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テクニカルで魅惑的な3人のボーカル

曲としてサウンドがただおもしろいというだけでは、ポップソングとして、もちろん画竜点睛を欠く。3人がボーカリストとして持っている表現力がきわめて優れており、それに感嘆するからこそ、“GOAT”はとんでもない曲になっているのだ。全体的に低い声で唸り、吐き出すような、聴き手を威圧する攻撃性と力強さで押し切るが、力技ではまったくなく、徹底してテクニカルである。

先に書いたことだが、ビートやサウンドと同様に、3人がラップするバースもそれぞれに異なったノリで、反復感が一切ない。たとえば、平野がセカンドバースで披露する3連符のラップは、2010年代にトラップのメインストリーム化とミーゴスの活躍などで広まったもの。そこだけではなく、エミネムなどのフロウを思わせるパートもあり、あらゆるラップのフロウやノリが試されている。洋邦のラップの技法をかなり研究したのではないだろうか。

特に1分18秒から始まる岸のパフォーマンスが衝撃的で、まるでジョーカーを憑依させて演じているような、シアトリカルなクセの強い発声が曲のアクセントになっている。終盤、平野が〈間違いじゃないこれが俺のAnswer〉と締めるところで、〈Answer〉の最後の〈あー〉という部分をざらっと掠れた声で引き伸ばす部分も、非常にかっこいい。

Spotifyのインタビューでは「レコーディングに苦戦した」「今まで使ったことない声帯を使った」(平野)と言っていたが、主役である3人の声――ボーカル、歌、ラップを聴かせることへのこだわり、それによる表現は、デビュー曲にして早くも極まってしまっているとすら感じる。

ちなみに〈GOAT〉とは、ヒップホップカルチャーで多用される言葉で、〈Greatest Of All Time〉の頭文字、つまり〈史上最高〉ということ。「せっかくだったら日本のアーティストの方々があまり最近やってないような、ゴリゴリのヒップホップというジャンル、そしてそのカルチャーを自分たちNumber_iなりに表現したいよね」(神宮寺)という姿勢で挑んだことによって、〈ゴリゴリのヒップホップ〉でありながらも世界的に似たものがない、唯一無二の曲が生まれた。

 

2024年はNumber_iの年になるかもしれない

〈クールぶって振る舞った/窮屈なスーツがバブー/あれもしたいしこれもしたいが, Follow the rules〉〈何回だって立ち上がって、こんがらがって/君の前で夢叶える Me〉と歌われているように、“GOAT”とは、3人が窮屈な過去や狭隘なルールの束縛、しがらみからの脱却と反撃、リスタートを宣言した曲だ。

決してメロディアスではなく(コーラス、つまりサビの部分もメロディはほとんどない)、曲の長さは2分37秒しかないのに、怒涛の展開と千変万化の歌唱表現で魅せ、1秒たりとも聴き飽きることがない、圧倒的な“GOAT”。昨日1月10日、Billboard JAPANのJAPAN Hot 100で1位オリコン週間デジタルシングル(単曲)ランキングで1位をそれぞれ獲得し、おそるべきスタートダッシュを切った3人の快進撃を見ていると、2024年はNumber_iの年になるのかもしれない、なんて思ってしまうのだ。

 


RELEASE INFORMATION

Number_i 『GOAT』 TOBE MUSIC(2024)

リリース日:2024年1月1日
配信リンク:https://TOBE-MUSIC.lnk.to/GOAT

TRACKLIST
1. GOAT