になっていることをご存知だろうか。中でもSpotifyが次世代のアーティストをサポートするプログラム〈Early Noise〉に選出されたことにより早耳のリスナーから注目を集め、昨年には日本のレジェンド・ギタリストであるCharとともに〈水戸音楽祭〉でシュレルズのカヴァー“Baby It's You”を演奏したことでも話題となり、一躍彼女の名前が世に知れ渡った。

20歳のシンガー・ソングライターがここまでの大物ミュージシャンとともに堂々と演奏できる所以は彼女の幼少期からの音楽環境にあると考えられる。自身のオフィシャルサイトにも記載のあるように、父親の影響で幼い頃からビートルズやザ・バンド、ダニー・ハサウェイやエリック・クラプトン、ボズ・スキャッグスなど往年のアーティストを聴いて育った。

小学2年生の時には子ども用のギターを買ってもらい、中学時代にはエルヴィス・プレスリーを好んで聴くようになった。その頃から自身で作曲を始め、シンガー・ソングライターとしてのキャリアは6年ほど。ジャンルの異なる多くのレジェンド・ミュージシャンの音楽を聴いていたことによって、彼女の中にはたくさんの音楽的アイデアの引き出しが存在している。一方で、最近ではエド・シーランや星野源といった、現在のポップス界を牽引するアーティストも好んで聴くということで、先述した古きよきオールド・スクールと現代のポピュラリティーを体現する唯一無二の存在感を示すことができている。

 

また、Maica_nのオフィシャルYouTubeチャンネルでは、ビートルズやブルーノ・マーズ、あいみょんなどのカヴァー動画が多数アップされており、そのどれもがMaica_nが生み出す不思議な魅力に昇華された心地よい音源ばかりなのだ。

さらにMaica_nを語るうえで特筆すべき点は、多くのヴェテラン・ミュージシャンに愛されているということ。オフィシャルのYouTubeにアップされた、彼女のメジャー・デビューを祝うコメントが集められた動画には、山崎まさよしや奥田民生、大竹しのぶ、B.B.クィーンズの近藤房之助といったヴェテラン・ミュージシャンたちがコメントを贈っており、業界的にも彼女が大きな期待を寄せられていることが分かる。

 

過去作から振り返る彼女の魅力

それでは一体、彼女が生み出す楽曲の魅力とはなんなのだろうか。次に過去作を振り返ってみようと思う。

デビュー作の『秘密』(2019年)の衝撃度はかなりのものがあった。リード曲の“Dance With Me”では音楽好きの大人たちが反応するような、古きよきシティ・ポップ感やAORの爽快さをグルーヴィーかつリズミカルなテンポで見事に歌い上げ、2曲目の表題曲“秘密”ではガラリと表情を変え、ミッド・テンポのR&B的な楽曲に仕上げ、歌詞には10代〜20代のリスナーが共感できる、センシュアルかつシンプルな言葉を並べて音楽的な説得力を得ている。

4曲目では、話題となった“Baby It's You”をクールに歌い上げている。この楽曲は彼女の好きなアーティストであるビートルズも歌っていた楽曲だが、そのサウンドよりもさらにロック色の強いものに昇華されている。このカヴァーは60年代に活動していたバンド、スミス(Smith)によるヴァージョンを踏襲したもので、それまでロック・テイストの曲に挑んでこなかったMaica_n自身、新たな挑戦だったと過去のインタビューでも話している。仕上がりに関しては言うまでもなく、本当にロック・テイストに触れてこなかったのかと不思議に思ってしまうほどの完成度が高いものになっている。

シティ・ポップからAOR、そしてR&Bと歌い分けるだけでも彼女の音楽の幅の広さが分かるが、5曲目の“タバコと私”のボサノヴァの雰囲気をまとったメロウな曲調は、彼女の才能を存分に引き出したものだと感じる。山口百恵や松田聖子などの楽曲に携わった冨樫春生のストリングスを用いたアレンジも絶妙ではあるが、ボサノヴァのいい意味で気の抜けたメロディーは彼女の個性的な歌声にピッタリ。過去のインタビューでは、詞先でこの楽曲を制作したと話しており、〈タバコが苦手な私と/タバコが好きなあなたと/あなたを好きな私と/もう全部嫌いになってしまいたいわ〉という内に秘めた感情にボサノヴァのメロディーを乗せようと思ったのは、彼女の音楽的な勘の鋭さゆえだと思う。

