80年代ノーウェイヴや90年代オルタナティヴに根ざしたソリッドなギター・サウンドに、耳を奪うスクリームを乗せ、日本のアンダーグラウンドなシーンで20年近くに渡って熱く支持され続けるLimited Express (has gone?)。彼ら通称リミエキの3年ぶり6枚目となるアルバム『perfect ME』がリリースされた。前作からの新体制による共同作業が深化、さらに声でメッセージを届けることをより強く意識したサウンドは、さすがの貫禄を感じさせつつもフレッシュに響く。
ライヴハウスを縦横無尽に駆け回り、まさに小さな嵐のようなパフォーマンスでオーディエンスを魅了するフロントウーマン、YUKARIにとっても、本作は新たなフェーズの到来を告げる一枚となったようだ。初期からバンドの〈顔〉になっていた強烈かつキュートなカリスマ性はいまも色褪せることがない。加えて、現在の彼女は、LESS THAN TV主宰にして、現在はリミエキの正式ベーシストでもある谷ぐち順(=FUCKER)のパートナーであり、小学生が率いるハードコア・バンドとして話題のチーターズマニアのフロントマン、谷口共鳴の母でもある。2017年のドキュメンタリー映画「MOTHER FUCKER」では、家族揃って音楽と共にある生活をオープンにした。
近年、女性で母親であることが、彼女のアーティストとしての活動とますます密接に結びついてきたことは、自らライヴ中に被害に遭ったことをきっかけにはじめた〈痴漢撲滅ステッカー〉の配布や、ビヨンセのフェミニスト・アンセムを参照した先行シングル“フォーメーション”からもあきらかだ。彼女の存在は、このシーンを、たくさんの人々にとって以前より息の吸いやすい場所にしてきたに違いない。台風一過の週明け、「もう少しで危なかった」という川の近くにある自宅にお邪魔して、これまでの彼女を作ってきたもの、そしてニュー・アルバムに込めた想いを訊いた。
魔法少女にあこがれて
――このたびはリミエキが3年ぶりのアルバム・リリースということで、あらためて今日に至るまでのYUKARIさんの歩みをお訊きしたいと思います。98年に結成とのことでバンドの活動歴はもうかなり長いですよね? 音楽を好きになったのはいつ頃からですか?
「うーんと、自分が音楽やるっていうふうになったのは大学に入ってからなんですよ。それまで中高生の頃って、いろんなおしゃれなこととかに興味を持ってて、音楽が好きというよりはファッションの一環として当時流行っていた渋谷系とかを聴いてました。よくわかんないけどおしゃれだと思って(笑)。90年代の中頃ってそういう時代だったんですよね」
――特にこのアーティストが好きだったというのはありますか? 高校時代でも、もっとさかのぼって子供のときでも。
「すごい子供のときはおニャン子クラブに入りたかったんですよ。夕方は〈夕やけニャンニャン〉観て、〈お姉ちゃんになったらおニャン子クラブ入る!〉と思って。お姉ちゃんになったときにはもうおニャン子クラブなかったんですけど(笑)」
――私も初期の〈夕ニャン〉を熱心に観てたからこそ〈秋元康ぜったい許さねえ〉という気持ちが強くありますね(笑)。“セーラー服を脱がさないで”の歌詞とかいま思うと最悪じゃないですか。でも、まだ無名の女の子がテレビに出て、言うなればパブリックな存在になっていくさまを観るのはおもしろかったんですよね。
「そうですよね。ちっちゃいときには魔法少女とかあこがれるじゃないですか。そういうふうに見えてたのかなあって思いますね。単純に〈かわいい! なりたい!〉って。プリンセスにあこがれるみたいな感じだったのかなあ、そのときは」
――子供の頃から目立つのは好きでしたか?
「たぶんそうなんだと思います、そのときからアイドルの女の子みたいなのはわりと好きかもですね。キョンキョンとかもそうだし。でも、音楽としてでは全然なくアイコンとして」
――魔法少女はクリィミーマミとか?
