
藤井 風が2025年9月5日(金)にリリースする3rdアルバム『Prema』。リリース前からすでに大きな話題になっている作品から、第2弾シングルとして“Love Like This”が8月1日に先行配信された。今回は、ミュージックビデオも注目されている同曲のサウンドと歌詞を考察した。 *Mikiki編集部
70~80年代ソウルを思わせる音楽性と慈愛に満ちた歌
こういう曲を待っていた、とイントロを聴いた時点で思った。
ダンサブルなエレクトロポップ“Hachikō”も、A. G. クックのエッジーな電子音と藤井 風の世界が溶け合った“Feelin’ Go(o)d”も、とうぜん素晴らしい曲だ。彼の音楽世界が常に変化し、進化しつづけていることに頼もしさと興奮を覚える一方で、やはり藤井 風の根っこにあるもの、多大な影響を受けたソウルやR&Bといった音楽の要素が全面に表れた曲、そして慈しみや愛情が溢れたソウルフルな歌にこそ、私はどうしても惹かれてしまう。だからこそ“Love Like This”は、とにかくぶっ刺さって仕方ない。
コードをひとつ弾くごとに左右のチャンネルにパンされるイントロのエレクトリックピアノ。仄かに煌びやかで、少しノスタルジックな響きだ。和音に緊張感がじゃっかん滲んでいるが、総体として温かく、柔らかく、優しく奏でられる。どこかスティーヴィー・ワンダーの“I Just Called To Say I Love You”を彷彿とさせなくもない。
まるで人が軽快に歩いていくかのようなフィーリングのミドルテンポで、曲は実直に進んでいく。8分音符でルート音を鳴らし、装飾を削ぎ落したシンプルなベースも、地面を踏みしめているかのような堅実さだ。
1番のコーラス(サビ)のあとの間奏でリードメロディを奏でるエレピもレトロな音色で、全体的にマイケル・ジャクソンの『Off The Wall』に収録されている“Girlfriend”“I Can’t Help It”“It’s The Falling In Love”あたりのミドルナンバーを連想させる。いずれも個人的に大好きな曲だからこそ、“Love Like This”は刺さりまくる。そしてもちろんスティーヴィーもマイケルも、藤井 風が深く敬愛するアーティストだ。
そういったわけで“Love Like This”は、70年代後半から80年代にかけてのソウル/R&Bやポップスの名曲を思い起こさせる。シンセサイザーやドラムマシーンといった電子楽器が一般化し、生演奏と同居していたあの時代特有のフィーリングが、ノスタルジーとともに刻印されているのだ。
プロデューサーは“Hachikō”にも参加していた韓国の250(イオゴン)で、NewJeansとの仕事からわかるように、彼はこういったノスタルジックなサウンドの現代的な表現を非常に得意としている。藤井 風 × 250の黄金タッグで、大正解のソウルナンバーが生み出された。
また、藤井 風お得意の多重録音コーラスも効いている。ふわっと上昇していく温かい主旋律を周りから抱擁するコーラスは、3分45秒あたり、〈this〉のロングトーンでぶわっと音像全体に広がり、天上の幸福な世界を幻出させるかのような響きをもってリスナーの耳を包み込む。コーラスはたった8秒ほどで消えてしまうが、その恍惚感たるや、すさまじい印象を残す。なおバックグラウンドボーカルには、この曲の共作者であるシャイ・カーターがクレジットされている。
そして“Love Like This”の魅力は、なんといってもその発声にあるだろう。聴き手のすぐ横に腰かけ、ひとりひとりに優しく語りかけるような歌い方に惚れ惚れと、うっとりとしてしまう。ASMRのような近さと親しさ、マイナスイオン(健康効果はないそうだが)が耳に直接流れ込んでくるかのような癒しの響き。藤井 風にしかできない見事な歌唱がたまらない。