©Francis Lai private collection

フランシス・レイ追悼公演
初日東京公演には映画監督クロード・ルルーシュも来日

 フランシス・レイの音楽は、すこし、かなしい。すこし、にはいろいろなニュアンスがある。かなしさから何かを引き算したり、何かを足し算したり、せつなさやよろこびがまじったり。でも、ひとをつきはなさない。すこし、は、かなしい、のまわりに、やわらかくあたたくしてくれるものを含んでいる。

 2018年、フランシス・レイ(以下、F.L.)が亡くなったとき、このひと、このひとの音楽は遠かった。翌2019年、おない齢のミシェル・ルグランが亡くなったときにも、認識しているのは事実だけ、だった。それが、今年、F.L.の公演がおこなわれると知り、この原稿を書く段になって、いくつか聴いていると、からだのなかが、知っている、よく知っている、馴染んでいた音楽でいっぱいになった。そしておもう。こういう、あるときは大切だった音楽を、いつのまにか忘れていた、と。忘れるのはしょうがない。しょうがないけれど、それをきいて、なじんで、大切におもっていたこと、は忘れないようにしたい。そのときのじぶんを否定したりしないように、したい。

 F.L.、といわれると、アヌーク・エイメとジャン=ルイ・トランティニャンの横顔と〈ダバダバダ〉が、真っ白な雪山を滑り降りてくるスキーヤーと3拍子が、ライアン・オニールとアリ・マッグローの寄り添いとピアノの6度のうごき――、が、あたまのなか、ごく自然にながれる。たとえ音楽がひびいた映画をみていなくても、みていないどころかタイトルさえ知らなかったとしても、これらのメロディは耳にしたことがある。〈きいたことがある〉。それほどよく知られていたし、ラジオやTVから、ながれていた。1960年代半ばから70年代前半の記憶があるなら、との限定がつくけれど。

 かつて、いまよりずっと洋画の上映がひろくおこなわれていた。ミニシアターもなかった。ポスターが街路や駅に貼られ、誰もが、なんとなく目にした。ラジオで音楽がかかり、「映画『××』の音楽でした」とアナウンスがあると、ああ、あの、とぼんやり一致する。音楽が気にいったなら、映画をみたくなる。フランスやイタリアの映画も、ごくふつうにハリウッドの、この列島の映画とならんでいた。あ、うえに挙げた映画は「男と女」(1966)、「白い恋人たち」(1968)、「ある愛の詩」(1970)デスね。

 役者と映画、音楽とタイトルがつよく結びついているものもいくつか。イヴ・モンタンとアニー・ジラルドの「パリのめぐり逢い」(1967)。チャールズ・ブロンソンとマルレーヌ・ジョベールが共演する「雨の訪問者」(1969)。ナタリー・ドロンとルノー・ヴェルレーの「個人教授」(1968)ではドラム・セットで3拍子をきざむ。

 世のなかにはだんだんロックが広がってきていた。でも、映画のなかでひびく音楽は、まだそれほどでもなかった。ヨーロッパの映画はさらに。アメリカではなく、ヨーロッパというものへのあこがれが醸成されるのは、この時代の映画によって、ではなかったか。とくにフランス映画のラヴ・ストーリーに。

 F.L.の音楽は、親しみやすい。おぼえやすい。2小節の音のうごきをそのままくりかえす。2度や3度移行してくりかえす。あまり音程をひろくとらず、口を大きくあけずとも、口ずさめるくらいの音域で。

 メロディを生かして、オーケストラは控えめ。それなのに、低い音の金管とか、弦楽のゆったりとしたうごきとか、チェンバロやシンセサイザー、マリンバがメロディにかさなってとか、ああ、ほんとにちょっとした工夫が、耳にはたらきかけてきていたんだな、とわかる。

 “白い恋人たち”、コーラスがひびくところをききかえすと、あ、そうか、「愛と哀しみのボレロ」のエンディング、ラヴェルの“ボレロ”にわざわざ女声・男声の声をかさねたのが、わかるような気がしたり。

 そうだ、こんなことも加えておこう。

 パリと東京を行き来しながら音楽活動をつづける歌手のTomuyaは、この10月におこなうライヴの第1部で、F.L.を集中的にとりあげる。本人からの案内から引こう――「映画音楽であまりにも有名な、フランシスは私にとっては、あまり縁のない存在でしたが、東日本大震災のあと、彼が私に曲を書いてくれた事から、意識せざるを得ない大きな存在になりました。」

 ピアノとともにうたうシンプルなひびきで、ほかでは聴くことができない楽曲が披露される予定で、また、ルネ・クレマンによる映画「狼は天使の匂い」(1971)のメロディも、日本語の詞でうたわれる、と。

 からだのなかにのこっているF.L.の音楽をよみがえらせるのもいい。若いひとが、かつてこうした音楽がしみこんでいたんだと知ってもらうのも、いい。豪華なゲストがお目当てにして、そこからF.L.の音楽を知ってもらってもいいではないか。亡くなってすぐ、ではなく、すこし経ってからゆえの追悼だからこそ、感じられることがきっとある。

 


LIVE INFORMATION
Francis Lai Orchestra Japan Tour 2023「Francis Lai Story」(フランシス・レイ オーケストラ ジャパン ツアー2023「フランシス・レイ ストーリー」)

2023年10月16日(月)東京・東京国際フォーラム ホールC
開演:18:00

2023年10月17日(火)仙台・東京エレクトロンホール宮城
開演:18:30

2023年10月20日(金)名古屋・日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
開演:18:30

2023年10月21日(土)大阪・サンケイホールブリーゼ
開演:17:00

2023年10月22日(日)大阪・サンケイホールブリーゼ
開演:15:00

演奏:Francis Lai Orchestra
田ノ岡三郎(アコーディオン)/湯浅佳代子(トロンボーン)/梶原圭恵(ヴァイオリン)/柴貴子(ヴィオラ)/橋本歩(チェロ)/藤田乙比古(ホルン)
東京公演特別ゲスト:クロード・ルルーシュ
ゲスト・シンガー:クレモンティーヌ/レイナ・キタダ/アンヌ・シラ/ロレーヌ・ドゥヴィエンヌ/キャティア・プラシェ
https://sunrisetokyo.com/detail/22854/

TOMUYA’S NIGHT ~フランシス・レイ特集~
2023年10月19日(木)東京・ZIMAGINE
開場/開演:19:00/19:30
出演:TOMUYA(ヴォーカル)/中谷幹人(ピアノ)
https://peatix.com/event/3666667