「そうですね。ララベル、ミンキーモモ、あのへんですよね。幼少期はすごくあこがれていたんですよ。基本的に女の子が好きなんですよね。そのあともやっぱり好きなのは女の子で、キャラクターだと高橋留美子の女の子とかみんな大好きですし」
――高橋留美子先生は活発で感情豊かな女の子をいっぱい描いていますよね。
「あとは『りぼん』『なかよし』、そういう少女まんがの世界とか。『ときめきトゥナイト』なんか何十回も読んでるし。もっと小さいときは『リボンの騎士』がすごく好きで。『キャンディ・キャンディ』とかも再放送だけど、観ていたんですよね」
――まんがといえばYUKARIさんは「PEANUTS」がお好きですよね。このお部屋にもスヌーピーのぬいぐるみがいっぱい。
「スヌーピーがめっちゃ好きで。自分が〈気楽に行こうぜ〉ってあんまりできないタイプの人間だから、そういうところがすこしあこがれかもしれない(笑)」
――「PEANUTS」もわりと男の子は繊細で優しくて、女の子は積極的にガンガン行く性格の子が多い作品ですよね。
「そうそう。女の子もけっこう個性的じゃないですか。どうしてダメなの!?とか普通にルーシーが言ったりするのが、いま思うとかっこいいじゃんって。ペパーミント・パティみたいなボーイッシュな格好のスポーツ少女もいるし。あまり人のことを気にしなくていいじゃん、みたいな考えが羨ましいのかも。なんだかんだ言って、すごく気にしいなんで、わたし」
ベースを手に取りアンダーグラウンドに開眼
――音楽を熱心に聴くようになったのは?
「大学生になってからだと思います。わたし、音楽にたいして興味もないのにバンドをはじめたんですよ」
――そんなことってあるんですか!?
「大学に入ったときに、〈あー、なんかやることないや〉みたいになっちゃって。そのときに(ギターの飯田仁一郎を含む)リミエキのメンバーに出会って、彼らはバンドをやろうとしていたんです。で、〈ベースを弾く子がいないんだけど誰か知らない?〉って話になったときに〈わたしヒマだからやるやる〉みたいな(笑)。
まあやるって言うならじゃあ、っていうとこからはじまって。ベースやるって決まったけど、〈ベースって弦何本?〉みたいな。もう全然知識もなんにもないのに〈やるやる!〉ってとこから入って弾けもしない楽器を弾いた。いざやるってなるといろんな音楽聴くようになって」
――YUKARIさんが高校時代に聴いていたいわゆる渋谷系って、音楽リスナーの音楽というか、頭でっかちな印象もありますが……。
「全然全然。ちらっとおしゃれなアレとして、当時流行りのヘッドフォンで聴いてる自分!みたいな(笑)。あのときテキトーにやるやる~って言ってなければやってないし、こんなに続くとは思ってなかったですね」
――ミュージシャンとしてパフォーマンスに影響を受けてきた存在はいますか?
「かっこいい!って思ったのはキム・ゴードンなんですよね。やっぱり男性のなかにいて、いまだにそれを紅一点とか呼ばれるのってどうかなと思うんですけど、それでも紅一点って言葉に負けない力のある方なので。それはあこがれではありましたよね、ずっと」
――ベーシストからはじめてヴォーカルに集中するという歩みもYUKARIさんと重なりますね。
「そうですね。わりと大きい存在だったかもしれないですね」
――キムのほかには?
「あとは……わたし、はじめて〈こんな音楽あるんだ!〉って衝撃を受けて、アンダーグラウンドな音楽にのめり込むようになったきっかけはボアダムスなんですよね。なのでやっぱりYOSHIMIちゃんはそうですね。それまでは音楽って、メロディーがあって歌えるみたいなものだと思ってたから、そのときにはじめて〈何やってもいいんだ!〉って」
――それはライヴを観てでしょうか?
「まずは映像を観たりCDを聴いたりしたところからです。あとはスタイルとして、〈男には負けないんだぞ〉って態度でやってた当時のSEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HERの日暮愛葉さんとかもかっこいいなと思ったし。そこからいろいろ女性の音楽をもっと知りたいと思って、スリッツやビキニ・キル、スリーター・キニーとかを聴くようになった。
で、またバンドをやっていると、もちろんいろんなタイプの女の子に出会えて。たとえばディアフーフと一緒にツアーを回らせてもらったんですけど、(ベース/ヴォーカルのサトミちゃんは)サトミちゃんらしさが全開じゃないですか。あとイレイス・イラータも運良く一緒にやらせてもらったりして。そうやってかっこいい女の人を見るのは刺激にもなるし基本的に好きですね。そんなに音楽を〈掘って聴く〉っていうほどでもないのが恥ずかしいんですけど」