90年代後半から2010年代にかけて日本の音楽シーンを牽引し、2018年に芸能界を引退した安室奈美恵。数多くのヒット曲を発表し、まさにJ-POPを象徴する存在だった彼女だが、各音楽サブスクリプション/ストリーミングサービスや公式YouTubeチャンネルでは作品の多くが突如鑑賞できなくなった。いくつかのコラボレーションソングや客演で参加した曲などは聴けるものの、2023年11月16日頃からこの状況になったようで、安室奈美恵が発表した主要な作品のほとんどを聴くことができないのが現状だ。ファンの多くが不安を抱え、ニュースとして取り上げられる一方、その波紋は海外にも広がっている。

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オンラインで聴くことができなくなったことで、安室奈美恵のCDやDVD、Blu-rayといったフィジカル作品に今一度注目が集まっており、新たに購入する者、買い直すファンが増えているようだ。

そこで今回は、安室奈美恵の必聴アルバムやライブ作品を改めて紹介しよう。なお、作品によってはタワーレコード オンラインでの一時的な品切れや取り扱いが終了しているものもあるので、在庫はサイトや各店舗で確認してほしい。 *Mikiki編集部


 

『Finally』(2017年)

安室奈美恵 『Finally』 Dimension Point(2017)

まずは、2017年にリリースされ、200万枚以上のセールスを記録したアルバム『Finally』。SUPER MONKEY’S時代のナンバーや小室哲哉とのタッグで一世を風靡した大ヒット曲の数々、洋楽好きも唸らせたR&Bチューンなど、安室奈美恵のキャリアを3枚のディスクでもって振り返るオールタイムベストで、全52曲中39曲は本作のため新たに録音されたバージョンで収録された。付属のDVD/Blu-rayは、2017年に放送された「第68回 NHK紅白歌合戦」に特別枠で出場した際に歌唱した“Hero”や小室との16年ぶりのタッグが実現した“How do you feel now?”などのミュージックビデオが収められている。当然ベストセラーを記録した本作は、彼女のキャリア全体を一望するための決定盤にして、最後の名唱を味わえる名盤だと言えるだろう。ファンに別れを告げつつ、次の一歩を踏み出す前向きさも見せた新曲6曲も必聴だ。 *Mikiki編集部

 

「namie amuro Final Tour 2018 ~Finally~」(2018年)

安室奈美恵 『namie amuro Final Tour 2018 ~Finally~』 stella88(2018)

引退イヤーの2018年に登場した映像作品「namie amuro Final Tour 2018 ~Finally~」は、ビジュアルで安室奈美恵の姿を堪能できるライブ作品。東京ドーム公演と、故郷である沖縄の宜野湾海浜公園野外特設会場で開催されたデビュー25周年記念のコンサートの模様が収められている。“TRY ME ~私を信じて~”“CAN YOU CELEBRATE?”“Body Feels EXIT”“SWEET 19 BLUES”など、代表曲の数々が披露された圧巻のパフォーマンスは、まさしく〈必見〉の一言。満面の笑顔が印象的なジャケットは、ずっと眺めていたい感動的な仕上がりだ。 *Mikiki編集部

『SWEET 19 BLUES』 (1996年)

安室奈美恵 『SWEET 19 BLUES』 avex trax(1996)

90年代や平成という時代を代表するマスターピース。時をさかのぼること95年、J-POPがピークに達しようとした季節に安室奈美恵は“太陽のSEASON”で単独名義でのデビューを果たした。同年のサードシングル“Body Feels EXIT”が初の小室哲哉プロデュース作品で、“Chase the Chance”“Don’t wanna cry”“You’re my sunshine”とミリオンヒットを連発するなかで本作はリリースされる。同時代のジャネット・ジャクソンやメアリー・J. ブライジ、TLCなどと共振しつつも、小室らしいユーロビートからニュージャックスウィング、ヒップホップソウル、R&Bバラードまでサウンドは多彩で、それらをインタールードでコンセプチュアルにまとめあげている。白眉はリカットされた“SWEET 19 BLUES”。〈19歳の安室奈美恵〉を刻んだ名曲だ。アルバムは300万枚以上を売り上げ、安室奈美恵は〈アムラー〉というフォロワーやファンを大量に生み出し、一気に現象と化した。 *天野

 

『Concentration 20』(1997年)

安室奈美恵 『Concentration 20』 avex trax(1997)

