都内某所にあるレコーディングスタジオにて。モニタースピーカーから流れてきた美麗なファルセットに対して、「サイコー!」という熱い賛辞がコントロールルームに響き渡る。声の主は、現在歌入れ中の“Your Song”を作詞・作曲したシンガーソングライターのK。流れてくる歌声に耳を傾けながら楽譜と真剣ににらめっこする彼の表情は角度的にこちらからハッキリと窺うことはできないものの、ディレクションを行う声の弾み方からして満足げな笑顔を浮かべているだろうことは容易に想像できる。
そしてボーカルブース内で美麗なファルセットを生み出しているその人は、韓国出身のシンガーソングライター、SANGWOO。今回LINE LIVEが開催したオーディションでグランプリに輝き、このイベントのためにKが書き下ろしたオリジナル楽曲を歌う権利をゲットした幸運なアーティスト。かつてCODE-Vというグループでリーダーを務め、現在はソロシンガーとして活動中、音楽をやるために韓国から来日して今年で活動約10年になる。
そんな誕生の経緯を持つ生まれたての新曲“Your Song”。曲調はKらしいメロディアスなバラードとなっており、季節の風情を感じさせるフレーズを散りばめた歌詞が曲全体のカラーを鮮やかに染め上げているところが印象に残る。そしてKが作り上げた音世界と対峙しつつ、何とか自分らしく歌い切ろうと奮励努力を続ける本日の主役が目の前にいる。
それにしてもこんなにソウルフルなボーカリストだったのかと、さっきからずっと驚かされっぱなしで、艶やかな歌声がナチュラルな手触りのするメロディーに新たな風合いをもたらしているような気さえする。レコーディング終盤、アウトロに入れるフェイクをより熱いものにしたいと繰り返し粘っていたSANGWOOだったが、「いいよ、気の済むまでやろう」と優しく声をかけるKが何やら兄貴のような頼もしさを感じさせていたことも記しておきたい。
作業が終わったばかりのふたりに早速お話をうかがった。
何よりもこの曲に僕自身が励まされた(SANGWOO)
――歌入れが終了した現在の率直な気持ちをお聞かせください。
SANGWOO「めちゃくちゃ緊張していたんですが、やっと解けてきました。実は昨日よく眠れなくて。やっぱり素晴らしいミュージシャンと良い作品を作ることはすごく光栄なことですから。
レコーディングでも、すごく優しくボーカルディレクションしてくださって、すごくやりやすかった。出来上がるのが楽しみですね」
K「まだアレンジがされていないものをSANGWOOくんに送ったんですが、まずSANGWOOくんの声がどんな感じなのかを知りたくて、それをベースにアレンジをしたかったんです。届いた歌声を聴いて、そのときから安心感があったというか、うまくいくだろう、ってことはわかっていた。それを今日少し調整した、ってイメージですかね。予想以上に素晴らしいものが出来たんじゃないかなと思います」
――今回Kさんはどういうイメージで曲作りを行ったんですか?
K「一回彼と打ち合わせを行ったとき、SANGWOOのイメージで曲を書くこともできたんですけど、彼がどういうものを歌いたいのか、それから現在どういう方向を向いているのか。あとはどういう人に届けたいと思っているのか、その辺が知りたかった。
後から送られてきたその内容は、コンセプトもハッキリしていて、その文章自体がすでに歌詞っぽくなっていたんです。それを活かしたものにしよう、という気持ちはありましたね」
――ちなみに、その文章にはどういったことが書かれていたんですか?
K「彼がCODE-Vをやり始めてからちょうど10年、いろいろ環境も変わって、そのなかでコロナ禍もあって、離れ離れになっていく人もいれば、環境が変わって会えなくなる人もいた。そんななか、自分の内なる部分で歌というものがどんどん変化していった……だとか。
これは僕の解釈ですが、離れていった人も音楽を通じてひとつになれたらいいな、って思いをすごく感じた。僕は彼の声にはそういうポテンシャルが秘められている、歌だけでみんなとつながっていく力を持っている気がしていたので、そこをフィーチャーしたいと考えていました」
――Kさんのそういう思いのこもった曲を受け取って、最初はどういう印象を抱きましたか?
K「ムズいな、と思ったんだよね(笑)」
SANGWOO「いえいえ(笑)。受け取ったデモ曲が、Kさんの歌とピアノ一本だけだったんですが、めちゃくちゃ感動しましたね。僕、最近涙もろくなっているんですけど、かなりヤバかったですね。何よりもこの曲に自分自身が励まされたんです。聴く人の心に寄り添えるというか、勇気づけられるような曲にしたかったんですけど、そういう願いをKさんが完璧に応えてくれたので」
――僕もデモ音源を拝聴しましたが、Kさんの想いが溢れ出すような熱いサビを聴きながら、これを歌い切るのは大変だぞ、と正直感じていたんですよ。でも今日ここに来させてもらって、予想を上回るもの出来上がったんだと実感しました。
SANGWOO「ありがとうございます。実際にハードルは高かったです。Kさんの歌を聴きながら、感動しながらも、ちゃんと自分のものにできるかどうか不安でした。歌はわりとシンプルな感じに聴こえると思うんですけど、シンプルさゆえに胸に沁みるような曲になっていて、すごいなと思う。それをちゃんと表現できたか、まだ心配なんですけど」
K「できていたと思います!」
――僕もそう思います!