〈黒人社会の音楽興行界「チトリン・サーキット」で活躍する有力シンガーを探し出して、より広い視野で歌を提供し、自分のガッツで叫び歌い現わす機会を与え、現在の音楽界に蔓延するパターン化された、想像力のないソウル・ブルースの公式から抜け出す〉。

それがこのアルバム『No Soul, No Blues』のコンセプトで、ボーカルに抜擢されたのはスタン・モズリー。1952年にシカゴで生まれ、〈ラストソウルカンパニー〉とも言われる現代サザンソウルの名門マラコ・レコードでも活躍したシンガーだ。人選は大成功。彼の野太いハスキーボイス、アーシーなソウルとブルースのレガシーなどが混ざり合いグツグツと煮えたぎる、圧倒的な濃度と熱量を誇る有言実行の1枚が完成した。

今回はそんな作品の魅力により深く迫るべく、THE BAWDIESのROY(ボーカル/ベース)にインタビューを行った。60年代のガレージロックの洗礼を受け、そのルーツである往年のR&B/ソウルシンガーたちの声を真似することで自身のボーカルスタイルの礎を築き上げ、国内ロックシーンの真ん中にビンテージ旋風を巻き起こした彼は、この『No Soul, No Blues』というビッグなタイトルの企画を、スタン・モズリーの声を、どう捉えたのだろうか。

STAN MOSLEY 『No Soul, No Blues』 Pヴァイン(2022)

 

歌声だけ完全に仕留められた

――スタン・モズリーのことはご存知でしたか?

「いえ、知らなかったです。〈チトリン・サーキット〉で歌っている現役のシンガーですよね?」

――調べてみると、生まれは1952年ですが最初のシングルリリースは80年代に入ってからで、アルバムデビューは98年。けっこう遅咲きのベテランですね。

「僕は50年代~60年代、新しくても70年代初期あたりまでのR&Bやロックンロール、ソウルの7インチレコードを主に掘っているのですが、その頃のテイストが残っている現行のアーティストも含めて、まだまだ知らない人はたくさんいますね」

――おっしゃったあたりの年代のR&Bやロックンロール、ソウルが好きなのはなぜですか?

「泥くさくて汗や唾が飛び散っている様が見えるような感じが好きでたまらないんです。全体的に、ソウルやR&Bは年代を追うに連れてそのにおいが薄まってくる印象があって、特定の時代に特化して掘り下げるようになっていきました」

――そのうえで、『No Soul, No Blues』という作品を聴いてみて、いかがでしたか?

「まずスタン・モズリーの声がすごい。かつてのアメリカ南部のブルースマンやソウルの人たちの泥くささや塩辛い感じがビンビン伝わってきます。

インパクトという意味では、僕がソニックスなどの60年代のガレージロックを入り口に、そのルーツである黒人のブルース/R&Bシンガーと出会った時の初期衝動、ハウリン・ウルフやリトル・リチャード、レイ・チャールズを聴いた瞬間に匹敵するレベルでやられました。曲が入ってくる前に、声だけがバーンっときて〈何だこれ? ヤバい!〉って、完全に仕留められたあの感じ。

『No Soul, No Blues』ティーザー

これはライブで観たいですね。来日の予定はないんですか?」

――今のところないようです。

「それは何とかして呼んでもらいたいですね。一括りにするのは失礼かもしれませんが、僕の実体験に基づくと、昔からいるR&Bやソウルシンガーのライブって間違いなくすごいんですよね。

僕はハウリン・ウルフやリトル・リチャード、レイ・チャールズのようになりたいと思って、毎朝彼らのモノマネをカセットに録音して音源と聴き比べていたんです。そんなことを続けていると、徐々に自分の声がいい感じに変わってくる。

でも、オーティス・クレイの来日ライブを観た時に、〈俺が真似していたシンガーたちの声は、録音されたものだったんだ〉って、自分自身の成長に対する実感がひっくり返されるとともに、音源以上に大きな感動を覚えました。生で味わうあの野太さや倍音の感じはひとしお。それをこの2020年代に生で味わえる可能性があることは大きな価値だと思うので」

2016年のライブ動画

 

ソウル史とスタン・モズリーの音楽

――サウンド面はどうでしょう。ROYさんの考える『No Soul, No Blues』というタイトルの意味も絡めて話していただけますか?

