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Alright

原田卓也(Takuya Harada)が作詞・作曲・編曲を担当したアルバムの2曲目で、2分48秒という長さの、すっきりした短めな曲。

華麗なエレクトリックピアノや抑制的なファンクギターのリフ、間奏のサックス、コード感などは70~80年代アメリカのAORやブルーアイドソウル、何よりそれらから影響を受けた日本のシティポップを思わせるが、ノスタルジックなムードが希薄で現代的だ。というのも全体的なノリが、現在進行系のバンドがよく演奏するようなネオシティポップ調だからだろう。ダンスミュージックを思わせる4つ打ちのダンサブルな感覚や反復感が強調されており、かなり軽快なのだ。

一方で、1番のサビを終えて間奏もなく2番のAメロに突き進んでいく52秒から、ぶわーんと歪んだシンセベースが広がっていく。シンセサイザーのシーケンスも付随しており、ここではエレクトロニック/ダンスミュージックっぽい表情を一瞬だけ見せ、4つ打ちのノリとのマリアージュを見せる。この2番のAメロは、メインの松村北斗と高音でハモるジェシーが声を重ねるボーカル、田中が入れ込む〈「投げやりなんかじゃない」〉というフレーズ、京本大我(メイン)と髙地優吾(高音のハモり)の伸びやかで力強い歌唱とバックのサウンドとの対比も印象的だ。

 

アンセム

アルバムのリード曲である3曲目。作詞・作曲はUNIONEのYUUKI SANOのほか、Hayato YamamotoとYUKI (2D)、編曲はHayato Yamamotoだ。

サッカースタジアムでのチャントを思わせる〈Wow...〉というフレーズを含む全体的なムードは、クイーンの“We Will Rock You”(77年)からDragon Ashの“Fantasista”(2002年)、そして国内シーンのトップランナーであるKing Gnuの“Stardom”(2022年)までを想起させる。またKing Gnuのほかに、メロディや譜割り、ギターのフレーズには米津玄師の“ピースサイン”(2017年)や“LOSER”(2016年)などからの影響が窺えるが、エレクトロニックでありながらもロックやファンクが入り混じったハイブリッドな感覚はジャンル分け不能で、〈◯◯風〉と一言でいえないユニークさが魅力だ。

とにかく曲の展開が激しく、めまぐるしく変化していく様がドラマティックである。1番はエレクトロファンクっぽいが、サビでは性急な譜割りの歌メロと対照的にヘビーでメタリックなギターリフが響く。

さらに2番では、トラップに突然なるのが驚きだ。ここでうっすらと聞こえる独特な高音のフレーズは〈Ironside Siren〉、または〈Kill Bill Siren〉として知られるもの。これは、クインシー・ジョーンズ御大が音楽を担当したドラマ「鬼警部アイアンサイド」(67年~75年)のテーマ曲(下掲の動画)を映画「キル・ビル」(2003年)でクエンティン・タランティーノ監督が使用して再び有名になったもので、トラップ界のトッププロデューサーチームである808マフィアなどがたびたび引用し、ヒップホップの曲の定番フレーズになっている。また、この部分では琴のような音色で踊るオリエンタルなフレーズも中毒性が高いが、圧倒的なのは、ジェシーが喉を狭めたようなストレンジな発声でぶち上げる早口ラップだ。

2番のサビを終えたあとのCメロでは、音数が減って浮遊感のあるサウンドに変化し、松村が美麗な歌とメロディでアクセントをつけ、森本慎太郎と髙地のアグレッシブなラップ、そしてリバーブの効いたドラムが加わり、スタジアムロック度が増す。そして京本が〈Wow〉と伸びやかに歌い上げて解放していく様が、いかにも清々しい。

その後、イントロの〈Wow...〉の反復に舞い戻り、歓声を交えてスタジアムの響きを再現したパートでは、〈Come on!〉〈Put your hands up!〉といった巻き舌を駆使した掛け声、ヒップホップで言うところの〈アドリブ〉が実にかっこいい。そこを経て駆け上がったラスサビでは、ドラムがテンポを倍でとるパンク的なプレイになり、聴いていて圧倒される。

とにかく驚きの展開が最後まで続く、非常にドラマティックな曲だ。本作のリード曲にふさわしい。