©Tim Saccenti

旬のレーベルからリリースされた旬の音楽家の傑作

 マーキス・ヒルや黒田卓也と肩を並べる、新世代の実力派女性トランペット奏者。ジェイミー・ブランチは、そんな風に形容したくなる逸材である。初めてアルバムが出たのは2018年だが、そのプレイは既にして風格と貫禄を備えていた。そんなジェイミーがドラマーのジェイソン・ナザリーと組んだデュオが、アンテローパーだ。名門ニューイングランド音楽院で共にジャズを学んだふたりだが、その音楽的ヴォキャブラリーはジャズに留まらず、広範囲に渡る。

ANTELOPER 『Kudu + Pink Dolphins Special Edition』 International Anthem/rings(2022)

 この度リリースされるのは、ジェフ・パーカーがプロデュースした『Pink Dolphins』と、2018年のデビュー作『Kudu』を合わせた2枚組。前者はジェフが関わった故か、ビート・ミュージックの色合いが濃く、後者は茫洋としたサウンドスケープが特色となっている。

 特にスリリングなのは、全盛期のエレクトロニカやIDMを想わせる電子音と、ふたりの即興演奏が絡み合う場面。特に前者は、オヴァルやフェネス、マウス・オン・マーズらを連想させる感触で、グリッチ・ノイズやエフェクトを自在に駆使したサウンドに幾度も幻惑させられる。

 ドラムのジェイソンはジャズ畑の人かと思いきや、パンキッシュで疾走感溢れる演奏も披露。サウンド・テクスチャーに並々ならぬこだわりを持ちながらも、そのプレイが雄々しく猛々しいという意味では、ハードコア・パンク出身であるトータスのジョン・マッケンタイアと似たタイプと言える。

 リリースは先出のジェフ・パーカーと同じ、インターナショナル・アンセムから。USジャズ・ドラマーのマカヤ・マクレイヴンや、パナマ出身の打楽器奏者であるダニエル・ビジャレアル、ロンドン出身のサックス奏者のアラバスター・デプルームなど、このレーベルからは日々傑作が届けられている。旬のレーベルからリリースされた、旬のミュージシャンのアルバム。それが本作の最大の特徴ではないだろうか。