(左から)田辺和弘、田嶋真佐雄、瀬尾高志
©Shinya Fukumori

3人のコントラバス奏者の共通点は〈狂気的なロマンチスト〉であること!

 異なるジャンルで活躍している3人のコントラバス奏者、田辺和弘(タンゴ、クラシック)、瀬尾高志(ジャズ)、田嶋真佐雄(即興)による〈The Bass Collective〉がデビューアルバム『瞬く森』を発表した。3人はコントラバス奏者・齋藤徹をきっかけに出会い、氏が逝去した2019年にこのユニットを結成、以後ライヴを重ねてきた。今回のアルバムには3人がそれぞれ作った楽曲と即興、そして齋藤徹の名曲“タンゴ・エクリプス”が収録されている。

The Bass Collective 『瞬く森』 nagalu(2024)

 筆者は3月2日にソノリウムで開催された発売記念ライヴを聴いた。彼らのバックグラウンドが異なるからだろうか。同じ楽器といえども、馴れ合いのようなものは感じられない。むしろ、剣術の居合のように張り詰めた緊張感がホールを満たす。異なるもの同士が遠慮なくぶつかりあうエネルギーはあまりに大きい。この怖いほどの空気は、今回のCDを通してもよく伝わってくる。

 だけれども一方で、双方向的なコミュニケーションの結果としての豊かさも感じ取れる。はたして3人の共通点とはなんだろうか。 瀬尾は「やはりベーシストであること」だと言う。ベーシストとは「ジャンルの垣根を超えて、他の楽器をどう活かすか、いまこの音楽に必要なことは何か、ということを常に考えているひとたち」であると。だからこそ、今にも切り掛かりそうな緊張感がありつつも、ひとつの音楽として聴き手を魅了するのだろう。さらにこの3人に共通するのは「狂気的なロマンチスト」であることらしい。それについて田嶋は「見たことのない景色を音楽で見たい、しかしそれは緊張感や勇気がないとむずかしい」「彼らのことは信頼している。だからこそ〈タガを外す〉ことができる」と言う。また、田辺は「わたしたちは音楽から与えられる喜びの中毒者なのです」と言う。彼らの音楽には強烈な個性があるけれども、それをもっとも享受しているのは彼ら自身なのかもしれない。わたしたちは、彼らが見た景色、与えられた喜びという常ならざるものを、彼らの音楽を通して、肌に感じることができる。

 今後の大きな目標は、国際ベーシスト協会(アメリカ)のコンベンションで演奏することらしい。3人はかつてここに〈弦311〉として齋藤徹と共に出演した。コントラバスの可能性を追求する〈The Bass Collective〉の音楽が、世界中のベーシストを刺激し、ジャンルを超えてバンドやアンサンブルを豊かにしていく日が待ち遠しい。そんなことを期待させるCDである。

 


INFORMATION
YouTube:https://www.youtube.com/@TheBassCollective2019/videos
X(旧Twitter):@Doublebassunit
nagaluレーベル公式ページ:https://www.nagalu.jp/