
いいことばかりじゃない日々を懸命に生きる者たちへ寄り添うロックンロール。その切実な叫びは、空前の災禍と共に過ごすこの時代だからこそ響くはず!
最高のものが出来た
「18年間やってきて初めて、発売前に、友達に〈アルバム出るから聴いて〉と言ってるんですよ。最高のものが出来たし、18年間本気でやってきた、俺たちのロックンロールが完成したなという感じです」(野村太一、ヴォーカル/キーボード)。
職人気質の誠実さで、大人のロックンロールを、働く者たちの賛歌を、マイノリティーの矜持を歌い続けてきたYellow Studsの最高作の誕生を祝おう。通算10枚目のフル・アルバム『DRAFT』――バンドは幾多の苦難を乗り越え、いかにして傑作を生んだのか?

「Yellow Studsには一貫して〈ロックンロール〉というものはあるんですけど、曲で表すといろんなスタイルがあるんですよね。今回はそこで全員が自分のやりたいものを出せたと思うし、統一されたアルバムでありつつ、いろんな音が楽しめるアルバムだと思います」(高野玲、ドラムス)。
「ドン・キホーテみたいだよね。1階が食品、2階が生活用品とか、何屋なのかわからないけど統一感がある。……あんまりカッコ良くない例えだったな(笑)」(太一)。
アルバムの制作背景を振り返ろう。9作目『TRINGLE』のリリースが2017年5月。2018年にはドラマーの交代があり、高野が加入。新体制でライヴを積み重ねていくも、2020年はコロナ禍により活動がストップ。太一の体調不良も重なり、バンドは苦境に陥るが、ロックンロールの神様、そしてYellow Studsを愛するファンたちは、決して諦めない彼らの生き様をしっかりと見ていた。夏に実施したクラウドファンディングでは、予定金額の8倍を超える資金調達に成功。アルバム完成への道は整った。
「お金も自信もいただいて、本当に感謝しかないです。ただ、あんなにいただいちゃうと、いい作品を作ろうというプレッシャーが普通はかかってくると思うんだけど、それはなかったです。身体を壊していて、痛みで起き上がれない時期もあったので、とにかく起き上がれる時を狙って曲を書こうと、それだけに集中していました。おかげで、誰が気に入ろうが気に入るまいが、〈俺が本当に言いたいのはこういうことです〉というものになったと思います」(太一)。
「今回初めて自分のエゴを出せたというか、わがままにやらせてもらったなという気持ちがありますね。ドラムが高野さんに代わって、アンサンブルだったり、歌詞だったり、いろんなことに気を配って叩いてくれるので、安心して頼れたことも大きいかもしれない」(植田大輔、ベース/コーラス)。
「協調性を考えることも必要なんですけど、今回はそれを抜きにして〈すまんけど、やりたいと思ったことを全部やるよ〉という感じ。先行配信の“汚れたピースサイン”“直感のススメ”の出来がめちゃくちゃ良かったんで、あのテンションのもっと上をいきたいなと思って、アルバムの曲を録っていきましたね」(野村良平、ギター/コーラス)。
俺らの信じるカッコ良さ
さらに中身を掘っていこう。冒頭から一気呵成にぶっ飛ばす“テレキャスター”“汚れたピースサイン”“直感のススメ”の3曲は、Yellow Studsのトレードマークと言うべき、ジャズっぽくスウィングするロカビリー調のピアノ・ロック。歌詞も野村太一が得意とする、しがないバンドマンの悲哀、世の中への怒り、そして人生の希望を高らかに歌うという、詩的なリアリズムに溢れたもの。“テレキャスター”の〈苦しんでへこんで愚痴を吐き捨てて/一体何を学んで何を手にしたってんだい?〉というフレーズに、心揺れない大人のロック・リスナーはいないだろう。
中盤には、ラテン・ロック調のリズムが印象的な“嫌っちゃいないよ”と、変拍子を取り込んだカオティックなロックンロール“不気味な世界”が続く。“嫌っちゃいないよ”は、性的アイデンティティーに悩む太一の知人に向けて書かれたという、絶望の淵に沈む者へ希望のロープを投げ掛ける救いの歌。“不気味な世界”は、あらゆる欲望がクリック一つで手に入れられる時代に、〈大事なものを置いていくなよ〉と、本音を叩き付ける歌だ。
「そもそも〈コンプライアンス〉っていう言葉、いつ出来たんでしょうね? TVを観てもライヴを観ても、当たり障りのない、毒にも薬にもならないものばかり流れてる。ならば〈いっそ毒を注入してやれ〉と思って書いたのが“不気味な世界”です。僕も歳を取ったし、同世代の連中が〈俺たちの頃は〉って言いたくなる気持ちもよくわかる。酒場でくだ巻いてる感じだけど、それもまた美しいのかなと思います」(太一)。
もの悲しくも美しい3拍子のロック・バラード“きよしその夜”の、〈真面目に自粛しても生きていけるやつら/真面目に自粛してたら死んでしまうやつら〉という痛切な一節は、バンドがどちらの側に立つのかを雄弁に物語る。そして古馴染みのライヴハウスをテーマにしたロックンロール“Club Doctor”では、東京中のライヴハウスの名を連呼しながら、消えゆく場所と、それでも残るバンドマンたちの夢の跡を歌う。どちらも、コロナ時代でなければ生まれ得なかった曲だ。
