早見沙織『白と花束』に濃縮された幅広い音楽性――TK（凛として時雨）、諭吉佳作/menらと育んだ豊かな表現を紐解く

早見沙織『白と花束』は、フルアルバムとしては前作『JUNCTION』からおよそ4年半ぶりとなるニューアルバムだ。その間にも『シスターシティーズ』や『GARDEN』（両作とも2020年）といったミニアルバムのリリースを通じて音楽活動をコンスタントに重ね、多彩なプロデューサー陣と共に音楽性を広げてきた歩みが、『白と花束』には詰まっている。

Pop

バラエティに富む曲調で、1曲ごとにまったく異なる声の表現を聴かせる本作は、一貫したトーンを持ち、濃密なステージを目の当たりにするかのような『JUNCTION』とはある意味対照的とも言えるだろう。『シスターシティーズ』や『GARDEN』も個性豊かなプロデューサー陣と共に幅広い音楽性を濃縮した作品だったが、『白い花束』はさらにいっそう、表現に対するバイタリティがみなぎっているように思う。それは楽曲やプロデューサー陣の名前だけでなく、パフォーマンスに耳を傾けてもわかる。

たとえばTomgggのプロデュースによる“Ordinary”は本作の白眉のひとつと言っていいだろうが、親密な手触りのビートに寄り添うようにやわらかく言葉をならべてゆくボーカルが最大の魅力になっている。一方で“Awake”では、TK（凛として時雨）がつくりだすドラマチックな展開に大胆な声の表現で答え、壮大な世界をつくりだしている。いよわのユニークなテクスチャーのざわめきの上をふんわりとたゆたうような“残滓”も、サウンドとボーカルが噛み合った魔法のような1曲。

『白と花束』収録曲“Awake”

しかし、もっとも印象的なのは、気鋭のシンガーソングライター諭吉佳作/menを迎えた“エメラルド”だろう。語るように自在に気まぐれに動き回る、諭吉佳作/men独特のアクの強いメロディ。それが持つ微妙なリズムのニュアンスを、ときにするどく、ときにやわらかく描き出していくボーカルは、みずみずしさのなかにも貫禄さえ感じられる。

『白と花束』収録曲“エメラルド”

アルバムを聴けば聴くほど、タイトルに掲げられた〈花束〉とは言い得て妙で、曲調も多様ならパフォーマンスのあり方もさまざま。いろいろな表情を見せる花が寄り集まって、より豊かな表現を生み出すその様子にぴったりな言葉だ。

なにより『白と花束』は、あふれる表現へのバイタリティゆえに、ここ数年間、新型コロナ禍をはじめとした困難のなか模索した表現の〈集大成〉的な達成であることはもちろんあるとしても、これからうずうずとなにかが動き出しそうな予感をこそ湛えたアルバムだ。

RELEASE INFORMATION

Pop

リリース日：2023年5月24日（水）
配信リンク：https://nex-tone.link/A00115403

■CD＋Blu-ray盤
仕様：CD+Blu-ray（2枚組）／ブックレット（24P）／フォトブック（24P）／アウターケース仕様
品番：1000827906
価格：7,480円（税込）

■通常盤
仕様：CD（1枚組）／ブックレット（24P）
品番：1000827911
価格：3,300円（税込）

TRACKLIST
1. Ordinary
作詞：早見沙織／作曲・編曲：Tomggg
2. Abyss YouTube Channel
作詞・作曲：早見沙織／編曲：渡辺拓也
3. 残滓
作詞・作曲・編曲：いよわ
4. ここでここで
作詞・作曲・編曲：清竜人
5. Tear of Will YouTube Channel
作詞：早見沙織／作曲・編曲：Kevin Penkin
6. Awake YouTube Channel
作詞：早見沙織／作曲・編曲：TK
7. フロレセンス
作詞・作曲：早見沙織／編曲：倉内達矢
8. 透明シンガー YouTube Channel
作詞：早見沙織／作曲・編曲：ぷす（fromツユ）
9. エメラルド
作詞・作曲・編曲：諭吉佳作/men
10. Guide YouTube Channel
作詞・作曲：渡辺翔／編曲：大久保薫
11. 視紅 YouTube Channel
作詞・作曲：渡辺翔／編曲：渡辺拓也
12. はじまりの歌
作詞・作曲：早見沙織／編曲：大久保薫