クレモンティーヌから届いた爽やかで晴れやかな初夏のご挨拶
「いまも新型コロナウィルスが及ぼす重さにみんなが耐えかねている。だからちょっと軽めで明るめな音楽が必要なんじゃないかって。私自身も含めてね」。
と、クレモンティーヌが語る新作『Quel temps fait-il à Paris?(お天気はいかがですか?)』は、久しぶりに嗅ぐ萌ゆる新緑の香りにも似て、気分を上天気にしてくれる。そこには瑞々しさと懐かしさ、軽やかと優雅さが甘く溶け合う人懐っこい歌や演奏が並んでいて、このところ何かと忘れがちだったいろんな大事なことを思い出させてくれたりもするのだ。
CLEMENTINE 『ケル・タン・フェッティル?~お天気はいかがですか?』 ソニー(2021)
「3年ほど前に高速道路を走っていたとき、ラジオでジャック・タチの特集をやっていて、“お天気はいかがですか?”(映画『ぼくの伯父さんの休暇』のテーマ曲)を聴き、歌ってみたい!ってふと思ったの。そこで彼にオマージュを捧げるアルバムを作ろうと思い立ったんだけど、タチ色が濃くなりすぎるのもどうかと思い直し、アレに近い軽快な曲を他に探してみようと。ちょっとしたシャンソン図鑑になったと思う」
「セピア色の写真の世界観を描いてみようと思った」と語る彼女。知る人ぞ知る曲、ということを念頭に置きながら行われたカヴァー曲調査は、1897年発表のミュージカル曲から、60年代に作られた洗剤のCMソングにセルジュ・ゲンズブール作の隠れた名曲まで広範囲に及ぶ結果となったが、どことなく愉快な雰囲気が漂う曲が多めなのが特徴的。
「一世紀前の大昔の風景から50年前の風景まで、それぞれの写真を1枚ずつ撮り直した、って感覚かな。各々独自の世界が描かれる歌詞を重点的に選んでみたんだけど、そういう作業はこれまでやったことがなかったの。ナンセンスで難解な歌詞も多いし、時代背景もそれぞれ異なるから1曲ごと違う人に成りきって歌う必要があって、女優のように演じなければならなかった。崩さなかったのは、どんなタイプの曲でも私の原点であるラテン・ジャズのサウンドを中心にいくということ。それからあまり知られていない曲だから、自分色にアレンジしやすかったってことも大きかったかな」
ノスタルジックな空気で染め上げるだけでなく、ダブっぽい音処理を加えて色合いをガラリ変えるなどの遊び心が随所に盛り込まれたせいで、空気の通りがやたらと良くなったこの記念すべき初セルフ・プロデュース作。クレモンティーヌ独自の持ち味に加えて、新しいリスナーの耳をキャッチできる訴求力も備えた高機能な作品になった。ちょうど彼女の名を日本全国に広めた旧譜7作品も復刻されることだし(名作『アン・プリヴェ~東京の休暇』が初アナログ化される嬉しい贈り物も!)、この夏は心晴れの日が続きそう。