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明日の古楽を担うスーパーソリスト軍団――ソロモンズ・ノット・バロック・ソロイスツ

 「古楽の分野も、いわゆるビッグネームが牽引してきた。だが彼らがいなくなった時、もっとメンバーが対等な、新しいスタイルの古楽団体が必要なのではないか」

 しばらく前、古楽をよく上演しているあるホール関係者から聞いた話である。

 それなら言おう。ソロモンズ・ノットがいる、と。

 ソロモンズ・ノット(〈ソロモンの結び目〉の意味)は、2008年にイギリスで結成された歌手と器楽奏者によるアンサンブルだ。指揮者をおかず、バス歌手のジョナサン・セルズが芸術監督を務める。1パート一人の形式で、皆が対等に渡り合う。ヨーロッパ各地で絶賛を浴び、2023年にはウイグモア・ホールのアーティスト・イン・レジデンスに任命されるなど大活躍だが、残念ながら日本での知名度はゼロに等しい。何度かドイツでバッハの受難曲の演奏に接したが、一人一人のプレイヤーの力量が極めて高いのに驚いた。普段は歌劇場の専属などを務めているソリストたちが平等にソロを担当し、コラールには全員が参加。と言っても“マタイ”でも全部で8人なのだが、そのコラールの1曲1曲がまた雄弁なのだ。上演に当たっては、当時礼拝の中で行われていたように、オルガン曲やモテットを受難曲の前後に演奏したり、演出家による〈演出〉をつける。昨年6月、創設15周年を記念してヨーロッパで行った“マタイ受難曲”ツアーでは、ジョン・ラ・ブシャルディエールがドラマトゥルグを担当。導入合唱で歌手たちが動揺しつつ入場してくるところから始まって、歌手同士から観客まで、参加者一人一人に今起こっている出来事の意味を問いかける受難のドラマが、客席を巻き込んで可視化された。

SOLOMON’S KNOT 『J.S.バッハ & J.C.バッハ:モテット集』 Prospero Classical(2023)

 ソロモンズ・ノットの力量は、この度リリースされた、バッハとヨハン・クリストフ・バッハ(バッハが尊敬していた父のいとこ)のモテット集でもよくわかる。ヴィブラートを抑えた声の群れはつやつやと澄み渡り、複雑な対位法もものともせずに低音から高音まで自在に動き回り、リピート部分には装飾が潜り込む。よりシンプルなクリストフ・バッハの作品では、縦に重なり合う声の響きがバロック・オルガンを彷彿とさせる。とはいえ発語や響きは柔らかいので、もっと聴いていたい心地よさに包まれる。来日公演が待たれる、古楽界のスーパーソリスト軍団である。