98年、テナーサックス奏者の甲田“ヤングコーン”伸太郎を中心に結成された、BLOODEST SAXOPHONE(ブラッデスト・サキソフォン)。テナーとバリトン2管による太くて男臭いサックスと、渋さとアツさを併せ持ったドラム、ベース、ギターのリズム隊が、時に荒馬のように疾走し、時にとびきりメロウに迫る。日本国内はもとより、アジア、北米、欧州でもライブ活動を展開しているジャンプブルースバンドだ。そんな彼らが、BLOODEST SAXOPHONE feat. クリスタル・トーマス名義のアルバム『GOOD MORNING』を完成させた。
2018年11月にリリースされた『I JUST WANT TO MAKE LOVE TO YOU』(註:テキサスで活躍する5人の実力派女性シンガーをフィーチャーしたソウルアルバム)と、その翌月に発表された20周年記念盤『IN TEXAS』という、テキサス録音による2枚のアルバム以来となる、5年ぶりの新作。今回フィーチャリングされたクリスタル・トーマスは、前述した『I JUST WANT TO~』にも参加し、山下達郎“YOUR EYES”のカバーで素晴らしい歌唱を聴かせていたシンガーだ。
ブラサキの面々が再度テキサスに乗り込み、現地レコーディングを果たした充実のアルバムについて、本作のプロデュースも手掛けた甲田にじっくり語ってもらった。

BLOODEST SAXOPHONE, CRYSTAL THOMAS 『GOOD MORNING』 Mr. Daddy-O/SOUL TWIST INC.(2023)
日暮泰文と高地明が企画、万全の体制で臨んだテキサス録音
――今回、クリスタル・トーマスとの再共演によるアルバムが完成しましたが、どういう経緯で制作に至ったのでしょう?
「5年前の『I JUST WANT TO~』にクリスタルが参加した時に、山下達郎さんの“YOUR EYES”を歌ってもらったのが、すごく良かったんです。
なので、日本にも呼びましょうということになり、フジロックへの出演や渋谷クラブクアトロでの単独公演でクリスタルに出てもらって。彼女には香港公演にも帯同してもらったし、同じ年の9月に我々がテキサスでライブを行った時にも、彼女と一緒にステージに立ちました」
――たしかにクリスタル・トーマスさんの歌声は、ブラサキの迫力あるバンドサウンドとの相性の良さを感じました。
「そこからコロナ禍もあってしばらく間が空いていたんですけど、2022年の正月に、今作の企画者でもある日暮泰文さんと高地明さんの2人(註:雑誌『ザ・ブルース』~『ブラック・ミュージック・リヴュー』を立ち上げ、さらにはPヴァインを設立するなど、黒人音楽の魅力を日本に広く伝えてきた立役者。前述したテキサス録音の2作も企画を担当)から連絡があったんです。もともと2022年9月に、僕らがテキサスでライブをやることは決まっていたんですが、そのタイミングで、甲田伸太郎プロデュースで、クリスタルをフィーチャーしたボーカルアルバムもレコーディングしようと提案を受けて。いい機会だから、飛び込むしかない!と思って話をお受けしたんです。
僕らはインストバンドなので、その特性を生かしながら、ボーカルを入れてもこれだけのクオリティの作品ができる。クリスタル・トーマスをフィーチャリングすることで、BLOODEST SAXOPHONEの実力を世に知らしめようと。日暮さんと高地さんは僕らに賭けてくださったと、そう捉えてます」
――テキサス録音プロジェクトの第2弾は、そうしてスタートした訳ですね
「2022年の前半は、アルバム制作に向けた準備に取り掛かってましたね。11月にはスイス公演も決まっていたんですが、その時期に、ずっと活動を共にしていたバリトンサックス(YUKI)が、音楽活動を辞めることになって。我々の間では〈定年退職〉って言ってますけど(笑)。
ただ、バンドのサウンドを変えるつもりはなかったので、バリトンサックス奏者を探して。テキサスとスイス公演に関しては、青木ケイタにサポートしてもらいました」
――青木ケイタさんは、勝手にしやがれのサポートをはじめ、多くのセッションで活躍されています。
「彼とはMIKA RANMARU(中島美嘉、土屋公平、池畑潤二らによるバンド)でも一緒にやっていたので。声をかけたらスケジュールが空けられるということだったので、来てもらいました。並行して探していたバリトンの正式メンバー(伊藤聖)も無事に決まって。
そんなこんなでゴタゴタはしていたけれど、常に前向きな気持ちで動いていました。そして9月になり曲も仕上がって準備もできて、万全の体制でテキサス録音に挑みました」

ブルースに収まってもしょうがない、どこまで可能性を広げられるか
――甲田さんから見て、クリスタル・トーマスさんはどんな方ですか?