「ソウル、ブルース、R&B、ロックンロールといったジャンルの間にはっきりとした線を引くことは難しいと思います。

そのうえで、まずそれらの違いについてざっくりと話すと、奴隷としてアメリカに連れてこられてアフリカの人たちが、賛美歌を自分たちのスタイルに採り入れて神様に助けを求めた音楽がゴスペル。それに対してブルースは自分へのぼやきや日常に感じる不満などを吐露したものです。

そして、ブルースをより楽しむためにダンスミュージックとして発展させたのがR&B。そこから〈もっともっと躍らせてくれ騒がせてくれ〉と速くなっていったのがロックンロールですね。ロックンロールはR&Bのなかにある一つのジャンル。それが50年代の話です。

60年代に入り、R&Bのシーンからはサム・クックやモータウン勢のような白人層に受け入れられるアーティストも多く出てきました。より大衆的なものになったR&Bはゴスペルと混ざることで、従来のシンプルな3コードのスタイルから音楽的な自由度も増していく。それがソウルです。その後ソウルはどんどん多様化していくんですけど、その流れの中で60年代初期や中期は都会的でポップなものが流行ったり、後期はサザンソウル的な泥くさいものが騒がれるようになったりするんです。

その反面、特に都会的でポップなソウルの流行をあまり良く思わない、〈ソウルには流されないぞ〉と思っていた硬派なブルースマンたちもいた。そんな彼らにとってのキーワードが〈ファンキー〉。サザンソウルの泥くささを温め続けてきたジェイムズ・ブラウンが60年代後半に打ち出したファンキーなグルーヴを、〈これはありだ〉と考え採り入れるようになりました。

今回の『No Soul, No Blues』からは、そんな60年代後半~70年代初頭辺りの熱を感じます。ブルースマンがやるソウルっぽい作品とも言えますし、例えばジョニー・テイラーが70年代前半のソウル期にやっていたブルージーな曲のようだとも言える」

 

ブルースやソウルが血肉になっている、ピュアでオーセンティックなアルバム

――現行のシーン目線からの話も訊きたいです。

「僕の好きな60年代のR&Bやソウルの泥くささを損なわずにリバイバルさせたアーティストとなると、まずシャロン・ジョーンズ&ザ・ダップ・キングスが思い浮かびます。エイミー・ワインハウスのヒットにも影響を与えたバンドですね」

シャロン・ジョーンズ&ザ・ダップ・キングスの2007年作『100 Days, 100 Nights』収録曲“100 Days, 100 Nights”

――2000年代におけるシャロン・ジョーンズの存在は大きいですよね。

「そうなんですよね。シャロンを起点にそれ以降から今までのことを思い返してみると、自分がリアルタイムで通過したアーティストやバンドから感じた刺激もけっこうありますね。

近年だとTHE BAWDIESで一緒にツアーも回ったイーライ“ペーパー・ボーイ”リードからはバンドをやっていくうえでの影響も受けました。

イーライ“ペーパー・ボーイ”リードのTHE BAWDIESとのジャパンツアーに向けたコメント動画

ここ最近で一番のお気に入りは、イーライがプロデュースしたハーレム・ゴスペル・トラベラーズのアルバム『Look Up!』(2022年)。

ハーレム・ゴスペル・トラベラーズの2022年作『Look Up!』収録曲“Fight On!”

でも、今回の『No Soul, No Blues』からはそれをぶっ飛ばす勢いを感じています」

――そこまでおっしゃるのはすごいですね。

「スタンは52年にシカゴで生まれているんですよね。すなわち世代や住環境的に、80年代の日本に生まれある日突然、古いガレージロックやR&Bやソウルに強い憧れを持つようになった僕とは違って、物心ついた頃から初期のR&Bやソウルとともに育ったということ。そんな人が今も現役で活動していることが面白いし嬉しいんです。

だから、ビンテージミュージックを今に伝えたいとか、2023年に60年代や70年代を感じさせる音楽をやる意味とか、機材は昔の物でなくてはならないとか、アートワークも当時を再現してとか、そういった気負いが彼の音楽からはほとんど感じられない。このジャケットを見てもそう思いますし、これまでのキャリアを辿っても、いろんな年代のソウルが切り取られています」

