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©1982/2004 T&C FILM AG, Zuerich ©2020 FRENETIC FILMS AG.

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 蓮實重彦が今回の公開のために記したことばをつかわせてもらうなら、〈二階の欄干〉で女性を、男性が〈背後から抱擁する〉。このシーンでひびくのはオーケストラの、ウィンナ・ワルツのスタイルをとったテーマだ。この、映像と音楽ともにある持続に身をおいたなら、どうして19世紀から20世紀にかけてワルツがヨーロッパで大流行したかが、きっと感じとることができる。ほかのダンス・スタイルではない。2拍子系でなく3拍子のエフェクト。1拍目のアクセントがひとつの小節のなかひびきのこる。のこったまま、またつぎの小節のアクセントへとつらなる。循環する。まるでどきどきする心臓のよう。くりかえされるなか、心身は昂揚し、艶かしく、狂おしく抱擁は激しくなる。これはワルツの秘密を教えてくれる映像だ。そして、うつくしさとは、うつろってゆく、なくなってしまうもの、と映画は教えてくれる。

 うつくしさはデジタル・リマスターでよりうつくしく、そして大きい画面でこそ。

 それにしても、ダニエル・シュミット、はやく亡くなったんだな。生きていてもまだ80……。

 


CINEMA INFORMATION

「ヘカテ デジタル・リマスター版」
Hécate, maîtresse de la nuit

監督:ダニエル・シュミット
脚本:パスカル・ジャルダン、ダニエル・シュミット
音楽:カルロス・ダレッシオ
原作:ポール・モラン「ヘカテとその犬たち」
出演:ベルナール・ジロドー/ローレン・ハットン/ジャン・ブイーズ/ジャン=ピエール・カルフォン/ジュリエット・ブラシュ
配給:コピアポア・フィルム (1982/フランス=スイス/108分)
◎2021年4月23日(金)より、渋谷Bunkamuraル・シネマ他にて公開
hecate-japan2021.jp