「彼女はすごくブラサキをリスペクトしてくれているんです。オリジナル曲のデモも、メロディはサックスで吹いて送っているんですが、メロディや曲に込めた意図をすべて汲み取ってくれる。ライブをやっていても、〈私がボーカルよ、彼らはバックバンド〉っていう感じはまるでない。みんなで音楽を楽しみましょうっていう姿勢に溢れている。その感覚を持ち合わせているところは、録音していても、ライブをしていてもすごく面白い。あと、だいぶ酒も一緒に飲んでますしね(笑)」
――世代や活動してきた環境もそれぞれ違うと思いますが、クリスタルさんとブラサキが、共鳴する部分がどこかにあったんでしょうね。
「お互いにいろいろ活動してきて、その経験から纏ってきたものがあると思うけど、それを剥いでいくと、似たような部分はどこかにあるかなとは思います。彼女が普段メインでやっているのは、ソウルやR&Bといった黒人音楽のクラブでの活動です。並行してブルース畑でも活躍していて、単独でヨーロッパツアーを回ったりもしている。そのブルースという部分に僕らとの接点があって。
だけど、そのブルースっていう枠に収まってアルバムを作ってもしょうがないと思ったんですよね。BLOODEST SAXOPHONEとクリスタル・トーマスが一緒にやることによって、どこまでお互いの可能性やアイデンティティを広げられるか、といったところから、今回のアルバムの方向性を考え始めました」
――実際に現地でのレコーディングはどのように進めていったんですか?
「最初はルイジアナに入って。シュリーブポートにある黒人コミュニティのクラブ〈Bosslife 2 Lounge (& Event Center)〉で演奏するというのが、今回の旅の大きなビジョンの一つでもあったんです。
そのクラブは、これまでにも日本人のギタリストがセッションで参加するとかはあったようだけど、日本人のバンドが出演するのはなかなかない話で。観客も本当に黒人しかいなかったんですが、大盛況のうちに終わりました。同じ夜にはカジノホテルのステージにも立って、それもめちゃくちゃ盛り上がって。
その後ほとんど寝ないで、車でテキサスに向かいました。オースティンのスタジオに入って、そのままレコーディングに突入するという」
――めちゃめちゃ強行、かつ濃密なスケジュールですね(笑)。
「密でしたねえ(笑)。結構くたくただったけど、レコーディングの予定もタイトだったので、初日のうちに3曲は録ろうと。でも、ライブが続いていたのと、アドレナリンもだいぶ出ているので、気持ちが一つの方向に向いていたことで仕上がるのは早くて。いい形で進んでいきましたね」
10ccやストーンズの名曲をブラサキ流に料理
――今回のアルバムは、曲調のバリエーションが幅広くて、聴いてて楽しい部分でもありました。カバー曲のセレクトも、意外性もあって。
「10cc“I’m Not In Love”なんかは、メロディはクリスタルにぴったりだなって思いついたんです。同時にアレンジとしてはレス・バクスターの音が僕の中で鳴っていたので、これを合わせたら絶対に上手くいくと。
ちょっと話は逸れますが、映画の『マトリックス』は、もともとウィル・スミスが主演のオファーを受けていたんですよ。〈ウィル・スミス主演の『マトリックス』も観てみたい〉というような発想で、〈クリスタル・トーマスが歌う10cc〉を考えていました(笑)。
10ccのあのサウンドを、そのままウチでやるわけはないので、ちょっとエキゾチックな、若干アバンギャルドなイメージで大体のアレンジは作っていって、それをベースのマサ(服部将典)がブラッシュアップして。緻密なハーモニーを構築するのは、彼のほうが得意なのでね。翌日上がってきた譜面を見たら、バッチリでした」
――さらに意外なカバーでいうと、ローリング・ストーンズの“Undercover Of The Night”!
