3人きりの豊潤なバンド・アンサンブルと、リアルとヴァーチャルの間を行き来する歌で、すべての人が素でいられる空間を
言ってみれば、〈歌ものロック〉の王道──〈歌〉を伝えるために、よそ見をせず全力疾走する3ピース。大阪で結成されてから2年弱、ユビキタスはSNSや動画サイトなどで知名度を高め、ライヴの動員も急上昇中のバンドだ。
「初めてのスタジオで、すぐに曲が出来たんですよ。高校生の文化祭みたいな、〈何かやろうぜ!〉という感覚がめちゃ楽しかったのを覚えてます」(イシカワヨシノリ、ベース)。
イシカワはメロコア、ドラムスの北原弘規はパンクからEDMまでアガる曲なら何でも。そしてソングライターの黒田保輝(ヴォーカル/ギター)はミクスチャーやV系などを一通り通過しつつも、曲作りに影響を受けたアーティストは特にいないと言う。創作の秘密はブラックボックスの中だが、これほどキャッチーなメロディーを量産できるところを見ると、只者でないことだけは確実だ。
「そのときに一番歌いたいメロディーをそのまま出す、という感じです。リズムとメロディーが浮かんで、同時に歌詞も書くので、曲作りは早いと思いますよ。曲を書いてないと不安になるタイプなので、常に書いてます」(黒田)。
セカンド・ミニ・アルバム『奇跡に触れる2つの約束』には、前作から8か月間のバンドの成長を記した8曲を収録。何かいいことの始まる予感が溢れるポップ・チューン“イコール”に始まり、端正な4つ打ちと情熱的なサビの展開に胸躍るリード・トラック“パラレルワード”を中心に、お祭りノリのダンス・ナンバー、ギターのワンフレーズをフィーチャーした穏やかなミディアムなど、カラフルなアイデアを散りばめて、切なさ満開のラスト“発明品”まではあっという間だ。
「いままで触れたことのないスタイルに挑戦したアルバムでもあるので、自分としては新しい領域を開拓できたかなと思います。我ながら、素晴らしいアルバムです!」(北原)。
「歌詞には特にこだわりました。最初はいつも、ライヴハウスに足を運んでくれる人に元気を与える歌詞を書こうと思うんですけど、突然すごい空想の世界がやってきて、混ざり合って、最終的にまたお客さんのほうに帰っていったり、空想で終わったり。相手によって捉え方が変わるようにしたいので」(黒田)。
裏に意味を隠すのが好きだという黒田の、リアルとヴァーチャルを行き来する鮮やかな言葉遣いの妙技。夢見がち──? そう聴こえるかもしれないが、聴き込むほどに現実の手触りが生々しく浮かび上がる。ユビキタスがめざすものは明確だ。
「ライヴハウスで僕らが全力でやる30分間に対して、お客さんも素直に表現してもらいたいんですよ。涙が出そうなら泣いてほしいし、楽しかったら手を挙げてほしい。ただそこだけを考えてますね。〈素直になれよ〉と。ユビキタスというバンド名の意味もそこにあるんです。すべての人が誰も無理せず、素でいられる空間を与えたいんですよね」(黒田)。
▼関連作品
ユビキタスの2014年のミニ・アルバム『リアクタンスの法則』(ROCKBELL)
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