妄想によって引き起こされた炎症は、耽美な痛みと共に至上の快楽で全身へと広がる。五者五様に〈歌心〉を抽出するニューEPに刻まれた、パラノイアックな愛の痕とは?
2022年5月、22年ぶりの再結成を発表し、2024年11月にはメジャー・デビュー作となるEP『PARADOXON DOLORIS』を発表したkein。長い眠りから覚めたバンドは、時間を取り戻すかのように精力的に活動している。前作からわずか半年でメジャー・セカンドEP『delusional inflammation』が完成したが、ここには「走り続けるバンドだからこその好循環やクリエイティヴィティーがある」と玲央は語る。
「前EPはライヴ映えするエネルギッシュな作品で、東名阪ツアーもいいライヴになったんです。そうすると、もっとこうしたいとか、いろんな欲が出てくるじゃないですか。ツアー最終日の打ち上げでも〈歌モノっぽい作品も出したいよね〉とかいろんな話をして。そこで僕から、曲作りのキーワードとして提案したのが〈抜け感〉や〈メジャー感〉だったんです」(玲央、ギター)。
ルーツにあたる2000年代のラウド・ロックを昇華した作品だった前作に対して、このEPはkeinの歌心が刻まれた作品となった。
「今回は曲作りにおいて守るべきルールがあるのがおもしろかった。玲央さんからのキーワードで僕が思い描いたのは、BUCK-TICKの“悪の華”とかLUNA SEAの“ROSIER”とか。そういう抜け感をイメージしましたね」(aie、ギター)
〈Delusional inflammation=妄想による炎症〉をコンセプトに、さまざまな愛やその歪み、妄想が描かれる今作。眞呼による歌詞は“斧と初恋”をはじめ、いつにも増して視覚的な表現として飛び込んでくる感覚だ。
「想像力を掻き立てるものにしたかったんです。歌メロにあまり言葉を詰め込んでいないぶん、ダイレクトになったのかもしれない」(眞呼、ヴォーカル)。
aieによる“幾何学模様”はkeinとしては初めてサビのメロディーをメジャー・キーで歌った、歌謡曲的な叙情性が冴える曲となった。
「サビのコード進行が結構変わる曲なので、メロディーラインをどう組んでいくか、どう聴かせていくかは試行錯誤しましたね」(眞呼)。
同じくaieによる“晴レノチアメ”は、パンキッシュな疾走感、サビでのアンセミックな高揚感が、彼の先ほど挙げたバンドたちを想起させる。
「aieさんがいちばん〈メジャー感〉を意識してくれてたのかなって思いましたね」(玲央)。
「締切も守るし、こう見えてちゃんとしてるんです。破天荒に見せてるだけで真面目(笑)」(aie)。
シンプルな曲でもバンドで構築していく間に、一筋縄では行かない色味やアイデアを折り重ねた深みのあるものになる。「それは各々が培ってきた経験値や、お互いへの尊重があるから」(玲央)というのが、今、この5人でkeinをやるおもしろさだろう。玲央作曲の“幻想”では、Sally(ドラムス)による重厚なビートがエモーションを増幅させるが、この曲では肝となる語りパートを玲央自身が歌っている。
「玲央さんからイメージは聞いていたんですけど、何せ初めてのことで、押韻するように歌詞を書いたものの、どう歌うかは掴めなかったんです。そこでお手本として玲央さんに歌ってもらったところ、すごく良かったので、もうこれでいきませんか?って」(眞呼)。
「〈熱狂を呼び起こす演説〉風に歌ったものが、そのまま音源になってます。今回取材をしていても、あまりみなさん、僕が歌ったと気付いてないんですけどね(笑)」(玲央)。
6分半にわたる攸紀(ベース)作曲の“波状”では、憂いにたゆたうような詩的なアンサンブルに乗せ、「もろくこぼれ落ちる、その儚さ」を眞呼は表現した。
「それぞれのメンバーが好き勝手やっているけど、ちゃんとメロディーや歌詞が頭に残る。そういう〈歌の強さ〉があるのがkeinであり、なかでも“波状”はいちばんkeinらしさが出た。長く音楽を続けてきた僕らだからこそ出来た曲で、その自負もある一曲なんです」(玲央)。
耽美な世界を表現しつつ、さらにバンド・アンサンブルを楽しむいまのkeinを7月からのツアーでも体感してほしい。
「僕らはいいライヴをやるだけ。セットリストも前回と変わると思うので、自由に楽しんでほしいですね」(玲央)。
keinの作品を一部紹介。
左から、2023年作『破戒と想像』(ベルウッド)、2024年のEP『PARADOXON DOLORIS』(キング)
関連作を紹介。
左から、deadmanの2024年作『Genealogie der Moral』(deadman)、lynch.の2025年作『GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN』(キング)
タワレコ インストアイベント開催のお知らせ
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