〈ブルーズは嘘をつかない〉――自身の人生と黒人社会の歴史からの真実の物語

 コロナ禍で身動きがとれなくなった2年間、残された時間の限られた高齢のミュージシャンにはとりわけ辛い日々だったろう。老いてますます盛んなブルーズマン、バディ・ガイもライヴ活動を休止し、クラブ〈レジェンズ〉の休業も余儀なくされた。だから、86歳となったバディの4年ぶりのアルバム『ザ・ブルース・ドント・ライ』で、彼があのエネルギーを保持できているか、一抹の不安もあった。

BUDDY GUY 『The Blues Don’t Lie』 Silvertone/ソニー(2022)

 だが、それは不要な心配だった。幕開けの“I Let My Guitar Do The Talking”に驚くなかれ。57年にルイジアナからシカゴにやってきたときを振り返る自伝的な曲だが、〈ギターに話をさせる〉という題名通り、その演奏は凄まじい。ワウペダルを使っての本当にギターが話しているような圧倒的なソロには、彼が大きな影響を与えたジミ・ヘンドリックスやジェフ・ベックも改めて脱帽するに違いない。

 バディは最も影響力を持ったブルーズ・ギタリストのひとりだが、近作での彼はその強烈なギター演奏と同じくらいに、ブルーズだからこそ語れる物語を強く意識しているようだ。表題〈ブルーズは嘘をつかない〉にも、人生の真実を歌う音楽という意味をこめたはず。そして、それは15年に親友B.B.キングを失い、今や〈最後のブルーズマン〉という自覚ゆえでもある。人種差別の厳しかった時代の南部に生まれ育ち、その体験を知るブルーズマンで現役なのは、彼の他には、本作で共演するボビー・ラッシュなど数えるほどだ。

 そのラッシュ以外にも、豪華かつ多彩な客演を迎え、エルヴィス・コステロやジェイムス・テイラーといった異色の顔合わせはブルーズの語り口にひねりを加えているが、特筆すべき2曲はどちらも社会的な主題を扱ったもの。〈ブラック・ライヴズ・マター〉運動などに刺激を受けた側面もあるだろう。

 “Gunsmoke Blues”はアメリカーナ・シーンの主役格のサザン・ロッカー、ジェイソン・イズベルとの初共演によるメッセージ・ソング。“砲煙のブルーズ”という曲名が示す通り、米国で繰り返され、幼い子供までを含む多くの犠牲者を出し続ける銃乱射事件に対して、厳しい銃規制を求める内容である。

 “We Go Back”には同世代のゴスペル/ソウルの大御所、メイヴィス・ステイプルズが加わる。ステイプル・シンガーズの看板歌手は実際に公民権運動の現場にもいた。68年のキング牧師の暗殺が回想され、その権利を勝ち取るまでに、多くの悲しみと人命の犠牲を払う地獄を経験してきたと振り返る。

 『ザ・ブルース・ドント・ライ』で、バディ・ガイはその年齢を感じさせない力強い歌唱と演奏に乗せて、彼自身の人生と黒人社会の歴史からの真実の物語を語る。ここには僕らがブルーズのアルバムに求めるもののすべてがある。