シンガーのクレモンティーヌが2024年1月23日(火)にビルボードライブ横浜、1月25日(木)にビルボードライブ大阪のステージに登場する。そのキャリアは35年にもおよぶが、出身地のフランスだけでなく、ここ日本でも活躍してきた経歴は非常に興味深い。特に渋谷系との関わりを掘り下げつつ、今回のビルボードライブ公演の見どころを紹介しよう。
デビューする前年の87年、彼女はバルセロナでレコーディングしていたサキソフォン奏者のジョニー・グリフィンと鍵盤奏者のベン・シドランを訪ねている。そこで評価を受け、後に発表されるグリフィンとの『Continent Bleu』(89年)、シドランとの『Spread Your Wings』(88年)をレコーディングした。そして、彼女の父の友人で当時CBSジャズのディレクターだったアンリ・ルノーがその歌声を気に入ったことから、そのままCBSと契約。88年にシングル“Absolument Jazz”でデビューを果たす。デビュー以降もケニー・ドリューと『Mes Nuits, Mes Jours』(90年)を制作するなど多忙な90年代を過ごした。
一方、その裏で進行していたのがOriginal Loveを手掛けたプロデューサー、井出靖による〈世界中に埋もれているCBSのアーティストたちを集めた新プロジェクト〉だ。彼はロンドンからパリ、アムステルダム、バルセロナ、ニューヨークをわたり歩くなかで、クレモンティーヌの音源に耳を留める。そして、田島貴男、小沢健二、高浪敬太郎、ゴンチチという渋谷系のレジェンドたちを誘って制作されたのが、92年の日本デビュー作『アン・プリヴェ~東京の休暇』だ。
この時期を彼女は「日本のアーティストたちにはとても感銘を受けました。恥ずかしがり屋の私に、彼らはとても紳士的に接してくれましたし、私にとって素敵な存在でした。高浪慶太郎さんはとても親切で、ゴンチチのお二人は面白くてレコーディングの間じゅう笑っていた記憶があります」とインタビューにて振り返っている。
色々なカルチャーが溶け合った〈渋谷系〉というカテゴリをひと言で表現するのは非常に難しい。しかし、『アン・プリヴェ~東京の休暇』で聴けるアシッドジャズの要素などがイギリスに由来し、クレモンティーヌの囁くようなウィスパーボイスがフレンチポップスの要素として強いイメージを持っていたのは確かであり、それらは渋谷系的と言うほかない。。井出によれば『アン・プリヴェ~東京の休暇』で、自身のコンセプトが特に反映された楽曲は“サントロペで”だという。4ビートのベースに、その半分のフィールによる打ち込みビート、オルガンにビブラフォン、小粋なトランペットとクレモンティーヌの歌唱で構成され、今聴くと先ほどの英仏の要素がミックスされた内容であることがわかる。
セロニアス・モンクやアート・ブレイキーらのバンドで演奏してきたジョニー・グリフィンとのアルバムで、渋谷系とは正反対の複雑性を持つジョン・コルトレーン“Giant Steps”を歌っている彼女がこのシーンに現れた影響は大きい。『アン・プリヴェ~東京の休暇』の発表から約半年後、さらに過激なウィスパー表現で一世を風靡したカヒミ・カリィが、小山田圭吾のプロデュースによるファーストシングル“Mike Alway’s Diary”をリリースしている。同じ時期に登場した、ふたりの〈ささやき姫〉。しかし、そのバックボーンは異なっていたはずだ。
その後もクレモンティーヌは型に縛られない音楽活動を展開する。数々のアニメソングをフランス語でカバーしたアルバム『アニメンティーヌ~ボッサ・ドゥ・アニメ』(2010年)のヒットも分岐点となり、多くの日本語曲をカバー。歌う楽曲の幅も増えていく。初めてセルフプロデュースを務めた最新作『ケル・タン・フェッティル?~お天気はいかがですか?』(2021年)では、故郷・フランス産のあまり知られていない楽曲を取り上げている。
つまり、ビルボードライブ公演で注目すべきは彼女の音楽性の広さ、そして楽曲の多様さだろう。だからといって音楽が煩雑になることはない。なぜならクレモンティーヌはジャズやフレンチポップス、J-POP、ボサノヴァなど、どんな曲調でもその歌声で自分の色に染めることができるからだ。きっと日本人の誰もが知っている曲を交えつつ、チルで終演後に多幸感が残るようなパフォーマンスを見せてくれるだろう。
LIVE INFORMATION
J:COM presents
クレモンティーヌ Special Live
2024年1月23日(火)ビルボードライブ横浜
1stステージ
開場/開演:17:00/18:00
2ndステージ
開場/開演:20:00/21:00
http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=14541&shop=4
2023年1月25日(木)ビルボードライブ大阪
1stステージ
開場/開演:17:00/18:00
2ndステージ
開場/開演:20:00/21:00
http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=14542&shop=2
サービスエリア/カジュアルエリア:8,500円/8,000円(1ドリンク付)
※本公演はClub BBL会員、および一般販売をWEB受付のみ実施いたします
※法人会員は電話にてご予約承ります
■メンバー
クレモンティーヌ:ボーカル
三浦拓也(DEPAPEPE):ギター
notch:パーカッション
藤谷一郎:ベース