〈誰にも踏み込めない領域に唯一触れることができる音楽。〉をコンセプトに掲げ活動する3ピースバンド、Absolute area。活動開始当初はヒリヒリしたギターロックに感情のすべてをぶつけていた彼らだが、セカンドミニアルバム『無限遠点』(2019年)以降はポップなサウンドを爽やかに鳴らすことが増えた。甘く柔らかな歌声は優しく過去をなぞり、エモーショナルな演奏がリスナーの涙腺を刺激する。まさしく今、ポップバンドとして成熟目前といったところだろう。
そんな彼らが、約2年半ぶりにアルバムをリリースする。作品のタイトルは『Future』。今まで過去を見つめ言葉にしてきた彼らには珍しい未来を見据えた1枚であり、新たなサウンドに挑戦したAbsolute areaに出会える楽曲群になっている。まさに新境地へ突入したといっても過言ではないだろう。
――彼らは、どのようにて進化を遂げたのか。
このインタビューでは、『無限遠点』以降の2年半を多角的に振り返ってもらうと共に、この期間に起きた様々な変化についてボーカリストの山口諒也に語ってもらった。
不安のなか発信と作曲を続けたコロナ禍
――セカンドミニアルバム『無限遠点』から約2年半ぶりのアルバム作品になりますね。この2年半を振り返ってみると、どのような期間でしたか。
「コロナが明けたあとのことを〈どうしていこうかな〉って考える時間でしたね。2020年の頭に前の事務所を辞め、ポップバンドへ舵を切ろうとするタイミングでコロナ禍に突入し、ライブができない状況になってしまったので。Absolute area=ロックバンドというイメージも強かったですし、ポップバンドとしてみんなに受け入れてもらえるか、すごく不安でした。ちょっとネガティブな時期もあったかな」
――新しい体制でポップバンドとして加速していこうとしていたタイミングで、コロナ禍に突入してしまったわけですもんね。
「それに、あの時期は〈ネットに存在していないと、現実に存在していないのも同じ〉みたいな感覚もあって。現実よりもネット世界のほうが生き生きしていた時代でしたからね。
そんな時代を〈嫌だな〉と感じつつも、まずは生き残ることを考える必要があった。〈何かしら発信しないと!〉と思い、ひたすらに曲を作っていましたね。YouTubeでワンマンライブを配信したり、TikTokに動画を投稿したり。本当に〈できることをとりあえずやろう!〉みたいな感じ。
『無限遠点』に収録した“遠くまで行く君に”や配信シングルの“カフネ”(2019年)の再生数が回り、みなさんに聴いてもらえていると感じられたのは幸いでした」
〈浅く広く〉より〈深く狭く〉に入りこんでいく曲のほうが共感を得られる
――コロナによりネット主体の活動をしていた影響は、楽曲にも表れていますか。
「頭のどこかでは、SNSでの歌詞や曲の使いやすさを考えているかもしれません。いろいろな人に当てはまる題材にしてみたり、印象的なフレーズをサビの1周目に持ってきてみたり。TikTokで“遠くまで行く君に”がバズったのも、みんな人生で別れを経験する場面がめっちゃ多いからだと思っています。
だからといって、抽象的でぼやけた歌詞にしたところで広がっていくとは限らない。万人に当てはまる歌詞が、万人の心を掴めるわけじゃないんですよね」
――心を掴む歌詞に必要なエッセンスは、なんだと思いますか。
「固有名詞を出した歌詞のほうが、聴いている人の心を掴めるんじゃないかな。〈浅く広く〉よりも〈深く狭く〉に入りこんでいく楽曲のほうが、結果的に共感を得られると思うんですよ。広告でもターゲットを広くすると効果がなくて、思い切って的を絞ったほうが多くの人に届いたりするじゃないですか。
例を出すと、配信シングルで出した“70cm”(2022年)では〈70cm〉というワードに想いをこめています。急な雨に降られて立ち寄ったコンビニで65cmと70cmの傘を見たとき、みんなに“70cm”という曲を思い出してほしいんです。今って娯楽が多すぎて、記憶にちょっとでも爪痕を残さないと思い出してもらえないので、キーワードを大事にしながら歌詞を書いていますね」
――日常で思い出してもらうために、記憶に爪痕を残すキーワードをいれていくと。
「情報量の多い世の中ですし、まずは聴いてもらえるきっかけを作らないとダメだと思うので。〈僕が好きな音楽たちを売りたい〉と考えると、誰にも聴かれずにいることには意味がないような気がしちゃいます」