2021年よりバンド体制になったcolormal(カラーマル)のヴォーカル/ギター担当イエナガと、自身のソロ・ユニットmeiyoの他に、侍文化、SAM4416、POLLYANNA、HGYM、プールと銃口といったバンド・ユニットにも在籍し、数々のアーティストのサポートや楽曲提供も行うワタナベタカシの二人による連載〈今月のイエナベ!〉。東西を代表するインディー・アーティストの雄でもあり、友人同士でもある二人が、前月に聴いて良かった音楽を3曲ずつ、〈イエでナベでも食べながら報告しあう〉ように紹介する連載です(たまに編集の酒井が茶々を入れます)。それではお二人、張り切ってどうぞ~!
★colormalイエナガとmeiyoワタナベタカシの〈今月のイエナベ!〉記事一覧
①yonige “催眠療法”
イエナガ「先日3000枚限定でリリースされた新EP『三千世界』からの1曲。フジロックでも早速演奏されていたんですが、この曲あたりからお客さんのステージに向ける集中力がグッと高まったのを配信越しに感じました。歪んだギターとモラトリアム感のある歌詞、所謂ライブキッズ好みなイメージを持ってしまっている人はかなり面食らったんじゃないかな。サンプラーを駆使したエキゾチックなループに気怠げなヴォーカル、20代後半の生活を〈床に置いた洗濯物、生乾き とうとう人間じゃなくなった!〉に集約してしまえるフロントマン牛丸ありさ氏の才能。前作『健全な社会』と併せて是非チェックして欲しいです」
ワタナベ「たしかに、かつてyonigeの名を大きく世に知らしめた名曲“アボカド”からは一見想像もつかないような系統の曲だけれど、中心にあるものがこれまでよりも明確に見えた気がする。こうして色んな側面を見せてくれて、しかも格好良いアーティストってかなり少ないんだよね。凄い。
関係ないけど、この低さでドープな雰囲気のマリンバが鳴ってると『スーパードンキーコング』を思い出してゾワッとします。好き!」
②時給800円 “たまには泣いてもいいですか?”
ワタナベ「たまらないですね〜。僕がやりたい音楽にかなりドンピシャで近い音楽です。情けない男 × グッドメロディー × ギターロック。どれを取ってもルーツです。『ココリコミラクルタイプ』という番組から生まれた企画ユニットなんですが、作曲の山沢大洋氏・編曲の武藤星児氏のペアはこれまた僕が青春時代に大きな影響を受けた木村カエラさんのファースト&セカンド・シングル&アルバム曲を手掛けていたり。どれも素晴らしいので、ピンときたら是非調べて聴いてみてください」
イエナガ「今やTikTokerとして才気を煥発されていらっしゃるmeiyoさんから『ココリコミラクルタイプ』なんて単語が出てくるなんて思ってもおらず、心が小学生に戻ってしまいました……。この頃、矢島美容室を筆頭にお笑い芸人の名曲が凄く多かったと思います。この曲、イントロのループを大事に進めるスタイルはワタナベくんの作曲にも近しい点を感じたので、やりたいと言うのも納得」
酒井「もっと古くなっちゃうんですが、自分のルーツにはGEISHA GIRLSがあったりして。“チキンライス”でも〈エキセントリック少年ボウイ〉でもなくGEISHA GIRLS(脱線)。お笑い芸人の曲って結構印象に残るんだよね」
③西村中毒 “ひかり”
イエナガ「京都の宅録音楽家で、現在は渚のベートーベンズのドラマーでもある西村中毒。SoundCloudで過去にアップされていた音源が大好きでよく聴いていたのですが、この度『西村中毒(ソロ)リマスター初期音源集』としてアナログ・リリースするとのことで。ヴォーカルのダブリングは大瀧詠一を彷彿とさせられるし、Aメロのピッチカートに夏の坂道で茹だるような湿気に包まれた時の感覚を思い起こさせます。宅録音楽家はジャンルの一つみたいに言われることも多いですが、どこまでも一人称視点から切り取られた風景や音が魅力だと僕は思っています」
ワタナベ「ことごとく切なく押し寄せるコード進行と、それに引っ張られるようにちょっぴり優柔不断なんだけど、でも少しずつ確信へと近づいていくような歌詞とメロディーライン。まさしくアナログ盤で聴きたい音楽だなぁ……しかもあんまり大きくないスピーカーで。
宅録・ドラマーということで勝手にシンパシーを感じてしまいました。いやしかし、音で分かるものですね、圧倒的な音楽愛の深さよ……」
④Wienners “GOD SAVE THE MUSIC”
ワタナベ「昔はPOLYSICSのライブでツナギを着て脇目も振らずピッピキピッピッピしていた僕ですが、自身がバンドマンになったことで芽生えた自意識によって自然とライブを後ろで静かに見るタイプの人になってしまいました。