 

そして、今年2020年の5月に発表されたメジャー・ファーストEP『Unchained』には、『秘密』とは異なるMaica_nの魅力が詰め込まれている。『秘密』が〈私はこういう曲を書くシンガー・ソングライターです〉という名刺なら、『Unchained』はその名刺のデザインをひとまわりもふたまわりもブラッシュ・アップさせた作品だ。

1曲目の“HYW55”では、ギターのカッティング・リフとファンク感のあるベースラインをバックにクールに歌い、2曲目の表題曲“Unchain”では、ロック・サウンドに振り切りながらも、どこか懐かしさを感じるメロディーを歌い上げる。

3曲目の“Go my way”は彼女の女性らしさを前面に出した可愛らしい楽曲。そしてM4の“Flow”は彼女の音楽的な才能を認めているであろうヴェテラン・ミュージシャンがアレンジした贅沢な1曲に仕上がっている。小田原豊・斉藤和義・根岸考旨の3人のアレンジは妙ではあるが、この曲こそが彼女を何段階もブラッシュ・アップさせた楽曲だと感じる。リリックは英語と日本語を織り交ぜ、そのバランスも絶妙。バックで鳴り響くエレクトリックなギター・サウンドも楽曲のポップさを加速させる一翼を担っている。

そのポップさの余韻に浸っていると心地よく耳に入ってくるのが5曲目の“海風”。彼女の地元・徳島の海を歌ったこの楽曲はピアノの音色からスタートし、歌詞には彼女のリアルな感情が反映されている。

 

また、これは筆者の個人的な好みになるが、コロナ禍の今年だから生まれた“Love and Wash”(2020年7月配信)も聴いてほしい楽曲のひとつ。牛乳石鹸とMaica_nが送るラヴソングともいえるこの曲は、手を洗うという単純な事柄を歌にしたものではあるが、その優しいメロディーと優しいリリックはとても心地よく感じられ、この曲を聴きながらだと、面倒に思える手洗い、うがいも進んでしたくなる。〈あの子のためにも20秒〉と歌詞にもあるように、大切な人を思うすべての人に聴いてほしい。

こうやって、彼女の楽曲を紐解いていくと、ひとつのアルバムの中でも多くの音楽ジャンルに触れていることが分かると思う。ひとつのジャンルに絞って活動しているアーティストが多い中で、彼女はジャンルを絞ろうとはしていないのだ。そこが彼女の強みでもあり魅力。そんな風に筆者は感じている。次はどんなジャンルを彼女なりに表現するのか、新曲が出るたびに楽しみになる、そんなワクワク感を生み出し続けているのがシンガー・ソングライターMaica_nだ。

 

いい意味で期待を裏切られる新曲“Mind game”

そんな楽しみをリスナーに提供してくれているMaica_nの新曲“Mind game”は、12月6日から放送されるアニメ「デジモンアドベンチャー:」のために書き下ろされたもので、同アニメのエンディング曲。〈デジモン〉シリーズといえば、99年から放送されている歴史の深いアニメで、この曲はMaica_n自身初の全国放送のタイアップ・ソングになるが、そこに緊張や不安は感じられない。

この曲もまた、いい意味で期待を裏切られる結果になっている。シティ・ポップ、AOR、ロック、R&B、ボサノヴァと多くのジャンルを楽曲にしてきて、次に何を出してくるかと思えば、まさかのスウィング・ジャズ調の楽曲だ。

冒頭は、映画「スウィング・ガールズ」や往年のジャズ・ミュージックを思わせるようなオールド・スクールかつ軽快なサウンドとテンポ。しかし不思議なのが、ここまでオールド・スクールなサウンドに振り切っていながら、現代のポップさを感じさせる点だ。

それはおそらくMaica_nと、そして彼女の共同製作者として前々から活動を共にしているFaithのアイデア力が大きく影響していると感じる。〈デジモン〉の物語をもとに書き下ろされたポップなリリックは〈究極 難局 タフなマインドゲーム〉や〈困惑 誘惑 タフな middle game〉など思わず口ずさみたくなるもので、確実に耳に残る韻を踏んだ言葉選びは圧巻。ポップさの中に少し現在の社会を皮肉ったと思わせるようなリリックも混在させており、今を生きる我々が共感できるエッセンスも忘れていないのが彼女たちのセンスと言えるだろう。