あえて先に触れておくと、本作の最も大きなトピックは〈“CAN YOU CELEBRATE?”が収録されたアルバム〉であるということ。TKブーム絶頂期、フジテレビの月9ドラマ主題歌、そして90年代の幸福で異常なカオスが一点に集中して生まれた爆発的ヒット。そんなJ-POPと同義語とも言える“CAN YOU CELEBRATE?”が収録されたオリジナルアルバムは、かなりエッジーな作品だ。のちにプロデュースを務めた小室哲哉自身も安室に「謝りたい」と明かしているほど、小室自身の当時の趣味趣向が色濃く反映されている。ハードなデジタルシンセのイントロ、メタリックなギターで構成されたアウトロに挟まれたプログレ曲“B w/z you”、〈安室奈美恵にレゲエを歌わせる〉という当時としてはかなり斬新なアプローチを実践した“Me love peace!!”、ループするトラックの上を初々しいラップが駆け抜ける”Storm”など、ヒットシングルを入り口に安室奈美恵の未知なる一面をプレゼンテーションしたアルバムだ。 *小田

 

『STYLE』(2003年)

安室奈美恵 『STYLE』 avex trax(2003)

ビートルズにおけるジョージ・マーティン、ジャネット・ジャクソンにおけるジャム&ルイスのようにアーティストとプロデューサーが作り上げる黄金期。安室奈美恵におけるそれは間違いなく小室哲哉と活動していた時期だったわけだが、この『STYLE』は小室から離れ、安室奈美恵として独り立ちした初作として第2のデビューアルバムとも位置付けることができる。本作のリリース前には、VERBAL(m-flo)や今井了介らをメインに安室をボーカルに据えたクリエイタープロジェクト〈SUITE CHIC〉としてアルバム『WHEN POP HITS THE FAN』(2003年)を発表。R&B〜ヒップホップ色を全面に打ち出した同作からの流れが、以降の安室の本流となっていく。T.Kuraとmichicoによるオリエンタルなダンスチューン“Namie’s Style”、ニュージャックスウィングの生みの親の1人でもあるテディー・ライリーのトラックメイクが光る“Indy Lady feat. ZEEBRA”、マドンナからTLCまで手がけるダラス・オースティンと再び手合わせし、その後のK-POPにおけるガールクラッシュとも共鳴する“Put ’Em Up”と冒頭3曲だけでも新章が成功へ向かっていることを確信できる。アニメ「犬夜叉」のEDテーマだった“Come”(アルバムには映画「犬夜叉 天下覇道の剣」主題歌“Four Seasons”も収録)を聴くと幼い頃の懐かしい記憶も呼び起こされるが、エレクトロな音色とミニマムにまとめられたニューウェーブなアレンジは当時かなり異彩だったはず。 *小田

『Queen of Hip-Pop』(2005年)

安室奈美恵 『Queen of Hip-Pop』 avex trax(2005)

大胆なタイトルに負けず劣らず、90年代の安室奈美恵のイメージを完全に過去のものにし、前作での方向転換の試み=同時代的なR&Bやヒップホップの昇華を早くも完成させたJ-R&Bの名盤。ミッシー・エリオット&ティンバランドによる“Get Ur Freak On”(2001年)などを意識したと思しきオリエンタルR&B“WANT ME, WANT ME”は、michicoとSUGI-Vが制作。強烈に扇情的で性的な歌詞も難なく歌いこなしてしまえる姿勢が力強い。T.Kura & michico夫妻が制作した“GIRL TALK”は、2000年代のR&Bらしいバウンシーなプロダクションと切ないメロディが見事なのはもちろん、シスターフッド的な女性どうしの友情を歌っている点が重要。そして特筆すべきは、のちに三浦大知などともタッグを組むことになるNao’ymtが6曲を手がけていること。表題曲や“WoWa”など、安室奈美恵の新機軸を提示した。 *天野

 

『PLAY』(2007年)

安室奈美恵 『PLAY』 avex trax(2007)

ダンスやビジュアル表現をよりハードにし、磨きをかける一方、音楽的には制作陣をNao’ymtとT.Kura & michicoという2組のプロデューサーに絞り、前作の路線を成熟させ、さらに発展させた、これまた名盤と言っていい『PLAY』。軽快なホーンセクションがタイトなグルーヴをうねらせる、めくるめく“CAN’T SLEEP, CAN’T EAT, I’M SICK”や“FUNKY TOWN”は、実に強烈だ。中でも悲しみに暮れる人を優しく慰め、勇気づけるエンパワーソング“Baby Don’t Cry”は、永遠のクラシックと呼びたい。挑発的なタイトルや鞭を手にした攻撃的なジャケットを含め、男たちに媚びず、時には弄びさえする、独立した女性上位・女性優位のイメージが強く打ち出されている。そういった点を含めて、この頃の安室奈美恵は2010年代以降のフィメールポップやガールクラッシュの価値観・態度を先取りしていたと改めて思った。 *天野