「でもね、コロナはそんなに、僕は気にしていないです。それよりも、普通の人たちが付け焼刃の知識で誰かを攻撃し合う、人間の幼さのほうが嫌でしたね。人は自分がつらい時に、心がやさぐれて、人を傷つけてしまう。それはコロナと関係なく、俺もみんなも未熟なところだなと思います。“Club Doctor”は、18年前に夢を抱えていた不良少年たちに捧げる歌ですね。あの頃は、BLANKEY JET CITY、THEE MICHELLE GUN ELEPHANT、ブライアン・セッツァー・オーケストラ、The ピーズとか、そのへんをみんなめざしていた。今そこをめざす人は少ないと思うけど、俺らが信じたカッコ良さがそこにはまだあると思って、これを書きました」(太一)。
しがない、しかし気高いバンドマンの生き様をドラマティックに綴る“誰がため”と、上京しておよそ20年間の思いを、太一のアコーディオンと歌で奏でる“20”。やるせなさと苦みの向こうに、力強く励まされる何かを感じさせながら、アルバムは静かに幕を下ろす。
「“誰がため”は、アルバムのなかで一番好きな曲かもしれない。“20”は僕の家で、安いマイクと安いアコーディオンで録りました。チープな音だけど、逆にそういう美しさがあると思います」(太一)。
時に激しく、時に心地良くスウィングするロックンロールと、いいことばかりはありゃしない日々を、懸命に働き生きる者たちに寄り添う言葉。Yellow Studsが18年間歌い続けてきたメッセージは、コロナ禍の今だからこそ、確実に響くはずだ。響いてほしい。届いてほしい。
「今回、プレイヤーとしてわがままに弾かせてもらった感覚があるので。自分でも〈いいフレーズ弾けたな〉と思えるものが多いし、自信がつきました」(植田)。
「自分のプレイは全部、気に入ってますね。それぞれの曲にテーマを持って、今まで使っていなかったピックアップを使ったり、いろんなことをやっているので、個人的に大満足です」(良平)。
「たとえば“嫌っちゃいないよ”は、スネアを高めのチューニングにして余韻を短めにして、逆に“直感のススメ”や“誰がため”では、低めにセッティングしてサステインを長くしてる。太一くんのお気に入りの音ですね。どれもハマってると思うし、チューニングにこだわって良かったなと思います」(高野)。
「Yellow Studsはびっくりするほど知名度がなくて、なんでなんだろうな?と思うけど(苦笑)。知名度がなくてもこれだけすごいものが作れるんだぜと言いたいし、楽器の音、組み合わせ、構成の面でも日本ではあまりやってないことやれてるんじゃないか?と思います。俺らしかできないことをみんなやってくれたなと思うし、俺もやりました。本当に売れてほしいし、聴いてほしいです」(太一)。
リリース作品から振り返る、Yellow Studsの近年の歩み
前回のフル・アルバム『TRIANGLE』以降も着々とリリースを重ねてきたYellow Studs。ここでは、近年の作品を振り返ってみよう。
まずは、2017年5月に発表された上述の『TRIANGLE』。ジャズやブルース、カントリー、ロックンロールなどが入り混じるバンド・アンサンブルに野村太一の人間性を強烈なまでに反映させた同作だが、そのわずか5か月後には初のライヴ盤『ごくつぶしが鳴く夜 2017.6.4 LIQUIDROOM FULL LIVE SESSION』をリリース。さらに、翌12月にはアグレッシヴにスウィングするやさぐれロック“ブーツ”や、タイトル通りのサーフ・ロックで扇動的に駆け抜けるインスト“中野サーフ”などを収めた4曲入りのEP『GRAB』を発表する。
その『GRAB』のリリース・ツアーを最後にドラマーの田中宏樹が脱退し、高野玲が加入。2018年11月には結成から15年の道程をまとめたベスト盤『Yellow Studs THE BEST』をリリースする。そして、2020年の配信シングル『汚れたピースサイン/直感のすすめ』を挿み、2021年には初のカヴァー集『brand new old days』を発表。玉置浩二、モンキーズ、ビートルズ、山口百恵といった納得のラインナップから、“ルパン三世のテーマ”や“Take Me Home, Country Roads”といったスタンダード・ナンバー、意外なところではCoccoまでをピックアップ。どの曲からも彼ららしい哀愁や郷愁が滲んでおり、〈カヴァー〉という手法で自身の持ち味をわかりやすく提示した一枚に。 *bounce編集部
Yellow Studsの作品。
左から、2017年作『TRIANGLE』、2017年のライヴ盤『ごくつぶしが鳴く夜 2017.6.4 LIQUIDROOM FULL LIVE SESSION』、2017年のEP『GRAB』(すべてYellow Studs)、ベスト盤『Yellow Studs THE BEST』(Yellow Studs)、2021年のカヴァー集『brand new old days』(DIG UP)