
オープンハンド奏法の秘密
――あなたがご自身のドラミングのスタイルを分析するとしたら、どのように言い表しますか?
「演奏する音楽の種類にもよるけど、僕のプレイはよりシンプルでストレートアヘッドかな。分からないけどね(笑)。
僕は、常に曲にちゃんとフィットするように演奏したいんだ。でも、そこには少しだけ隙間があって、それこそが少し異なる響きを曲にもたらす。
ただ、僕のドラムキットの鳴り方は多くのドラマーたちのものとは違っている。生っぽい響きのキットなんだ。シンプルな演奏をしても、ドラムキットの音が違うから異なるサウンドが生まれるんだ。
自分のことを言い表すのは難しいよ(笑)。ただ、言えることは自分のプレイが音楽的であってほしいということかな。それはすごく重要なんだ。ジャズ/フュージョン系の曲でも、バラードでも、ロックンロールでも、どんなタイプの音楽でも一番重要なのはその曲にフィットすることなんだよ」
――それでは、あなたのオープンハンド奏法はどのようなきっかけで生まれたのでしょうか? とても難しいスタイルだと思いますが、どうやって会得されたのですか?
「あれはコピーしたんだよ。ビリー・コブハムから盗んだんだ(笑)。70年代に彼のライブを観に行った時のことをよく覚えているよ。よく分からなかったけど、彼は左利きでオープンハンドで演奏していたんだ。それを見て〈ワオ、超クールだ! 僕もやりたい〉と思ったんだよ。当時の僕は17歳ですごく多感な時期だったからね。でも、僕はちょっと違うやり方をしたいと思った。
オープンハンド奏法の素晴らしいところは、かなり大きなドラムキットでも演奏できることだね。というのも、腕を交差する必要がなくて、両腕がオープンだから経済的なんだ。
問題は、僕が左利きではないということ。だから僕は一から十まで自分で学ばなければならなかった。ロンドンの小さなアパートに住んでいた頃は大きな物音を立てられないから、ソファの肘置きで練習していたよ。お手本のレコードを聴きながら、スティックの音にすごく慎重になりながら肘置きを叩いていた。左手で叩くから、ハイハットの位置を少し低めにしたりしてね。そうやってオープンハンド奏法を習得したんだ」
グルーヴの最も重要な要素はメロディーなんだ
――私は78年、80年、86年にジェフ・ベックの来日公演を観たのですが、その時のあなたのドラム演奏がとても鮮烈で印象的でした。この時期にジェフ・ベックとやっていた音楽が、プロトコルのハードフュージョン的な音楽性と結びついているように感じますが、その点はいかがでしょうか?
「そのとおり! ジェフと一緒にやり始めたのは78年で、僕たちはヤン・ハマーの曲を何曲かプレイしたんだ。ただ問題だったのは、彼には他に曲がなかったこと。それで僕は、ジェフにトニー・ハイマスを紹介したんだ。トニーに〈一緒に曲を書こうぜ〉って言ってね。
ジェフはどんな曲を演奏したいかが明確なんだよ。つまり、それは素晴らしいメロディーの曲なんだ。彼はもちろんギタリストなんだけど、ギターで歌うシンガーなんだよ。だから僕たちはインストゥルメンタルの曲を作っているんだけど、歌われることを意識して書いていた。
トニーと書いた曲は“Space Boogie”“The Pump”“El Becko”、そして“The Golden Road”。“The Golden Road”は、僕が本当に大好きなスタイルの曲なんだ。ロックンロールの要素があるけど、ジャズのハーモニーもたくさん採り入れている。それでいて、さっき僕が言ったようにポップソングやロックとして成り立っているんだ。曲自体は穏やかだけど、すごくポップソング的なんだよ。バースがあって、コーラスがあって、またイントロ、バースへという構造でね。インストか歌モノかを問わずに、ソングライティングにおいてはその構造がすごく楽しいと思うんだ。このタイプの音楽の作曲プロセスは常にそこから始まるし、そこに戻っていく」
――そして、特にTOTOでのあなたの演奏はテクニカルなだけではなく、歌心のあるプレイだったと思います。それはプロトコルのアルバムにも反映されていますよね。インストのアルバムでありながら、とてもメロディックな感覚があります。テクニカルであることと歌心を持って演奏すること、一見相反するような2つの方向性がバランスを保てる秘密は何なのでしょうか?
「メロディーは、どんな曲でも面白く響かせるために最も重要な要素だと思うんだ。全てはメロディーから始まる。
このアルバムで一番複雑な曲である“Undeviginti”はラテンのリズムで19拍子なんだけど、架空のブルガリア民謡をイメージしたメロディーからスタートしたんだ。実際の民謡からメロディーを採ってきたんじゃないけど構造の面でちょっとそうなっていて、かなり東欧っぽい空気感を採り入れている。
この曲のバースのメロディーが僕の頭の中に突然浮かんだ時、最初は何拍子なのか分からなかった。すぐにスタジオに駆け込んでPro Toolsに歌いながら打ち込んでいたら、〈ちょっと待てよ、1、2、3……ワオ、19/16拍子だ!〉って気付いた。
だから複雑な形式の音楽ではあるんだけど、でも僕は常に可能な限りシンプルな方法で演奏しようと心がけている。つまり、グルーヴの最も重要な要素はメロディーなんだよ。何よりもメロディーから全てが始まる。底辺にグルーヴがあって、トップにメロディーがあるんだ」
――作曲はキーボードで行うのですよね。リズムパターンも同時に考えているのでしょうか?
「そう、キーボードでね。ドラムから始めることは滅多にないね。やりたいメロディー、アイデアが浮かんだら、まずキーボードでドラムをプログラムする。音楽を作る時の最初のアイデアを得る際に一番重要なのはメロディーで、そこからハーモニーとベースラインが生まれるんだ。コードが出てくるのは、その少し後。ベースラインのメロディーから始まることもあるけどね。
つまり、ドラムキットに全く触らなくても、作曲/演奏することはできる。自分自身とセッションしている感じなんだ。笑えるよね(笑)」