年明けに届いた衝撃の曲

男性のダンス&ボーカルグループやガールズグループのシーンには、音楽的に尖りすぎていて、新しすぎて、ファン層以外のリスナーにも〈これはすごい曲だ〉と突き刺さり、結果としてファンダムを大きく拡張してしまう、という曲がごくまれに存在する。たとえば、近年の例では2022年12月、NewJeansが様々な聴き手に衝撃を与えた“Ditto”が挙げられるが、2024年の幕開けと同時に届けられ、大きな話題になっているNumber_iの“GOAT”は、まさにその最新の形だと言えるだろう。

Number_i 『GOAT』 TOBE MUSIC(2024)

 

海外への意志と覚悟、楽曲制作に対する強い執念

ファンには説明不要だろうが、Number_iとは平野紫耀、神宮寺勇太、岸優太の3人からなるグループで、滝沢秀明が代表を務める事務所のTOBEに所属している。広く知られているとおり、2023年5月にKing & Princeを脱退した3人が、新たに結成したのがNumber_iだ。

脱退の発表に際して、〈グループの活動のことから個人の人生について、時間をかけて本音で話し合った結果、大切にしていることは同じでも、海外での活動をはじめとして、それぞれの目指したい方向が異なることもわかりました〉とコメントされていたように、メンバー間やグループとしての方向性のちがいが、King & Prince脱退の理由のひとつだった。

そのため、Number_iは、3人がKing & Princeとは異なる方向性を模索して、上にあるように海外にも活動領域を広げるなど、新たな音楽や表現を提示するためのグループなのだろう。神宮寺は「今後海外に行ったりして、いろんなことを僕たちも吸収したいと思っているし、大きいことを言うと、ライブとかも向こうでぜひやりたいなと思うので、Number_iのファンのみなさんと一緒に海外という大きい目標に挑戦していけたらなと思っています」と一問一答で語っており、そのゴールは明確だ。

滝沢もリリース時の取材で、「今までアイドル的な存在で活動していたが、デビュー曲に関しては、グローバルに挑戦できるような楽曲にしたいという本人たちの意向を反映させています」「今回は日本語詞で日本代表としてチャレンジしているというメッセージを海外に届けたいという狙いがあります」「今まで応援してきたファンの方が聴いたら、けっこう衝撃的な、とがってる楽曲になると思うんですが、〈自分たちのこれからを皆さんに示す〉という意味ではNumber_iの覚悟を乗せた楽曲になるかと思います」と明言しているが、それにしても、その一発目がこの“GOAT”とは、〈お年玉〉にしては驚くべき、鮮烈な登場である。

上記の一問一答で岸は、「魂と時間を込めた1曲なので。テロップ1つから全てすみずみまでこだわった」と言う。制作についての3人の回答を要約すると、“GOAT”は、当初作曲家が作った原曲から大きく変わっているようだ。作曲家から渡されたものにただ歌入れをするのではなくて、メンバーやスタッフで〈Number_iの1曲目をどんな曲にするか〉を話し合い、アイデアを出し合い、ボーカルのパートを誰が担うのかの検証や精査をし、スタジオにこもってレコーディングに時間をかけ、満足や納得のいく形に仕上げたという。制作には丸2か月もかけたとのことで、この曲に対する思いや完成形への執念はかなり強い。

 

凶暴なサウンドと自由なリズムのアプローチ

作詞と作編曲は、FIVE NEW OLDのベーシストであるSHUN、DATSの中心人物で元yahyelのMONJOE、ODD Foot WorksのラッパーであるPecoriの3人。J-POPの専業作曲家や、K-POPによくある海外の複数のソングライターに発注するような形式ではなく、国内のバンドシーンのエッジで活躍する3人の共同作業によって生み出されたということがまず興味深く、メンバーがそれを入念にブラッシュアップしていったという過程を含めてドラマがある。

まずは、藤井 風や宇多田ヒカルの曲のプロデュースで日本でも知られているA. G. クックの仕事や、彼が影響を与えたジャンルであるハイパーポップのサウンドのような、非常にノイジーな音を聴かせる電子音と細かいボイスサンプルが、イントロから狂気的なムードを醸し出している。さらに、インダストリアルで暴力的な低音をうならせるワブルベース、乱れ打たれるビートなどが現れ、とにかく凶暴で暴力的なサウンドが耳を刺す。

かつてのダブステップやブロステップなどを思わせるサウンドだが、そういったダンスミュージックの要素とヒップホップ/R&B、ハイパーポップなどのエレメントが複雑に絡まり合っており、単なるヒップホップナンバーというわけではなくて、ジャンル分け不能な、聴いたことのない曲になっている。一般的には反復するビートが基調で、そのうえでラップをどう聴かせるかということが重要なヒップホップとちがって、“GOAT”ではビートもラップもめくるめく展開を見せるのが肝だ。

表面的なサウンドの意匠はまったく異なるが、リズムや電子音のリフのパターンと旋律は、ティンバランドがプロデュースしたミッシー・エリオットのヒップホップクラシック“Get Ur Freak On”を思わせるもの。また、テンポは一定だが、キックやスネアドラムの連打、ボーカルのパーカッシブなキレの刻みなど、歌を含めて打楽器的な音が複数それぞれに走っており、リズムが伸び縮みしているような独自の自由さが感じられる点も、実に聴き応えがある。

そして、Mikikiでも執筆してもらっている書き手の照沼健太と伏見瞬によるYouTubeチャンネル〈てけしゅん音楽情報〉の解説動画にあるように、〈GOAT, GOAT, GOAT, GOAT, GOAT〉と繰り返す部分では、ジャージークラブ特有のキックのパターンをボーカルで表現する、という異色のアプローチが取られている。ほかの誰も思いつかないような発想の転換で、たしかに世界初の試みかもしれない。