今年92歳のフルート界のレジェンド、ペーター=ルーカス・グラーフに、一問一答形式でフルートの技法、音楽表現、演奏家としての心得など52の質問をぶつけ、その問いに巨匠が具体例や豊富な経験談を織り込みつつ、極めて誠実に回答したのが本書である。訊き手と師弟関係があるためか、グラーフの文章は弟子に優しく語りかけるようであり、日本語訳もニュアンスに富み、その大きく温かな人柄までも伝わってくる。専門書の堅苦しさは皆無。フルトヴェングラー、クレンペラー、オーマンディなど往年の巨匠指揮者とのエピソードも興味深く、フルート愛好家だけでなく、広く音楽ファンにお勧めしたい一冊だ。