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ポーランド・ジャズの旗手的好漢ベーシスト、パンデミック後に広がった活動や音楽観を語る

 左右の指の背に、それぞれ〈PUNK〉と〈JAZZ〉という文字を彫っている。それは〈自分自身であれ、自分の道を行けという思想〉と、〈自由を自分の中に見つけるという精神〉を意味するそう。かような制作指針を実直に取り、ワールドワイドに活動をしているポーランド人ジャズ・ベーシストがヴォイテク・マゾレフスキだ。パンデミックを間に挟み、彼は自ら歌いギターを弾くプロジェクトであるYugenを新たに始め、もちろんずっと活動の柱にあるヴォイテク・マゾレフスキ・クインテットの活動も堂々再開した。4年ぶりに来日した、親日家の彼に話を聞いた。

 「パンデミックに入り家にいることを強いられ、本当にいろいろなことを考えたよね。それで家でギターを弾くようにもなって、すうっと心が開いていく感覚を覚えた。パンデミックに入って感じていた焦燥を乗り越え、精神的に悟ったような感じを得たんだ」

 それが、〈彼の考える流動性にも満ちたポップ・ミュージック・プロジェクト〉と言えなくもないYugenとしての活動に落とし込まれた。ちなみに、その名前は日本語の幽玄から取られた。

 「自分にとって新しい活動を始めるときに、その名前としてとても好きな日本語が思い浮かんだんだ。2作目の『Yugen 2 Jestem』にはよりエネルギーがある。『Yugen』を出してツアーをした後に録ったので、観客から得た力が2作目には入っている」

WOJTEK MAZOLEWSKI QUINTET 『Spirit to All』 Whirlwind(2023)

 また、ヴォイテク・マゾレフスキ・クインテットの新作『Spirit To All』もいい仕上がりを見せる。そこでは2管編成の王道クインテット編成のもと、スピリチュアルで雄弁なジャズが展開される。そして、その奥にはエキゾティックと言える情緒も息づき、それはスラブ民族たる属性が活かされていると感じさせよう。

 「そういう言葉をもらえるのはとてもうれしい。これまでそういうことについてはあまり語る機会がなかったけど、僕はポーランド人であり、ありのままの自分を表現しようとしているから」

 そんな『Spirit To All』を聴くと、必然的にポーランドのジャズの担い手の水準の高さにも気付かされる。さらには、マゾレフスキの活動を見上げて若い人たちもどんどんジャズの道に進むのではないかと想起もしてしまう。

 「そうだったら、夢が叶ったという感じだな。いつも自分が誰かにインスピレーションを与えられたらいいなと思っているんだ。僕の活動が誰かの創造を後押しできるのなら本当にうれしい」