「ちょうど僕が洋楽を聴き出した頃にリリースされて、ストーンズを初めて知ったのがこの曲だったんです。僕は神奈川県出身なので、TVKテレビの『ミュートマ(ミュージックトマト)』とかでMVをよく観ていて。なんだこれ、おっかないな!って、身震いするほどの衝撃を受けたんです。
最初はその毒気に抵抗力がなかったけど、いろんな音楽を聴くようになってから、“Undercover Of The Night”ってカッコよかったよなって、たまに思い出してたんですよ。で、今回クリスタルとアルバムを作ることになって、この曲をやることを一番最初に思いついたんですよね。
しかも、ディジー・ガレスピーの“Manteca”を合体させたら面白そうだなって思って。なんというか、毒と毒を掛け合わせてみるような(笑)。クリスタルも歌にアレンジをぶっ込んできて、いい感じに仕上がりましたね」

渡米後即ライブ、その勢いのまま録音できる経験と結束力
――なるほど、こうきたか!と思わせてくれる名カバーでした。
「歌モノのレコーディングをする時って、いままではバンドも一緒にせーので録ってたんですけど、今回はホーンセクションも含めたベーシックトラックを先に作って、ボーカルは後から入れたんです。さらに、今回は僕がプロデュースも担当していて、ベーシックを録る時は全体を見なければいけないので、自分のソロはサックス奏者として自由に吹くために後から入れました。
サックスソロを別に録るのって、意外とリスクもあって。というのも、ソロの部分は何も鳴らない状態でレコーディングしないといけないから、ドラム、ベース、ギターが盛り上がりづらい可能性もある。だけど、そこはウチのメンバーのすごいところで、俺がどんなソロを吹くか、なんでソレ知ってるの?って感じに、しっかりと盛り上がりをつけた状態で演奏してくれる。恐れ入りました!って思いましたね(笑)」
――これまでの活動で重ねてきたものが功を奏したわけですね。
「そうですね。ただ渡米前の去年8月までは、コロナの影響などもあって、あまりライブをやれてなかったんです。でも、たまにライブがあるじゃないですか? その時に、おそらくメンバーみんなは大丈夫なんですよ。それより、俺が大丈夫かな?っていう心配があって。でも、やってみると意外とやれるんですよね。
コロナ前は、ライブが無くても必ず週1回リハーサルに入っていたのですが、それもコロナ以降止めたので、そんな中でライブの予定が入った時に、俺一人がそんな不安を抱えていました。でも、ライブが始まるとすごく楽しくて、新鮮そのもので、そうそうこの感じ!って、一気に感覚が戻る。遊園地でジェットコースターに乗るために並んでる時だけは怖いけど、乗ってみたら全然楽しいっていう。そういう状態でしたね」
――そういう状況下でも、アメリカに渡ってライブを成功させて、レコーディングもバッチリ決めて。〈確実に打つ〉という感じが最高ですね。
「やっぱり、バンドのメンバーと長く一緒にやってきたのはデカいと思います。その時々で寄せ集めのメンバーだと、なかなか無理だと思うけど。お互いに我慢するところがあると、それがテンションが下がる原因になったりするし。
今回も、渡米前にスタジオでリハをして、メンバー間で感覚を掴んで、ルイジアナに入って、即ライブをやったところでガチッと仕上がった。その勢いのまま、レコーディングに突入できたからよかったのかな。日本国内でライブの本数が少なかったのは、ちょっと不安でもあったけど、ちゃんとガツガツとライブをできていた頃の勢いもしっかりと音源に持ち込めました」
――テキサスでのライブ~レコーディングのタイミングで、青木ケイタさんが助っ人として参加したのも大きかった?