Wiennersはそんな僕を再びモッシュピットへと誘ったバンド。圧倒的にも程がある完璧な演奏、そしてひたすらにハイテンションな楽曲と、不意に現れる切ないメロディー。大きく拳を掲げて号泣しながら笑顔で叫んだあの日よ! 早く帰ってきておくれ! もうこうなったら、神頼みだ!!」
イエナガ「ピーチパイオンザビーチ! ワタナベくんがPOLYSICS好きなの、初めて知ったよ。実は僕がジャズマスターを初めて買ったのは、POLYSICSのギター・ヴォーカルのハヤシさんの影響なんです。玉屋2060%さんのでんぱ組.incへの楽曲提供からWiennersを知ったのですが、本当に演奏力の高いバンドですよね。2016年の『GOKOH』あたりから聴けてなかったんですが、衰えるどころか……で必聴です」
酒井「この曲、MVにいろんなオマージュが出てきて本当最高! 必見!」
⑤edbl & Carrie Baxter “Lemonade”
イエナガ「edbl(エドブラック)は今UKで話題のプロデューサー・トラックメイカーとのことで、全く存じ上げなかったんですが馴染みの飲食店でShazamしまして。トム・ミッシュのギターとFKJのタイム感が合わさっていて、日本ウケも抜群や……。もしかしてもう流行ってるのかな。余談ですが、ネオ・ソウル的なアプローチはプロ・ギタリストの有賀教平氏を筆頭に最近また火がついてる気がしますね。Official髭男dismの最新作『Editorial』に収録されている“Bedroom Talk”では同氏がギター・アレンジに参加されているようで、トレンドのギターを堪能できるのでこちらも是非。脱線しすぎましたね」
ワタナベ「世はまさに大ストリーミング時代。永遠に続くと危惧された音圧戦争の時代ももはや一昔……? 単純な波形の大きさではなく、聴感上の音量を基準に音量が均されるような仕組みが近頃一般化しました→ラウドネス値とか調べると詳しく載ってます。それでどうなるかというと〈無闇に圧縮した波形上ドデカい音〉よりも〈シンプルかつ余裕のある空間作りをした音〉の方が結果的には際立って聴こえるといった現象が起こります。
……そして皮肉なことに〈音圧戦争〉無き今、世界中の音楽のアレンジメントは〈ラウドネス戦争〉の頂点を目指してよりシンプルな形へと最適化され続け、そして、最後に残ったのは、無音(嘘)」
⑥楠木ともり “タルヒ”
ワタナベ「手前味噌ではありますが、ワタナベタカシとしてドラムでレコーディングに参加させてもらった楽曲が先日公開されたので最後に紹介させて下さい。楠木さんとは〈バンめし♪〉のライブでバックバンドをやらせてもらった際にご一緒して、その後meiyoの曲をTwitterやラジオで流してフックアップしてくれたり、お世話になりっぱなしです。
そんなこんなで今回の楽曲“タルヒ”は編曲やぎぬまかな、ギターqurosawa、ベース大澤伸広、鍵盤は辻林美穂、そしてドラムはワタナベタカシという〈バンめし♪〉カラーが出まくった布陣でレコーディングに挑みました。
作詞作曲はなんと楠木さんご本人。サビが秀逸で、この曲に通底する大きな優しさもまた、痛みを知らない人からは決して出てこないものなんだよねぇ。末恐ろしい才能が垣間見える名曲です」
イエナガ「僕はmeiyoの楽曲の中では“たりない”がダントツで好きなんですが、その雰囲気を感じ、案の定演奏陣は侍文化のメンバーを含んでいたりと、いつも仕事を一緒にやってるメンバーって印象(寡占か?)。タイトルに沿って雪解けの様なヤギヌマカナさんの編曲の妙も光っている。それにしても、楠木ともりさんは声優なのに作詞曲を……と思って調べたら過去に音楽活動されてたとの事で。平沢進のファンらしいのですが、ワタナベくん、次回の編曲は参考にしてレーザーハープを使ってみましょうよ」
酒井「こないだのフジロック、レーザーハープが大きくなっててビックリした……(また脱線)」
次回は10月頭に公開予定です! お楽しみに!
INFORMATION
meiyo生配信 重大発表の巻
2021年9月12日(日)20:00~
https://www.youtube.com/watch?v=27nqoo2xBI0
猫を堕ろす pre. CLOUD ATLAS TOUR 名古屋編
2021年10月16日(土)愛知・K.Dハポン
出演:猫を堕ろす、colormal、suisei、FUZZKLAXON、Ikalaser(DJ)
開場/開演:TBA/TBA
前売/当日:2500円(税込、別途1ドリンク)
猫を堕ろす pre. CLOUD ATLAS TOUR 大阪編
2021年10月23日(土)大阪・SOCORE FACTORY
出演:猫を堕ろす、colormal、ウ山あまね、ゆnovation、SAPPY
開場/開演:TBA/TBA
前売/当日:2500円(税込、別途1ドリンク)