多様なスタイルで活動し続ける後藤まりこが弾き語り名義で発表する初フル・アルバム。無防備に放たれる歌と言葉は時に痛みも感じさせるものだが、和やかに爪弾かれるアコギやチャーミングなメロディーと結び付くことで、軽やかでウォーミーな音楽へと昇華されている。エンジニアの中村宗一郎と二人三脚で制作したとのことで、環境音や打ち込みビートなどを散りばめたサウンドも楽しい。しなやかな力強さに溢れてます。
近年は〈DJ後藤まりこ〉名義での活動を主としてきた後藤まりこが、〈後藤まりこアコースティックviolence POP〉名義の初アルバムをリリース。バキバキにビートの効いたDJ後藤まりこの作品とは異なり、アコギ一本での弾き語りを基調にした本作。ゆらゆら帝国などを手掛けてきた中村宗一郎をエンジニアに迎え、今年春頃から書き溜めた新曲群を歌い綴っている。そこには、これまでの後藤の破滅的なイメージとは異なる、タイトル通りの明るめでポップ曲がずらり。
トロピカルなムード漂う“明日の糧”、まるでクレイジーキャッツのごとき“ヨイヨイヨイ”、カズーの音が郷愁を誘うブルージーな“ふぁっきんでいず”など、いつになくフリー&イージーな語り口が印象的だ。だが、日常に漂う虚無感を切々と歌う“どこにでもいる人(私)の歌”や、ヒリヒリするようなやるせなさを滲ませる“江ノ島メモリー”といったナンバーでは、生々しいゆえに儚さや虚しさが一層際立ち、それらがある種の残酷さを聴く者に突きつける。
明るく穏やかなトーンの中で嘘偽りのない感情を吐露する本作。それはすなわち、虚像を見せながら現実逃避させるための〈POP〉ではなく、現実の辛さや儚さを共有することで聴き手に寄り添う、優しい〈POP〉である。