また、今回のリリース情報と同時に公開されたジャケット・イラストは、ミスタードーナツ〈ポン・デ・ライオン〉のキャラクター・デザインなどを手がける、STUDIO HOLIDAYの堀内弘誓が手掛けており、このイラストも合わせてチェックしてほしい。赤髪のMaica_nを描いたイラストは、いつもの彼女とは異なるイメージであり、それでいて彼女の楽曲にピッタリなポップさを感じる。Maica_n自身もこのイラストからインスピレーションを受ける部分があったと話している。

“Mind game”のジャケット・イラスト
 

過去作も新作も含めて改めて思うことは、Maica_nの音楽的感度の高さ。メジャーへ進出し、自身の音楽ジャンルを固定してもいいところを、Maica_nは我々の想像をはるかに超えた作品を生み出し続けているのだ。

シティ・ポップ、AOR、R&B、ジャズ、ここまで多様なジャンルを歌い分けることができる技術と表現力は弱冠20歳にして唯一無二のところまで来ているとさえ感じてしまう。本稿内では彼女の生み出すサウンドをオールド・スクールという言葉を使って表現したが、聴けば聴くほど新しさを感じてしまう。その理由は今を生きる等身大の彼女が生み出す音楽だから。Maica_nが生きてきた時代、そして彼女が思うさまざまな思いを歌やサウンドに乗せてアウトプットしているからこそ、Maica_nの楽曲は光り輝いているのだ。彼女の音楽を〈どこか懐かしくて新しい楽曲〉と評する人間が多い所以はそこにあると筆者は考える。

 

そして楽しみなのは、彼女が2021年の2月にアルバムをリリースするということ。正直、次のアルバムがどんな作品になるのか想像はできない。そう思ってしまうのは、おそらく先述したどんな楽曲でも歌い分けることができる表現者としてのレヴェルの高さが影響していると思う。今度はどの音楽ジャンルで挑んでくるのか楽しみだし、今を生きる20歳の等身大の言葉がどのテーマで紡ぎ出されていくのか、今から楽しみで仕方がない。

楽曲を発表するごとに着実にパワーアップを続けるMaica_n。幼少期からたくさんの音楽に触れ、多くのヴェテラン・ミュージシャンから称賛を受ける彼女が生み出す音楽は今後も飛躍していくことだろう。まだ、聴いたことのない方はこれを機にMaica_nの楽曲を聴いてほしい。きっと今聴かないと後悔することになるはずだ。最後に繰り返しになるが、ここまでの才能を持って、まだ20歳。これから彼女がどんなサウンドを生み、どんな言葉で表現をしていくのか、それを考えると、少し恐ろしささえ感じる。そんなMaica_nから目を離せない。

 


RELEASE INFORMATION

ファースト・アルバム『replica』
2021年2月17日(水)リリース
タイアップ楽曲多数、豪華実力派ミュージシャン(根岸孝旨、小田原豊、是永巧一、SUNNY、gomes等)が参加の渾身のファースト・フル・アルバム!

CD
“Missing angel”(モンストアニメ 「ハレルヤ- 運命の選択 -」主題歌)
“メモ書き”(映画「弁当の日」エンディングテーマ)
“Mind game”(フジテレビ系TVアニメ「デジモンアドベンチャー:」エンディングテーマ)を含む全12曲+ボーナストラックを収録予定

DVD(初回限定盤のみ)
“Mind game”MVを含む全2曲収録予定

 

LIVE INFORMATION
アルバム発売記念ワンマンライブ『LIVE 2021〜Approach to…vol.2』
2021年2月26日(金)東京・青山RizM
開場/開演:18:30/19:00
前売り:¥4,300(税込)+1ドリンク/当日券:未定
先行販売:2020年12月11日(金)※ライブ会場にて手売り予定
一般発売:2020年12月23日(水)10:00〜
メンバー:草刈浩司(ギター)、根岸孝旨(ベース)、小田原豊(ドラムス)、友成好宏(キーボード)他

オープニングアクト:Motoki
サポートメンバー:大渡亮(Do As Infinity/ギター)、山田"Anthony"サトシ(ベース)、松本淳(ドラムス)、中込陽大(キーボード)