ロックとインド音楽とブレイクビーツの幸福な出合い

 欧米のロックとインド音楽とブレイクビーツの幸福な出合い。ギター、ベース、ドラムから成る3ピースバンド、グラス・ビームスの最新EP『Mahal』は、そんな形容が似合うミステリアスなサウンドが美点である。まず耳を惹くのが、エキゾティックで妖しげなギターのリフ。執拗に反復される呪術めいた旋律は、聴き手を心地よいトリップへと導くだろう。

 リーダーのラジャン・シルヴァは、1970年代後半にインドからメルボルンに移住してきた父親を持つ。彼の記憶の深層には、2002年にロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行われた、ジョージ・ハリソンへのトリビュート公演『Concert for George』の映像があった。その映像には、インドの英雄的シタール奏者ラヴィ・シャンカールとその娘のアヌーシュカが、エリック・クラプトン、ポール・マッカートニー、ELOのジェフ・リンらと共演していたという。彼が多種多様な音楽を養分としてきたのは、父親のレコード・コレクションの幅広さによって下支えされてきたのだ。

GLASS BEAMS 『Mahal』 Ninja Tune/BEAT(2024)

 その怪しげなヴィジュアル同様、タワーレコード限定国内盤CDでリリースされるEP『Mahal』は、謎めいた奥行きがあり、聴く度に新たな発見や驚きが待ち構えている。ティナリウェンをはじめとする砂漠のブルース勢とクルアンビンが衝突したような、変幻自在で摩訶不思議なサイケデリック感覚が本作にはあり、それでいて、決して過去の焼き直しやコピーではない。サイケもインド音楽もブルースもポスト・ロックも同一線上に捉え、あくまでも今の音楽として鳴らしている。

 インド音楽に耽溺していたジョージ・ハリソンが今も存命だったら、彼らの音楽の虜になっていたのではないか。そんな妄想も膨らむ。リリースは名門ニンジャ・チューンから。コールドカットが創設し、フローティング・ポインツやドリアン・コンセプトを輩出したレーベルから出るのに相応しい、そんな記念すべきEPである。