ボーダレスなギタリストふたりによる奇跡の共演音源がついに復活
1952年沖縄生まれの平安隆と、1954年ニューヨーク生まれのボブ・ブロッズマン。稀代のギタリストであるふたりの人生は、90年代末から2000年代にかけてのわずか期間、濃密に重なり合った。本作は99年7月、東京・青山のCAYで開催されたジョイント・コンサートの音源集で、同年に発表された共演作『童唄』の発売記念コンサートとなる。
基本的にはふたりが奏でるアコースティック楽器――アコースティック・ギター、三線、リゾネーター・ギター、チャランゴなど――と歌声だけで構成されるシンプルなライヴだが、そこには多様な音楽的要素が流れ込んでいる。沖縄民謡、戦前ブルース、ハワイアン、カリプソ、わらべうた。すべての要素が溶け合い、豊かで大らかな大衆音楽の世界が描き出されていく。音楽とはかつてこれほどまでに自由でしなやかだったのだ。ひとりそう呟いてしまうほど、幸福な音の風景が広がっている。さらには山内雄喜と古謝美佐子がゲスト参加。4人で奏でられる“満月の夕”(原曲はソウルフラワーユニオンおよびヒートウェイヴ)の、まるで祈りのような深遠なる響きにも心打たれる。観客の歓声や拍手も生々しい録音は、『童唄』のレコーディング・エンジニアを務めた故・藤井暁によるもの。数年前まで東京におけるワールド・ミュージックの発信地であった青山CAYの空気も詰まっている。本作は手付かずになっていた録音をリスペクトレコードの高橋社長が掘り返して作品化したものだが、80年代以降繰り広げられたワールド・ミュージック文脈のさまざまな試みを再解釈する時期にきているのだろう。そのことを実感させられる。
ボブ・ブロッズマンは2013年に死去。本作に記録されている奇跡のような共演は、二度と再現できなくなってしまった。だが、平安隆は台湾の音楽家と共演を重ねるなど精力的に活動中。本作で平安の魅力に気づいた方は、ぜひ彼の近作もチェックしてほしい。