©David Goddard

クワイアで培ったハーモニーによるソングライティング力を発揮した、待望の最新作!

 スナ―キー・パピーのマイケル・リーグが主宰するGroundUP Musicは、今最も瞠目すべきレーベルのひとつだが、その中でもとりわけ新作が期待されていたのが、カナダ生まれNY在住の女性シンガー・ソングライター、ミシェル・ウィリス。レーベルメイトだったデヴィッド・クロスビーは彼女の音楽について〈素晴らしい陽だまりのようなサウンド〉と賛辞を送っているが、新作『ジャスト・ワン・ヴォイス』には、そのデヴィッドやベッカ・スティーヴンス、マイケル・マクドナルドらがゲスト参加。キャロル・キングやローラ・ニーロから始まってフィービー・プリジャーズやローラ・マーリングに至るシンガー・ソングライターの系譜を継ぐ、パーソナルで内省的な表現が核となっている。

MICHELLE WILLIS 『Just One Voice』 GroundUP Music/コアポート(2022)

 そんな彼女の音楽的ルーツは、イギリス在住時に9歳の頃から10年間通った、教会の聖歌隊(クワイア)だったという。なるほど、前作以上に神秘的で幻想的なアトモスフィアは、クワイアと地続きとも言えるだろう。

 「英国の国教会の聖歌隊で、週1回か2回、讃美歌、ミサ曲、聖歌、賛歌、鎮魂曲や、バッハ、ブラームス、モーツァルト、フォーレ、ラフマニノフの曲を歌っていました。初めて見た譜面を使って歌うこともありましたね。そこでやっていた音楽は、とても豊かで、明るく、ときに暗く、高揚感あるサウンドに神聖さがあいまったものでした。自分の声を使ってハーモニーに加わるというのはスピリチュアルな体験でしたね。そこで私は、和声、理論などを学びました」

 前作ではボン・イヴェールやブライアン・ブレイドのアルバムを参照したというミシェルだが、本作ではプロダクションの面でブレイク・ミルズらがそれに該当するとのこと。また、「収録曲をできるかぎり直接的で簡潔なものにしようとしていました」と言うだけあり、アルバムはシンプリシティの美学に貫かれている。

 「アルバムの音像は、ブレイク・ミルズのような、聴き手との距離が近くて、サラウンド感があって、リッチで温かみのあるサウンドに仕上げたかったんです。その点では、グレゴリー・ポーターなども手掛けてきたプロデューサーのファブ・デュポンが力になってくれました」

 日本盤ボーナス曲はデヴィッド・クロスビーと共演した際のライヴ音源。滋味深く芳醇なふたりの歌声が堪能できる、実に秀逸なトラックである。こちらもぜひ、聴いてみて欲しい。