 

『BEST FICTION』(2008年)

安室奈美恵 『BEST FICTION』 avex trax(2008)

小室哲哉のプロデュースから独立したあと、新たな安室奈美恵像を音楽の面でも姿勢の面でも確立した2002~2008年。その充実した歩みをシングルから辿ることができるベスト盤(“Come”“the SPEED STAR”“Violet Sauce”“人魚”という両A面シングルの一方の曲は未収録)。聴きどころは、オリジナルアルバムに収録されなかった『60s 70s 80s』(2008年)からの3曲。ヴィダルサスーンのCMとのタイアップで、〈リメイク〉をテーマに60~80年代の各ディケイドにおける象徴的な曲を再構築した、日本では珍しい大ネタづかいの作品だ。モータウンを代表するザ・スプリームスの名曲“Baby Love”(64年)を引いた“NEW LOOK”が印象的だが、アレサ・フランクリンの同名曲(71年)をモダンなR&Bに転化させた“ROCK STEADY”、アイリーン・キャラ“Flashdance... What A Feeling”(83年)のノスタルジックなダンスポップをセクシーなEDMに再解釈した“WHAT A FEELING”と、いずれも歴史や先達へのリスペクトとともに〈私はこうだ〉という力強い主張が歌とプロダクションから感じられる佳曲である。Nao’ymt作の“Do Me More”、今井了介とUSK TRAK制作の“Sexy Girl”という最初と最後に置かれた新曲は、その後の2010年代における方向性を示唆している。 *天野

『PAST < FUTURE』(2009年)

安室奈美恵 『PAST < FUTURE』 avex trax(2009)

ベストアルバムブームにも乗る形で大ヒットした『BEST FICTION』で、独り立ちした自らの軌跡を一旦まとめた安室奈美恵。本作はそんなベスト盤までの自分を破り捨て、新たなクリエイティビティーを伴って突き進む気迫がアートワークからも伝わってくる。景気のいいレトロでヒップなオープナー“FAST CAR”など、明確にR&Bやヒップホップを打ち出すトラックメイクは少し影を潜め、むしろそれらは前提条件のもと〈安室奈美恵としてのポップス〉としての構築美が際立つ。Nao’ymtが手がけた“Dr.”と“Defend Love”あたりのクラブのエッセンスと大胆なリズムチェンジを内包した楽曲も新機軸として機能し、“LOVE GAME”ではDOUBLEを作詞家として起用、当時日本を含むアジア圏で引っ張りだこだったプロデューサー集団Phrased Differentlyによるエスニックなビートが安室のボーカルとマッチした“Bad Habit”と、貪欲なまでにこれまで未開拓だった領域に足を進めていく。ちなみに、安室はMVやステージ演出をはじめビジュアル面のプロデュースも優れていたが、そうした聴覚と視覚を同時に刺激する仕掛けが本作にも仕込まれている。 *小田

 

『_genic』(2015年)

安室奈美恵 『_genic』 Dimension Point(2015)

『_genic』は、〈リバイバル〉をテーマにした12作目。コンセプトを重視して既存曲を収録せず、全曲新曲で統一された。80~90年代のR&Bやダンスミュージックの意匠を纏いつつも懐古色は皆無で、2000年代末から取り組んでいたEDMのサウンドを融合させ、ノスタルジアと先鋭性のバランスが取られている。またNao’ymtやT.Kuraといった常連プロデューサーは不在で、海外の音楽家との制作が中心になっているのも特徴。特筆すべきは“B Who I Want 2 B feat. HATSUNE MIKU”だ。初音ミクとの意表を突いたコラボも話題になったが、この曲は2021年に急逝したソフィーが制作していることが重要。彼女がポップフィールドで広く知られる前、ハイパーポップはまだ存在せず、その影響がメインストリームに表れる以前の起用は、かなり先駆的だった。デヴィッド・ゲッタとの共演曲“What I Did For Love”もスペシャルトラックとして収録。ラストオリジナルアルバムになったが、最後まで最先端でいた安室奈美恵というアーティストや彼女の姿勢を考えるうえでとても重要な作品である。本音を言うと、この先も見たかった。

以上、フィジカルでいま聴きたい/見たい安室奈美恵の作品を紹介した。もちろん現役時代、26年にわたってJ-POPの頂点に君臨してきた彼女については、ディスコグラフィの全作が重要作だと言っても言い過ぎではない。ここで紹介しなかったオリジナルアルバムやベストアルバム、映像作品も、この機会にぜひ手に入れてほしい。安室奈美恵のタワーレコード オンラインのページはこちら。 *天野