キャンディーズ解散から41年後のソロデビュー
キャンディーズの解散後、伊藤は79年に車にはねられて怪我を負い、休業を経て80年に映画「ヒポクラテスたち」で主演を務め、俳優活動を本格的に開始した。


その後は、俳優として映画・ドラマ・舞台に出演することが活動の中心に。2011年には東日本大震災復興支援チャリティーソング“ひとりじゃないの(feat. 石川ひとみ、伊藤蘭、太田裕美、大島花子、桑江知子、サエラ、ザ・リリーズ、ラヴァーズソウル、広谷順子、中尾ミエ、松本明子、michiko、山下久美子)”へ歌い手の一人として参加したものの、それは単発企画への参加にすぎなかった。
その中で待望の歌手・音楽活動への復帰を大々的に果たしたのが、キャンディーズの解散から41年後の2019年。ソロデビューアルバム『My Bouquet』をリリースしたのだ。
復帰の理由について伊藤は、歌手活動への誘いは過去にもあったが、芝居の道に生きていたことや結婚・出産・子育てなどで「歌が入るスキがなかった」が、「ふとした隙間に入り込んできた」とインタビューで語っている。「年齢的にもこれが最後のチャンス」という実感もあったようだ。
『My Bouquet』には、阿木燿子&宇崎竜童、トータス松本、門あさ美、森雪之丞、丸谷マナブ、若田部誠といったベテランから若手まで多彩な作家陣が作詞作曲で参加。みずから3曲の作詞を手がけてもいる。音楽的には、70年代アイドル歌謡風の“ああ私ったら!”から、ボッサポップの“ミモザのときめき”、アコースティックなバラードの“あかり”、最新J-POP調の“秘密”まで、非常にバラエティ豊か。その歌声は、〈成熟した歌手〉のそれとはまたちがう、41年越しの再デビューのフレッシュさと伸びやかさに満ちており、アイドル時代の瑞々しさを多分に残しているのが魅力である。
復活ライブと怒涛の勢いの歌手活動
同年に初のソロ公演とツアーをおこなった伊藤は、翌2020年にその時の模様を収めたBlu-ray DiscとDVD「伊藤 蘭 ファースト・ソロ・コンサート 2019」をリリース。キャンディーズ時代の曲も6曲披露された奇跡的・歴史的な復活ライブが、いつでも見ることができるようになった。

同じ2020年にはアンコールツアーを開催し、多保孝一が作曲した新曲“恋するリボルバー”を配信リリース。キャンディーズの曲を12曲と前年よりもさらに増やしたセットリストでファンを喜ばせたツアーの様子は、2021年に「伊藤蘭 コンサート・ツアー 2020 〜My Bouquet & My Dear Candies!〜」としてBlu-ray/DVD化された。

伊藤蘭 『伊藤蘭 コンサート・ツアー 2020 ~My Bouquet & My Dear Candies!~』 Sony Music Direct(2021)
さらに2021年には、セカンドアルバム『Beside you』を発表している。同作も作曲者は華々しく、布袋寅泰、トータス松本、森雪之丞、佐藤準、多保孝一らが名を連ねた。トータス松本作曲の“あなたのみかた”で聴けるフィル・スペクターのウォール・オブ・サウンド風なアレンジなど、既存の伊藤蘭像の踏襲とそれを覆す新たな音楽性が共存したアルバムだ。
2022年にリリースしたのは、3作目の映像作品「伊藤蘭 コンサート・ツアー 2021 ~Beside you & fun fun Candies!~ 野音Special!」。キャンディーズが解散宣言をした、縁の深い日比谷野音のステージに立ったライブが収められている。『Beside you』の収録曲はもちろん、44年前には歌わなかった“さよならのないカーニバル”など、キャンディーズの曲を15曲も歌い切った。

伊藤蘭 『伊藤蘭 コンサート・ツアー 2021 ~Beside you & fun fun Candies!~ 野音Special!』 Sony Music Direct(2022)
今年7月には、サードアルバム『LEVEL 9.9』を発表した。作曲で奥田民生&トータス松本、亀田誠治、松本俊明、多保孝一、山川恵津子、IKEZO、安部純、佐藤準が、作詞で売野雅勇、森雪之丞、松井五郎、岩里祐穂、jam、いしわたり淳治が参加し、前2作を更新する豪華さが目を引く。伊藤のボーカルにオートチューンがかけられた(!)ネオシティポップな“Shibuya Sta. Drivin’ Night”(7シングル化を控えている)など、音楽的な幅広さは随一。“春になったら”のような、キャンディーズとの繋がりを想起させる曲も嬉しい。
『LEVEL 9.9』のリリース後は、デビュー50周年ツアー〈伊藤蘭 50th Anniversary Tour ~Started from Candies~〉が開催されたことも記憶に新しい。