ジャニーズ事務所創設者であるジャニー喜多川が、生前〈僕の最高傑作〉とその名を挙げたグループ・少年隊のリーダーとして、エンターテイメントの世界で華々しい輝きを放ってきた男――錦織一清。近年は舞台演出家としての活動を主にイイ仕事を続けている彼だが、昨年末のジャニーズ事務所退所をきっかけに、その周りがふたたびザワザワしはじめた。ファンクラブも設立し、Twitterを通してそれまで希薄だったファンとの交流も積極的に開始。そして、かねてから少年隊の音楽やエンターテイナー・錦織一清の素晴らしさをさまざまな場で紹介してきた西寺郷太(NONA REEVES)の煽りも受け、音楽活動を本格的に始動することも明かされた。

 「もう歌をやらないと思ったことはなかったんだけど、コロナ禍で演劇活動もどんどん予定が飛んじゃってね、そんななかで退所を迎えました。それによって空いた時間がバネになったというか、〈歌をやる〉ってことに時間を費やすことができました」。

 そして届けられたのが、4曲入りのシングル『Song For You』。サウンド・プロデュースは西寺郷太。タイトル・ナンバーの詞は、西寺との共作によって錦織が綴ったもので、下町で育った少年時代の原風景を散りばめたハートフルな楽曲になっている。

 「こんなこと言っちゃいけないんだけど、〈売れなければならない〉っていう気持ちもまったくなしで作れた。決してお粗末なスタジオで録ったわけではないんだけれど、気楽にね。これからの人生を楽しむには、どこか気楽にやることが大事なのかも知れないって思ってますから」。

錦織一清 『Cafe Uncle Cinnamon』 Uncle Cinnamon/Gotown(2021)

 やはり西寺が詞曲を手掛けたカップリング――オールドタイミーなダンス・チューン“Dance with me”も然りだが、そこかしこに漂うリラックスした雰囲気と心地良いグルーヴは、いまの錦織が示したい、いまだからこそ出せる彼のスタイル。

 「こういう曲で踊るとかっこいいんですよね。トロ~ッと踊るみたいな。実は僕のなかでは、少年隊の楽曲ってダンサブルなものではないと思ってるんです。ダンサブルな曲じゃないのに僕たちはダンスを踊ってた。“ABC”って曲もダンサブルに聞こえるけど、BPMが速い。もうちょっと落とすとかっこいいダンス曲になるんだけどね。そういうところでは“Song For You”も“Dance with me”もダンスに最適。これからはこうやってね、僕のなかでの〈ダンサブル〉をどんどん紹介していきたい。昔からこういう曲で踊りたい、踊らせたいって思ってたからさ、嬉しくてしょうがないね」。

 自分がやったことに対して自分自身で責任を取れる立場になったことで、〈やってみたかったこと〉を実現することができたという今回のシングル。自身が演出した舞台「シャイニング・モンスター」のテーマ“星の糸”を、作詞作曲した西寺、舞台にも出演した真城めぐみと共に歌うことや、大好きなスタイル・カウンシル“My Ever Changing Moods”をアコースティック・アレンジでカヴァーしているところも、また。

 「少年隊でまだ自分たちの楽曲が少なかった頃、コンサートでよく洋楽のカヴァーをやっててね。スタイル・カウンシルの曲もやってたし、ダンサブルな曲を選んでよく歌ってた。当時、レコーディングで使っていた六本木のスタジオの下が輸入盤屋でさ、レコーディングの合間に買いに行って、スタジオで聴いてたりもしてたなあ」。

 歌を通じて久々にファンとの交流を図った錦織。これ、続きがあると考えてもいいんでしょうか。

 「あると思いますね。普通の歌手のように、〈定期的に出さなきゃ〉ってなると楽しくなくなってくるんだろうけど、でも、この先何が起こるかわからないじゃないですか。売る気満々で出すときが来るかも知れないです(笑)」。

 


錦織一清
65年生まれ、東京出身のシンガー/ダンサー/俳優/演出家。小学生だった77年にジャニーズ事務所に入所し、研究生として活動を開始する。82年よりジャニーズ少年隊の名称でバックダンサーなどを務めるようになり、少年隊のリーダーとして85年にシングル“仮面舞踏会”でデビュー。グループでの作品リリースやライヴを行う傍ら、俳優としてTVドラマや舞台などに出演し、演出や脚本も数多く手掛けていく。2020年末に事務所を退所。今年に入ってから公式ファンクラブ発足やYouTubeチャンネル開設など活動を本格化し、このたび4曲入りのCDシングル『Cafe Uncle Cinnamon』(Uncle Cinnamon/Gotown)と7インチ・シングル“Song for you”を10月29日に同時リリースする。