――確かにそうかもしれません。

「ブルースやR&B、ソウルが血肉になっている一人のシンガーとしてのパーソナリティーを突き詰めていくことが、彼の気概であり誇りであり生活そのもの。思いっきり歌うことさえできれば、サウンドの時代感や方向性のイニシアチブを持つことにはこだわらない。

そんな生粋のシンガーをビンテージマニアのプロデューサーや演奏家たちが盛り立てた。だからこそ生まれた圧倒的なピュアネスと強さに満ちたオーセンティックなアルバムがこの『No Soul, No Blues』だと思います」

 

スタン・モズリーのように僕はこれからも歌い続ける

――THE BAWDIESは、おっしゃったように60年代のR&Bやソウル、ガレージロックなどに強い憧れを持ち、その念を今と照らし合わせながら、ロックフェスが隆盛を誇った2010年代の国内ユースカルチャーの中を駆け抜けてきました。そこから2022年に入ってROYさんご自身もはっきりと〈原点回帰〉と明言するオールドスクールなガレージロックサウンドに一気に舵を切った『FREAKES IN THE GARAGE - EP』をリリースしましたが、その意図は何ですか?

「おっしゃるように、THE BAWDIESは60年代の泥くさい音楽から受けた影響を軸に置きつつ、モダンな要素を入れることで自分たちならではの音楽を作りたいと思って続けてきたバンドです。でも、現在の音楽シーンは泥くささとはあまりにもかけ離れてしまった。そこで一旦今っぽさは置いて、僕らの根底にある泥くささをそのまま思いっきりぶつけたくなったんです」

THE BAWDIESの2022年のEP『FREAKES IN THE GARAGE』収録曲“STAND!”

――なるほど。これから先の作品も楽しみですね。

「ここまで振り切ったら〈どうしましょ?〉って感じですが(笑)、今は原点回帰モードのまま曲を作っていきたいなと思っています。R&Bやロックンロールを世の中に根付かせたい、そういった音楽を掘ることの楽しみを伝えたい、その時代の音というよりは、〈この時代になんでこれ?〉みたいなもののほうが面白いという気持ちは結成時からずっとありますし。

同時に、僕の思う〈スタン・モズリーのように〉じゃないですけど、自分のやっていることがどのシーンのどこにどう作用するとか、ヒットを飛ばしたいとか、そういうこととは関係なく、一人のシンガーとして前を見てずっと歌っていたいという想いも強い。いずれにせよ、僕はこれからもずっと歌い続けていくんだと思います」

 


RELEASE INFORMATION

STAN MOSLEY 『No Soul, No Blues』 Pヴァイン(2022)

■CD
リリース日:2022年12月21日
品番:PCD-25354
価格:2,750円(税込)
CDのみのボーナストラック1曲収録

TRACKLIST
1. I’m Back To Collect
2. Blues Man (No Soul, No Blues)
3. I Can’t Get Next To You
4. This Train
5. Losing Hand
6. Undisputed Love
7. Stomp
8. You Need Love
9. Right Next Door (Because Of Me)
10. I Smell A Rat
11. Change Of Heart
12. A Woman Needs To Be Loved (CD Only)
13. What You Need

■LP
リリース日:2023年4月19日(水)
品番:PLP-7954
価格:4,400円(税込)
完全限定生産

TRACKLIST
A1. I’m Back To Collect
A2. Blues Man (No Soul, No Blues)
A3. I Can’t Get Next To You
A4. This Train
A5. Losing Hand
A6. Undisputed Love

B1. Stomp
B2. You Need Love
B3. Right Next Door (Because Of Me)
B4. I Smell A Rat
B5. Change Of Heart
B6. What You Need

■CD特典
一部店舗特典:スペシャルライブ映像閲覧用QRコード付ステッカー
対象店舗:タワーレコード渋谷店/新宿店/梅田NU茶屋町店/広島店/仙台パルコ店/京都店/名古屋近鉄パッセ店/名古屋パルコ店/池袋店/川崎店/福岡パルコ店/神戸店/秋葉原店/新潟店/町田店/横浜ビブレ店/藤沢オーパ店/札幌パルコ店/オンライン