「デカいですね。もともと気心知れた間柄ではあるんですけど、やっぱり鋭いんですよ。リハーサルを重ねている最中に、このバンドはどういうバンドか、何を求めているか、そういったことを理解してくれて。全体を見渡しながら自分の役割を掴んで、そこからバンドがだんだんとパワーアップしていく。だから、一緒にやってて楽しいんですよね。ステージ上でも、客席の反応も含めていま何が起きているのかを理解できる。まさに〈手練れ〉ですよ」
本場を超えるキレのサックスリフ
――なるほど。さて、話を戻しまして……アルバム冒頭を飾る“Mailman’s Sack”から“I Don’t Need You No More”への、ガツンと派手にかます流れが最高です。
「今回取り上げる楽曲を探している中で、タイニー・ブラッドショウは知っていたけれど、この“Mailman’s Sack”は知らなかったんです。で、この曲はイケるなって思って。
ただ、原曲は勢いはいいけど、やや一本調子な印象だったから、どうアレンジするかと考えてたんです。そこで高地さんから〈サックスと歌の絡みを入れてください〉というアドバイスをもらったので、なるほどなって。
この曲については、ソロも含めて〈せーの〉で録っているんです。メンバーに〈ちょっとソロを吹き直したいんだけどさ、もう一回やってくれねえかな?〉って訊いたら、ギターの(佐藤)修二に〈ダメだよ! すげえいいソロだから!〉って言われて、ベースのマサもすっと来て〈伸太郎さんが吹きたい完成形のソロは僕らもわかるし、録り直してもいいです。けど、俺はたぶんこっちのほうが好きだと思います〉って言われて」
――理路整然と(笑)。
「この人たち、怖い~!って(笑)。ドラムの(大澤)公則も、後ろのほうでソファにふんぞり返って〈大丈夫でーす! オッケーでーす!〉って。俺の10個下ですよ、アイツ。ふざけんなっつうの(笑)」
――いいバンドですねえ(笑)。
「2曲目の“I Don’t Need You No More”は、マキシン・ブラウンの歌で有名ですけど、原曲も勢いがあるので、そこに原曲にはないサックスのリフを入れたいと思って。テナーとバリトンをオクターブ違いで重ねる真っ黒い感じを出しつつ、さらにストイックなキレも出したかったんです。黒人ミュージシャンもここまで細かくは切らないんだよなっていうキレを目指して。なので、リフを細かく計算してアレンジしました。
ヒューマンビートボックスの大会でも、日本人が強かったりするじゃないですか? 小さい身体で乗り込んで現地の白人も黒人もぶっ潰していくような、小気味いいフレーズ。そんなのをイメージしながら、キレッキレのリフを考えました」

〈これは絶対面白い。よし、飲み行っちゃおう!〉の繰り返し
――そして、日本ではディック・ミネの歌唱で知られる“Dinah”。これまた楽しいアレンジですね。
「“Dinah”が、このアルバムの中でも一番ふざけた、遊んだ曲ですね。DJの発想みたいな感じで、“Drum Boogie”(ジーン・クルーパ)をそのまま掛け合わせてみよう、みたいな」
――先に語っていただいた“I’m Not In Love”といい、“Undercover Of The Night”といい、マッシュアップ的なアイデアですよね。
「この曲の場合は、ベーシックは“Drum Boogie”で、途中にモーツァルトや“サンダーバード(のテーマ)”なんかも入ってきたりして。そして最後にカウント・ベイシーが出てきて、みたいな感じで、思いつく限り全部を詰め込みましたね(笑)」
――ミュージックラヴァーとして、好きなものを全部詰め込みたいって感覚が、甲田さんのアレンジの根本にあるのかもしれないですね。
「アレンジを考えてるうちに、なんか楽しくなっちゃって。実際にスタジオでみんなで演奏してみて。これは絶対面白いだろ、よし、飲み行っちゃおう!っていう(笑)。その繰り返しですよね」
――“Dinah”は、ボーナストラックとして日本語バージョンも収録されていますが、クリスタルさんの歌はいかがでしたか?
