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インタビュー

haruyoi、儚い幸福の音と歌を求めて――梅井美咲と菅野咲花が背景から結成、アルバム制作までを語ったロングインタビュー

haruyoi『euphoria』

(左から)菅野咲花、梅井美咲

ピアニストの梅井美咲とシンガーの菅野咲花によるユニット、haruyoiがファーストアルバム『euphoria』を完成させた。2020年にコロナ禍下で結成された同ユニットはこれまで、EP『春宵』(2021年)とシングル“ひとりごと”(2022年)を世に送り出してきたが、初のアルバムではギタリストの井上銘とパーカッショニストのたいきめん(山崎大輝)をはじめ、一部楽曲でベーシスト/チェロ奏者の須川崇志とドラマーの橋本現輝も参加しており、歌とピアノを軸にしたユニットの音楽性はそのままに、これまでになく多彩で時にエクスペリメンタルな音響の面白味に満ちていると同時に、バンドアンサンブルならではの演奏性を湛えたサウンドも特徴的な作品となっている。いわばファーストアルバムにしてharuyoiはすでに進化を遂げたと言えばいいだろうか。そしてそのサウンドは、ふんだんに取り入れられたアドリブパートがあることはもちろん、ジャズミュージシャンによるアンサンブルなくしては生まれ得なかった歌モノ作品とも言えるように思う。

haruyoiとはどのようなユニットであり、歌モノでありながらジャズの魅力に溢れているのはなぜなのだろうか。その秘密を探るべく、『euphoria』リリース記念ツアー中の梅井美咲と菅野咲花に話を伺った。

haruyoi 『euphoria』 StyleBook(2023)

 

クラシックを学び、日常的な即興からジャズに至った梅井美咲

――最初にお2人それぞれの音楽的なバックグラウンドについて簡単にお伺いできればと思います。梅井さんは16歳でブルーノート東京に出演するなどジャズピアニストとして活動していますが、もともとクラシックを学んでいて、東京音楽大学では作曲指揮を専攻していますよね?

梅井美咲「そうです。しっかりと教養として身につけた感覚が強いのはどちらかといえばクラシックで、ジャズに関してはほぼ独学なんですね。北海道グルーブキャンプに参加したり、そこで受賞したことがきっかけでバークリー音楽大学に短期留学したり、あとジャズピアニストの若井優也さんのレッスンを1回だけ受講したり、機会に恵まれました。でも、本格的にジャズを学んできたわけではなくて。中学の時から和声学を勉強していたし、高校からクラシックの作曲を習い出したので、バックグラウンドとしてはジャズよりもクラシックの方が大きいんです」

――すると、ジャズはどのようなきっかけで興味を持つようになったのでしょうか?

梅井「もともと父がいろいろな音楽を聴いていて、その影響で幼少期にセロニアス・モンクを聴いたことがジャズに興味を持ち始めたきっかけでした。8歳の頃です。

それと、4歳からピアノ、6歳からエレクトーンを習っていたんですけど、クラシックピアノだと楽譜があって、その中でどのように自分の表現を落とし込むのか、ということが根底にありますが、私はせっかちな性格も相まって楽譜通りに弾くことが苦手でした。それをエレクトーンの先生が察知してくださって。

トゥーツ・シールマンスが好きな先生だったんですが、いろいろな面白い音楽を教えてくれたんです。チック・コリアとか、ロバート・グラスパーとか、あとテノーリオ・ジュニオルというブラジルのピアニストとか。当時はまだ今のようにストリーミングサービスがなかったから、TSUTAYAに行って借りてきたり、YouTubeで探して聴いたりしていました。そう、パット・メセニーもその先生に教えてもらって。それがきっかけで、芋づる式にいろんなジャズのアーティストを聴いていった記憶があります」

――ほぼ独学でジャズを学んだとのことですが、たとえばアドリブなどのスキルはどのように習得されましたか?

梅井「ジャズを学び出したのは高校生になってからです。でも、もともとクラシックピアノを習う前から、遊びで即興で弾くということをずっとやっていて。ご飯を食べるのと同じような感覚でやってたというか、すごく自分と距離が近いところに即興演奏がありました。その延長線上にジャズのアドリブがあるんです。

初めはジャズの語法は全然わからなかったですけど、とにかくたくさん好きな音楽家の演奏を聴き込みました。もともとやっていた即興演奏の遊びのような時期を経て、気がついたらジャズを演奏することに繋がっていったというか。だから、どうやってアドリブのスキルを習得したのかとかは、ハッキリとはわからないのが正直なところです」

――ジャズピアニストで特に研究したミュージシャンはいらっしゃいますか?

梅井「最近の話になりますけど、今、サリヴァン・フォートナーに入れ込んでいて。唯一無二のボイシングとタッチに特に惹かれます。サリヴァン・フォートナーはクラシックピアノの影響がすごく大きくて、私はやっぱり和声感にクラシックの素養を感じるに近いピアニストにときめくめく節があって。

例えばブラッド・メルドーもそのうちの一人です。『After Bach』(2018年)というアルバムがあって、J.S.バッハの『平均律クラヴィーア曲集』の曲とそこからインスパイアされたメルドーのオリジナル曲が収録されているソロ作なんですが、1〜2年ぐらい毎日のように聴き込んでいました。自分の音楽性に影響を与えてくれた音楽家の一人です。

『After Bach』を特に聴き込んでいたのは高校3年〜大学1年の頃です。ちょうど自分の強みがどこにあるのか模索していた時期で。私はもともとクラシックの作曲をやっていたので、和声法や対位法に取り組んでいる時に〈こういうことを自分のジャズ表現に活かせたらいいのにな〉と思っていて。そんな時にメルドーの音楽に出会って、〈私がやりたかったことの一つにこういう音楽があるのかもしれない〉と思いました」

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