DIVIDED EMOTION
声優として大活躍しながらシンガー・ソングライターとしての才気を見せてきた楠木ともりの、待望のファースト・アルバムはそれぞれに表情の異なる2枚同時リリース! ふたつの作品に横たわる心象にはいったいどのような色模様が広がっているのだろう?

多様な表情が力強く引き出された『PRESENCE』

楠木ともり 『PRESENCE』 SACRA MUSIC(2023)

 声優デビューの翌2018年にはTVアニメ「メルヘン・メドヘン」で初主演。以降も数々の話題作に参加し、昨年は超人気TVアニメ「チェンソーマン」のマキマ役でも鮮烈な印象を残した楠木ともり。声優業と並行して自作の楽曲を発表してきたシンガー・ソングライターでもある彼女が、初フル・アルバムとして『PRESENCE』『ABSENCE』の2作品を同時リリースした。そのうち〈存在〉を意味するタイトルの『PRESENCE』には、リズミカルな旋律にササノマリイらしさが浮かぶ“もうひとくち”など、既発の8曲に3つの新曲を加えた全11曲を収録。初出の曲としては、まず〈不在〉を主題とする『ABSENCE』のラストと対になるであろう冒頭曲“presence”が。自身が作詞・作曲を、江口亮が編曲を担った同曲は、鋭い言葉でギリギリの自己肯定を吐露した、ライヴ感溢れるギター・ロック・チューン。時にエアリーに、時にはすっぱに放たれる、ややハスキーな歌声も魅力的だ。さらには、TOOBOEが手掛けた毒っ気たっぷりの性急ロック“青天の霹靂”、めくるめく曲展開で楠木の多様な表情を引き出したCöshuNie製の“BONE ASH”も初お目見え。いずれも主役の内面的な〈強さ〉と演者としての〈色気〉を強烈に響かせた2曲となっている。 *土田真弓

 

内省や感傷が色濃く浮かんでくる『ABSENCE』

楠木ともり 『ABSENCE』 SACRA MUSIC(2023)

 声優業におけるさまざまなアーティスト/クリエイターとの繋がり、そしていち音楽ファンとしての幅広い趣味嗜好を作品に反映しつつ、みずから作詞・作曲も行うシンガー・ソングライターとして才能を開花させてきた楠木ともり。2枚同時リリースとなる初アルバムのうち、『ABSENCE』のほうは〈不在〉をテーマに、もう一方の〈存在〉をテーマにした『PRESENCE』よりも内向きな感情や感傷を描いた11曲を収録している。ラムシーニ編曲による激情的な変拍子ロック“遣らずの雨”、arabesque Chocheをアレンジに迎えた神秘的な和アンビエント“山荷葉”のように既発曲からして色彩豊かだし、「バンめし♪」のキャラソンで縁のあるmeiyoが書き下ろした新曲“StrangeX”では、ストリングスが躍動するカラフルなサイケ・ポップに乗せて可憐なウィスパー・ヴォイスを披露。またデビュー前からライブでカバーするなどファンを公言してきたハルカトミユキ提供の“それを僕は強さと呼びたい”での繊細かつ芯の強い表現からは彼女自身の本質が感じられる。みずから経験した〈別れ〉をきっかけに生まれた自作曲“absence”の、〈不在〉による悲しみを振り切るのでも受け入れるのでもなく、在りし日を大切に想いながら明日に向かう、その姿勢もまた彼女らしい。 *北野 創