「録音前はちょっと不安だったんですけど、クリスタルがすごく練習してきてくれて。ちょっとした発音の違いも、指摘すればピンポイントで理解してすぐに直してくれるし。日本語の歌詞を、もうちょっと日本語として聞こえるようにがんばって歌ってもらわなきゃいけないっていう作業は、さほど多くなかったです」
ブラサキとクリスタルがグラミー賞を獲るなら?
――日本語版の“Dinah”は、ぜひ7インチを切って欲しい! 7インチといえば、オリジナル曲の“Good Morning”は7インチ化もされるという、本作のリード曲ですね。
「最初、サビの部分だけあった曲ですね。ちょっと使えないなと思って、ボツにしてました。もとともとクリスタルとブラサキで一緒にグラミー賞を獲るのであればどんな曲か?というイメージで作ってたんです。それと同時に、フェスで演奏したら気持ちいい曲っていう、2つのテーマに沿う曲が、収録曲のラインナップの中に出てきてなかったんです。
オリジナルは300曲ぐらいこれまで作ってきたわけですが、それでも合う曲がなくて。そこで、サビの部分しかなかったものをもう一度引っ張り出してきて、さらに震災以前に作って世に出してなかった曲のAメロを思い出したんです。それとつなげてみたら、一気に完成しました。しかも、フェスでやったら気持ちいい曲になったし、〈これ、グラミー賞も狙えるだろう〉って曲に仕上がって」
――グラミー賞も視野に入っているという! この曲は、ストリングスも取り入れられてますね。
「レコーディングが終わって、スタジオから出る時に、ベースのマサが、〈この曲、ストリングス入れちゃっていいっすか?〉って訊いてきたんです。彼は、コンピュータを使ったダビング作業も自宅でできるので、帰国したその日の夜に、チェロやバイオリンを自分で弾いて重ねて。仮編集した音源を、翌日には送ってきました。それを聴いて感動しちゃって。ただ、彼はバイオリンもコントラバスのように、楽器を立てないと弾けないらしいんですけどね(笑)」
手応えアリのジョニー・テイラー メドレー
――後半のクライマックスといえるのが、70年代にスタックスから数々のヒット曲を送り出したソウルシンガー=ジョニー・テイラーの曲を取り上げた、“Jonnie Taylor Medley”。“Just A Happy Song”~“I Love To Make Love When It’s Raining”~“Hello Sundown”の3曲のメドレーで、クリスタルさんのスケール感の大きい歌唱の魅力がしっかりと表現されています。
「3曲あるうちの、もともと“Hello Sundown”だけはラインナップに入れてたんですが、日暮さんと高地さんと話しているうちに、メドレーにしようというアイデアが出てきたんです。クリスタルはもともとジョニー・テイラーのバンドでトロンボーンを吹いていた経歴もあるので、何曲か候補を送ったら、彼女からこの3曲がいいと提案があった。
“Just A Happy Song”をブラサキでやるなら、バリトンのリフが最初にあるといいなと思って、ジョー・リギンスの“Pink Champagne”のリフを当ててみたら、これがバッチリハマって。曲と曲のつなぎの部分も、ドラムの公則がどんどんアイデアを出してきてくれました。かなりの大作になりましたね。
実はこのメドレー、最初にスイスで演奏してみたら、爆発的にウケて(笑)。やっぱり曲が切り替わるところで、大きな拍手が起こるんですよね。これは手応えアリでしたね」

あなたの大切な家族のことを歌ってほしい
――じっくりとクリスタルの歌声を堪能したところで、“Mammer Jammer”みたいなロッキンタイプのキラー曲でまた盛り上がります。
「ドン&デューイの曲は何か入れたくて、最初は好きな曲で“Koko Joe”も考えていたんだけど、クリスタルが歌うのはちょっと違うなと思って。候補を考えているうちに“Mammer Jammer”はクリスタルの歌が絶対ハマるなと。このテンポの曲はアルバムの中になかったので、上手く仕上がりましたね」
――本編ラストは、オリジナル曲となるバラード“Thank You (Thank You Granddad)”。甲田さんのむせび泣くサックスがたまらないですね。
「これは2007年にリリースした4作目のアルバム『growlin’ the “B”』にも入っていた曲です。自分で作っておきながら大好きな曲なんですね。ただ、当時の録音では完成してないなと感じていて、できれば英語圏の歌い手と組んで録り直したいなと思っていました。
家族のことをイメージして作った内容なので、クリスタルはそれをきっと汲み取ってくれるだろうと。その信頼の元、クリスタルに投げてみたら、100パーセント理解して素晴らしい詞を書き上げてくれました」
――この曲もそうですが、クリスタルさんとの作詞についてのやりとりは、どんな風に進めていったんですか?
