覚悟の量が違ぇんだよ!——その叫びは、ハッタリでもなんでもない。歌えぬ日々を経たことで強さが増した、野村太一のあくなき欲望!

 有名か無名かといえば、無名。洗練か武骨かといえば、どう見ても武骨。そしてロックかロックじゃないかといえば、圧倒的にロック。結成14年を迎えるYellow Studsのニュー・アルバム『TRIANGLE』から聴こえてくるのは、バンドマンという因果な生業を選んでしまった男たちの渾身のブルース。ヴォーカル・野村太一の強烈なしゃがれ声とピアノ、多彩な音楽性が一度聴いたら忘れない鮮烈なインパクトを刻む。

Yellow Studs TRIANGLE トーツ(2017)

「僕らはいつもチャンポンなんです。昭和歌謡、ジャズ・ロック、バラード、ガレージ・ロック、ピアノ・ロック、アイリッシュとか、ジャンルを絞ることができなかったんですね。聴いてて飽きない音楽を作りたい、あれもやりたい、これもやりたい。今回もそんな作品です」(野村太一)。

 バンドのルーツは、勝手にしやがれ、行方知レズ、ブライアン・セッツァーなど。汗の匂いのするロックンロールと、日本人の琴線に触れる歌謡メロディーとが独特の配合で混ざり合う。『TRIANGLE』は、妖しげなムード漂うロカビリー調の“天使か悪魔”を筆頭に、浮ついた流行りとは無縁の骨太な歌が8曲収められている。

「媚びない曲たちが揃いました。ギターも全然かっこつけてないし、難しいことはいいから、ド直球でいいじゃないと思って弾きました。俺ららしくていいかなと思います」(野村良平、ギター)。

「やりたいことがちょっとずつわかってきて、等身大のまま出せるようになってきたなという感触です。これがいまのYellow Studsですね。色付けしてない、そのまんまの」(植田大輔、ベース)。

 MVも作られた、物哀しい2ビートの“ライブハウスポルカ”、4ビートのダークなロックンロール“ハイボール”、ポップなカントリー調“CB750F”、アニマルズへのオマージュと思しきロッキン・ブルース“一歩ずつ”などオールド・ロック系の曲から、さりげなく四つ打ちのビートを取り込んだ“アルマエラ”、メロディックなロック・チューン“遠い栄光”、レディオヘッドをイメージしたというノイズ・ギターの壁が圧巻のバラード“ロックが流れる”など現代的ロック系の曲。どれも粒揃いだが、Yellow Studsの本質は、曲の意匠よりも、作った人間のスピリットにある。

「野村太一の人間性がもっとも色濃く出たアルバムだと思います。Yellow Studsの歌が心に響くのは、そこに体験があるからだと思っていて、それを曲にし続けてきたのが野村太一なので」(田中宏樹、ドラムス)。

「このアルバムは、僕の人生ですね。いまが一番苦しい時で、実体験がモロに全部突っ込んであるんで、歌詞を見るとうわっと思うところもあるんですけど、その思いを成仏させるために書きました」(太一)。

 たとえば“遠い栄光”の〈覚悟の量が違ぇんだよ 死ぬときゃ血反吐いて笑ってやる〉という強烈な一節。“一歩ずつ”の〈踏み出そうや……昨日の俺より少しマシだろう〉というつぶやき。圧巻は“ロックが流れる”に込めた、社会からはみ出しても喉が壊れても〈それでも歌う〉という命懸けの決意。昨年末に喉の手術を経験したという太一の書く言葉は、もはやリリックではない。ドキュメンタリーだ。

「僕たちには金持ちの親も、守ってくれる保険もない。自分たちでなんとかして売れなきゃいけない。ひと花咲かすまでは死ねねえなっていう思いで書いたのが“遠い栄光”。バンドマンって、息子がいたら絶対勧めない職業ですよ。それでも、とりあえず親が自慢するぐらいのところまでは大きくなりたいなと。36歳になってもまだ夢を見てもいいですか?という気持ちで書いたのが“ロックが流れる”です」(太一)。

 14年間、事務所やレーベルから独立して〈完全無所属〉を貫いてきたバンドだが、いまは同志がほしいという。媚びない、ブレない、諦めない。Yellow Studsの実話ロックが、一人でも多くの人の心に刺さることを願う。

 


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ここではYellow Studsの旧作を紹介します。2003年の結成以来、コンスタントに作品を発表してきた彼らですが、現在CDで入手可能なのは、2012年1月に発表された通算5枚目のアルバム『shower』(O.T.A)以降。同年には、6枚目のアルバム『curtain』(同)も発表され、当時ライヴ会場と通販のみで販売していたシングル“imitation”(トーツ)も昨年タワレコ限定盤として復刻されました。その後、高校の校歌やゆるキャラのテーマ・ソング、TV-CMの楽曲など多岐にわたる制作活動を経て、2014年に田中宏樹が加入。現在の5人となって、同年6月にアルバム『ALARM』(同)を発表。2016年4月にリリースされたアルバム『door』(同)は、オリコン週間ランキング65位、同インディーズ・ランキングで10位のスマッシュ・ヒットを記録しました。 *bounce編集部