「“Thank You”に関しては、〈あなたの大切な家族のことを歌ってほしい。あとはお任せします〉と伝えました。“Good Morning”“Oh Baby”についてはタイトルだけしか伝えてなくて、あとはお任せでした。
そうしてクリスタルから上がってきた歌詞は、3曲ともすごくよかったです。自分の想像とまったく違うというのもなかったし、僕のほうも具体的なイメージは持たないようにしていたんですけど、自分が楽しみにしている範囲内で、曲の持っているイメージを増幅させてくれましたね」
オーディエンスと一緒に音楽を作り上げていきたい
――アルバムを通して聴いてサウンドの密度がものすごく高いし、すさまじい勢いがあって。いま伺ったようなバンドのテンションだったり、その場の空気感だったりも、ちゃんと収められているように感じました。それこそ今回の旅とか、これまでのバンドの経験っていうのは、録音にすごく出るんだなっていうのが、作品を聴くと如実にわかりますね。一朝一夕には、この音は出せない。
「そういう部分を汲み取ってもらえて嬉しいです。録音物しかり、CDに封入されるセルフライナーノーツしかり、実体験みたいなものから伝わるといいなって。前のバリトンサックスが辞めたことも含めて、このアルバムにはすべてを注ぎ込んだつもりなので。
いい世界観の作品ができたというのはもちろんですが、いま現在のBLOODEST SAXOPHONEとクリスタル・トーマスが重なって、お互いに新しい着地点を見出すことができた。オーディエンスのこともしっかり見据えながらね。すごく作り込んだ部分もありながら、ほぼライブで再現もできる。エンターテインメントとしていいものができたと思ってます」
――作り込んだ部分と、バンドが一番大事にしているライブ感と、その両方の良さが立ってますよね。
「『ボヘミアン・ラプソディ』って、クイーンの映画があったじゃないですか? その中のシーンで、フレディ・マーキュリー役の人が〈そうだ、俺たちはいままで通り、客が欲しいものを与えるだけだ!〉ってセリフを語ってて。それを聞いて〈やっぱそうなんだ!〉って感動したんですよね。バンドを続けていると葛藤する時期があるんですよ。でも、〈いや、そうじゃなくて、こっちが出したいものを出せばいいんだ〉と。もちろん、最初に発するのはこちらの想いでしかないんですけど、俺はオーディエンスをちゃんと見て、一緒に音楽を作り上げていきたいと、ずっと思っていたんです。
尊敬するビッグ・ジェイ・マクニーリーと一緒にやった時に、〈客をよく見ろ、いま何を欲しがっているのかを見るんだ〉って、フレディと同じようなことを言っていて。〈えっ、あなたみたいな、ステージでめちゃくちゃやる人が!?〉って思ったけど(笑)。だけど、そこで確信した部分はあった。これだけの世界的アーティストでも、はっきりとそう言うんだと。
今回のアルバムでいえば、もちろんブルースっていうキーワードがあったんですけど、BLOODEST SAXOPHONEとクリスタル・トーマスというフィルターを通して、それをどこまでポップスとして昇華できるかを考えていたし、そこは上手くいったかなと思います」
――〈客の欲しがっているものを与える〉って大事なことだけど、一方でキワキワな感覚でもあって。観客に媚びるのはまた違うじゃないですか。そこで差として出てくるのは、やっぱり芯に持ってるものがあるかないかの違いという気がしますよね。
「考えすぎることで、ギリギリはみ出してアウトになっちゃうことも絶対あるんですよ。でも、このアルバムでは、そこは絶対はみ出してない。そういった意味でもいい着地ができたかな。クリスタルとブラサキで、あと何回一緒に演奏できるかわからないから、録音作品としてもしっかり楽しんでもらえる作品にしたかったし。そういう意味でも上手くいったかな。
僕がプロデュースはしてるけれど、ずっと続けてきたメンバーや途中で辞めたメンバー、そしてスタッフも含めて、みんなでアイデアを出しあって作り上げていった。自信を持って、聴いてもらいたいと思える一枚になったと思います」
RELEASE INFORMATION

BLOODEST SAXOPHONE, CRYSTAL THOMAS 『GOOD MORNING』 Mr. Daddy-O/SOUL TWIST INC.(2023)
リリース日:2023年7月21日(金)
品番:STREC-006
価格:3,300円(税込)
企画:日暮泰文/髙地明
甲田“ヤングコーン”伸太郎プロデュース作品
TRACKLIST
1. Mailman’s Sack
2. I Don’t Need You No More
3. Undercover Of The Night
4. Dinah
5. Good Morning
6. Somebody Else’s Man
7. Oh Baby
8. Country Girl
9. I’m Not In Love
10. Johnnie Taylor Medley (Just A Happy Song ~ I Love To Make Love When It’s Raining ~ Hello Sundown)
11. Mammer Jammer
12. Sit Down Baby
13. Let’s Love In The Moonlight
14. Thank You (Thank You Granddad)
15. Dinah <Japanese> ※ボーナストラック日本語バージョン
『GOOD MORNING』によせて
甲田伸太郎率いるジャンプ系スイング・バンド、ブラサキの最新作を拝聴しました。
テキサス録音盤! かっこいいよね。
モダン・ジャンプとでも言おうか懐かしい佇まいのホーン・アレンジにクリスタルさんの安定感抜群なソウルフルな歌い口、伸太郎のエグ味溢れるテナーが絡まりアルバム通してまったりと楽しめる。曲調は様々だがアルバム全体を覆っているのはある種の柔らかさ。
ホーン中心のサウンドにありがちな耳を直撃する痛い金属音は皆無。
倍音たっぷりで聴かせるアナログの情感が心地良い。
リズム&ブルース・マナーの妙技を振るうブラサキの演奏は今回も秀逸で、
洒落たアクセントとして時折スポットの当たるギターも甘くファンキーでいいよね。
長~く聴ける愛聴盤が一枚増えました。
豊かな時間をありがとうブラサキ!
土屋公平

BLOODEST SAXOPHONE, CRYSTAL THOMAS 『GOOD MORNING <Single>』 Mr. Daddy-O/SOUL TWIST INC.(2023)
リリース日:2023年7月14日
配信リンク:https://nex-tone.link/A00120047
企画:日暮泰文/髙地明
TRACKLIST
1. MAILMAN’S SACK
2. GOOD MORNING
LIVE INFORMATION
ブラサキ3・マンスリーMonday Live
2023年7月31日(月)東京・下北沢 メンフィス兄弟。
開場/開演:20:00/20:30
出演:BLOODEST SAXOPHONE(ブラサキ3)
DJ:SAKAMOTO(galcia)
入場無料/チップ制/1ドリンクオーダーをお願いします
ブラサキ九州ツアー2023
2023年8月25日(金)大分 無敵のおやじ
2023年8月26日(土)熊本 ONE DROP
2023年8月27日(日)玖珠 NEW ELEGANCE
※詳細は近日発表
https://bloodest-saxophone.com/
